ある日の放課後。
「ミーンミンミンミン」
涼香は窓の外を向きながらミンミンゼミの真似をしていた。
「ジリジリジリジリジリ」
その隣では
「カナカナカナカナ」
「ツクツクオーシツクツクオーシ」
などと、クラスメイトが一丸となって蝉の鳴き声を真似ていた。
そんな教室内を恐ろしいものを見たような表情で見ているのは
終礼が終わり、ここねを迎えに行こうとこのクラスにやって来た時、ちょうど涼香が「鳴いているのがクマゼミだけでは味気ないわ」などとほざいてこうなった。
最初はクラス内の空気はいつも通り、なに言ってんだコイツ、というものだったのだが、涼香がミンミンゼミの真似をすると、催眠にかかったかのように蝉の鳴き声を真似しだしたのである。
「菜々美ちゃん……」
菜々美の腕の中にいるここねが不安げな表情を浮かべる。早くどうにかしないといけない。菜々美は焦る気持ちを落ち着けながらどうするべきかを考える。
「なんですか……これ……?」
そしてちょうどその時、
「涼音ちゃん! よかった、来てくれた」
これでこの異様な光景が終わるだろう。
「また先輩がなにかやらかしたんですね」
涼音は呆れた声でそう言って教室内に入って行く。
「先輩帰りますよ」
涼香の肩を揺らす涼音。
「おーい、せんぱーい」
全く動じない涼香。涼音が揺らしても窓の外へ向かって鳴き続ける。
「先輩! もうっ」
涼音は涼香の肩を前からペシンっと叩いてみる。すると涼香がクルっと九十度。涼音の方を見る。そしてガバッと木にしがみつくように、涼音に抱き着く。
「ミーンミンミンミン」
「「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」
涼音と菜々美の絶叫が、学校を揺らすのだった。