* * *
「神器を探せ」
あの怪しい人物の言葉が、頭の中で繰り返される。
ヤトを助けるには、神器が必要?
でも、神器って何?
一体どこにあるの?
疑問ばかりが膨らんで、答えはどこにもない。
「……とにかく、調べるしかないよね」
私はスマホを取り出し、昨日起こった出来事を整理しながら、神社の歴史について調べ始めた。
けれど、すぐに分かるような情報はない。
この神社のことをもっと知るには、専門的な資料を見るしかないかもしれない。
そんな考えが浮かび、私は地元の図書館へ向かうことにした。
* * *
図書館に到着すると、私はすぐに検索機を使って 「夜刀神」「封印」「神器」などのキーワードで資料を探した。
けれど、それらに関する本はほとんど見つからない。
「……やっぱり、簡単には見つからないか」
ため息をつきかけた、その時――
「夜刀神伝説」 というタイトルの古い資料が目に入った。
私は急いで手に取り、慎重にページをめくる。
――『夜刀神は、かつて人々を守る神であった。しかし、その力を恐れた者たちによって封印され、その封印を解く鍵となるのが "五つの神器" である』――
「……五つの神器……?」
さらに読み進めると、こう記されていた。
『神器を扱えるのは、神と"契約"を交わした者のみ。すべてを集めし者は、封印を解く力を手にする。だが、神器を集めた者の多くは、その先で"何か"を知り、行方を絶ったという――』
「……行方を絶った……?」
私は眉をひそめる。
"その先に待つものは、決して幸福だけとは限らない"
昨日、あの怪しい人物が言っていた言葉が蘇る。
神器を集めることは、ただの旅ではない。
何か大きな"代償"があるかもしれない――
考え込んでいると、不意に背後から声がした。
「おや、そんな古い資料を読むなんて珍しいね」
振り向くと、図書館の司書らしき男性が立っていた。
眼鏡をかけた、落ち着いた雰囲気の男性。
「夜刀神伝説に興味が?」
「え、あ、はい……」
「その話は、この地方ではかなり古い伝承だよ。ただし、あまり語られることはなかったがね」
私はドキリとする。
「どうして、ですか?」
彼は少し考えてから、静かに言った。
「"神器を探した者"は、過去にも何人かいた。
けれど、誰一人として帰ってこなかったんだよ」
「……え?」
「理由は分からない。だが、それだけは確かなんだ」
私は息をのむ。
「……それでも、君は進むつもりか?」
私は少しだけ迷った。
だけど――
「……私が進まなきゃ、ヤトは助からない」
迷いを振り切るように、拳をぎゅっと握る。
「どうしても知りたいなら……本当に、この道を進む覚悟があるのなら…… 君自身が確かめてみるといい」
司書の男性は、穏やかな笑みを浮かべながらそう言い残した。
けれど、その言葉にはどこか含みがあるように思えた。
私はぐっと拳を握る。
確かめる? どうやって?
封印の秘密を解き明かすには、もっと情報が必要だ。
そう考えたとき、ふと彼の机の上に置かれた古びた神社の絵図が目に入った。
「それ……」
思わず声をかけると、彼は私の視線を追い、微笑んだ。
「これかい? この地方に伝わる古い神社の記録だよ。この中には、夜刀神にまつわる伝承が残る神社もあるかもしれない」
私は息を呑んだ。
「それ、見せてもらえませんか?」
彼は少し考えたあと、小さく頷いた。
「いいだろう。ただし、慎重に扱ってくれたまえ」
そう言って、彼は古びた絵図をそっと広げて見せてくれた。
そこには、夜刀神の封印された 「夜刀神社」 以外にも、いくつかの重要な神社の名前が記されていた。
「……ここに、神器の手がかりが?」
私は、震える指でその地図をなぞる。
その中の一つに、妙に視線が引き寄せられる神社があった。
まるで、そこに導かれているような感覚。
心臓が高鳴る。
「まずは……ここに行ってみよう」
私は決意し、地図をしっかりと頭に刻み込んだ。
* * *
――第4話・完――