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放課後にて 9

 ある日の放課後。


「ミーンミンミンミン」


 涼香は窓の外を向きながらミンミンゼミの真似をしていた。


「ジリジリジリジリジリ」


 その隣では若菜わかながアブラゼミの真似をしており――。


「カナカナカナカナ」

「ツクツクオーシツクツクオーシ」


 などと、クラスメイトが一丸となって蝉の鳴き声を真似ていた。


 そんな教室内を恐ろしいものを見たような表情で見ているのは菜々美ななみである。菜々美はとりあえずここねだけを避難させていた。


 終礼が終わり、ここねを迎えに行こうとこのクラスにやって来た時、ちょうど涼香が「鳴いているのがクマゼミだけでは味気ないわ」などとほざいてこうなった。


 最初はクラス内の空気はいつも通り、なに言ってんだコイツ、というものだったのだが、涼香がミンミンゼミの真似をすると、催眠にかかったかのように蝉の鳴き声を真似しだしたのである。


「菜々美ちゃん……」


 菜々美の腕の中にいるここねが不安げな表情を浮かべる。早くどうにかしないといけない。菜々美は焦る気持ちを落ち着けながらどうするべきかを考える。


「なんですか……これ……?」


 そしてちょうどその時、涼音すずねが三階までやって来た。


「涼音ちゃん! よかった、来てくれた」


 これでこの異様な光景が終わるだろう。


「また先輩がなにかやらかしたんですね」


 涼音は呆れた声でそう言って教室内に入って行く。


「先輩帰りますよ」


 涼香の肩を揺らす涼音。


「おーい、せんぱーい」


 全く動じない涼香。涼音が揺らしても窓の外へ向かって鳴き続ける。


「先輩! もうっ」


 涼音は涼香の肩を前からペシンっと叩いてみる。すると涼香がクルっと九十度。涼音の方を見る。そしてガバッと木にしがみつくように、涼音に抱き着く。


「ミーンミンミンミン」

「「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」


 涼音と菜々美の絶叫が、学校を揺らすのだった。

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