ある日のこと。
「せんぱーい」
湯船にちゃぷちゃぷ浸かっていた
「どうしたの?」
身体を洗う用のタオルにボディソープをプッシュプッシュしながら涼香が反応を返す。
「背中流しましょうか?」
「丁重にお断りするわ」
即答だった。
「なんでですか?」
涼音の疑問に涼香は呆れたように答える。
「知っているでしょう? 私は脇腹が弱いのよ」
「そうでしたっけぇ?」
対する涼音はなぜか半笑いで言葉を返す。
ハッとした涼香は慌てて身体を抱きしめて涼音を睨みつける。
涼音は両手で滑らかに空間を撫でていた。直接身体を触られているわけではないのだが、なぜかムズムズしてしまう。
「ちょっと……ふふっ、やめなさいよ……!」
「ええー? じゃあ背中流してもいいですかぁ?」
「嫌よ」
いたずらな笑みを浮かべる涼音に負けじと、涼香は断固拒否の姿勢で挑む。
しかし、このまま身体を洗ってしまうと隙ができてしまいそうで、涼香はなかなか身体を洗うことができなかった。
二人は睨み合う。その間も涼音の手は動いていた。
目に涙を溜めながらも涼香は抵抗する。
「ぷっ、涼音の意地悪……‼」
「さあ先輩。大人しく背中を流させてください! さもないと浴槽内でくすぐりますよ」
その瞬間涼香は動きを止める。そしてスーパーコンピューター並みの処理速度で計算を開始する。
涼音は『背中を流す』と言っているだけでくすぐるとは一言も言っていない。背中を流されるとくすぐったいのだが、くすぐられるよりもマシだ。しかし断るとどうだろうか? 浴槽に入った瞬間宣言通りくすぐられてしまう。そうなれば選ぶべきは単純明快。
「分かったわ」
涼香は潔く涼音に背中を流してもらうことにするのだった。