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お風呂にて 2

 ある日のこと。


「せんぱーい」


 湯船にちゃぷちゃぷ浸かっていた涼音すずねが、浴槽の縁に顎を乗せて涼香りょうかを呼ぶ。


「どうしたの?」


 身体を洗う用のタオルにボディソープをプッシュプッシュしながら涼香が反応を返す。


「背中流しましょうか?」

「丁重にお断りするわ」


 即答だった。


「なんでですか?」


 涼音の疑問に涼香は呆れたように答える。


「知っているでしょう? 私は脇腹が弱いのよ」

「そうでしたっけぇ?」


 対する涼音はなぜか半笑いで言葉を返す。


 ハッとした涼香は慌てて身体を抱きしめて涼音を睨みつける。


 涼音は両手で滑らかに空間を撫でていた。直接身体を触られているわけではないのだが、なぜかムズムズしてしまう。


「ちょっと……ふふっ、やめなさいよ……!」

「ええー? じゃあ背中流してもいいですかぁ?」

「嫌よ」


 いたずらな笑みを浮かべる涼音に負けじと、涼香は断固拒否の姿勢で挑む。


 しかし、このまま身体を洗ってしまうと隙ができてしまいそうで、涼香はなかなか身体を洗うことができなかった。


 二人は睨み合う。その間も涼音の手は動いていた。


 目に涙を溜めながらも涼香は抵抗する。


「ぷっ、涼音の意地悪……‼」

「さあ先輩。大人しく背中を流させてください! さもないと浴槽内でくすぐりますよ」


 その瞬間涼香は動きを止める。そしてスーパーコンピューター並みの処理速度で計算を開始する。


 涼音は『背中を流す』と言っているだけでくすぐるとは一言も言っていない。背中を流されるとくすぐったいのだが、くすぐられるよりもマシだ。しかし断るとどうだろうか? 浴槽に入った瞬間宣言通りくすぐられてしまう。そうなれば選ぶべきは単純明快。


「分かったわ」


 涼香は潔く涼音に背中を流してもらうことにするのだった。

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