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第5話 「最初の手がかり・導かれた神社」

* * *


 ジャリ……ジャリ……


 砂利道を踏みしめながら、私は 夜刀神社 の境内を進んでいた。


 ここは昨日訪れた 蛇ノ社 とは違う神社。

 夜刀神の伝承を調べた結果、辿り着いたのが この夜刀神社 だった。


 ――「封印を解く鍵は神器」


 昨夜、神社で出会った謎の男はそう言った。

 でも、それが何なのかは教えてくれなかった。

 ただ、この 夜刀神社の奥 に、 「封印の間」と呼ばれる場所がある という記述を見つけた。


 「もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない……」


 そう思い、私はこの神社にやってきた。


 鳥居をくぐると、境内にはほとんど参拝客の姿はなかった。

 社殿の前には数人の観光客がいる程度で、どこか静かな空気が漂っている。


 「……こんなにひっそりしてるんだ」


 朱色の鳥居や社殿は綺麗に手入れされている。

 でも、何かが違う。


 ――まるで、「特別な人」しか来ない場所のような。


 私は境内を歩きながら、 奥社の方へ視線を向けた。

 そして――そこに 「封印の間」 と書かれた看板を見つける。


 「……封印の間?」


 社務所の近くに設置された案内板には、こう書かれていた。


 『封印の間:かつて夜刀神を祀っていた場所。 立ち入りは関係者以外禁止』


 「……関係者以外、禁止?」


 当然だ。いきなり立ち入っていい場所ではない。

 でも、私の胸の中には 奇妙な感覚 があった。


 ――まるで、「ここに来るべきだ」と導かれているような。


 迷いながらも、私は そっと奥へと足を向けた。


* * *


 奥へ進むと、周囲の空気が一変する。


 参道の途中、鳥居をくぐった瞬間、まるで 別世界に迷い込んだ ような感覚に襲われた。

 空気がひんやりとして、周囲の音が遠のく。そして目の前に現れたのは、 石造りの祠 。古びた木札には、確かにこう書かれていた。


 『封印の間』


 「……これが、封印の間?」


 結界のような不思議な空気が漂い、古びた扉が ギィ…… と不気味な音を立てて開く。


 中に足を踏み入れた瞬間――


 世界が暗転した。


* * *


 「……え?」


 気がつくと、私は 昔の神社の境内 に立っていた。


 透き通る青空。

 頬を撫でる優しい風。

 鳥居の向こうには、見慣れた光景が広がっている。


 でも―― 何かが違う。


 私はゆっくりと周囲を見渡した。


 ――ジャリ……ジャリ……


 足元の砂利を踏む音が、やけに鮮明に響く。

 まるで、「ここに閉じ込められた」かのように。


 「これは……夢?」


 そう思った瞬間、懐かしい声 が聞こえた。


 「ゆず」


 ――ヤトの声。


 驚いて振り向くと、そこには 幼い頃のヤト がいた。


 銀髪に金色の瞳。

 白蛇を肩に乗せた、あの頃のままの姿。


 「ヤト……?」


 私は思わず駆け寄る。


 でも――


 「誰?」


 ヤトは、きょとんと首を傾げた。


 「……え?」

 「ボクのこと、知ってるの?」


 その言葉に、胸がざわめく。

 何かが おかしい。


 「ヤト……だよね?」

 「ボク? ううん、違うよ」


 ヤトはにこりと笑った。


 「ボクは、この神社に住む神様」

 「……え?」

 「君は誰? ここで何をしているの?」


 ヤトの表情は穏やかで、まるで本当に 私のことを知らない かのようだった。


 「嘘……でしょ?」


 私は、再び周囲を見渡す。

 空は澄み渡り、風は心地よく吹き抜けている。

 だけど―― 異様な違和感が拭えない。

 まるで、ここが 作り物の世界 であるかのように。


* * *


 「……これ、幻覚?」


 私は考え込む。

 試練――もしこれが試練なら、私は 何をすればいい?

 その時、ふと気づいた。

 この世界には、「時間の流れ」がない。

 風も、葉の揺れ方も、すべてが 同じ動きを繰り返している。

 まるで、閉じ込められた ループの世界 。


 「……ここから出なきゃ」


 私は、ヤトに向き直った。


 「ヤト……本当は、私のこと知ってるでしょ?」


 ヤトは困ったように微笑む。


 「ごめんね、ボクは君を知らないよ」

 「嘘だよね?」


 私はじっとヤトを見つめる。

 すると――

 ヤトの 金色の瞳が、一瞬だけ揺らいだ。


 「……」


 私は確信した。


 これは試練。

 この幻覚を 破らなければ、私はここから出られない。


 「ヤト」


 私は、強く呼びかける。


 「私と約束したでしょ?」

 「……約束?」


 ヤトの表情が、一瞬だけ曇る。


 「覚えてるよね? 昔、私たち……」


 記憶をたどる。

 私は何を、ヤトと約束した?

 その瞬間――


 『約束を、果たしにきた?』


 あの時のヤトの声が、脳裏に蘇る。


 「――そうだ」


 私は思い出した。


 ヤトは、待っていた。

 ずっと、ここで。


 「ヤト、私は……!」


 そう言おうとした瞬間――


 バキンッ!


 世界が砕ける音がした。


* * *


 「――っ!」


 私は 現実へと引き戻された。

 目の前には、巻物を抱えたまま倒れている自分。


 「は……夢じゃ、なかったんだ……」


 息を整えながら、私はゆっくりと体を起こす。

 巻物は 私の手の中 にあった。

 それが、この試練の証。


 「これが、神器の手がかり……?」


 試練は、まだ始まったばかりだ。


* * *


――第5話・完――




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