* * *
「……なるほど。神器はそれぞれの神社に祀られている、と」
図書館での調査を終え、私は建物を出た。
手には、司書さんから教えてもらった神社に関する資料がある。
暁ノ宮、蒼龍、白嶺、黒耀――
それぞれの神社には「守護者」と呼ばれる存在がいて、試練を乗り越えた者だけが神器を手にすることができる。
「……簡単にはいかなそうだなぁ」
改めて気を引き締める。
でも、どんな試練が待ち受けているのかは、実際に行ってみないと分からない。
それに――
「……蛇ノ社に行ってみよう」
私は歩きながらスマホを確認する。時刻は夕方。
少し日が傾きかけているが、まだ明るい。
図書館で手に入れた情報を整理するためにも、ヤトに会って話してみたかった。
昨日、夜刀神社の試練を終えたことで、何か変化があったかもしれない。
そう思うと、自然と足が向いていた。
* * *
蛇ノ社に到着し、鳥居をくぐる。
神社は相変わらず静かで、木々の葉が風にそよぐ音だけが響いている。
境内を進み、封印の石碑の前に立つ。
――ジャリ……ジャリ……
足元の砂利を踏む音が、妙に響く。
昨日と同じ場所なのに、どこか違う雰囲気を感じる。
「……ヤト?」
そっと呼びかける。
すると――
金色の光がふわりと広がった。
その光の中から、銀髪の少年が現れる。
「……ゆず!」
嬉しそうに駆け寄ってきてギュッとしがみついてくるヤト。ぱっと顔を上げ、瞳を輝かせる。
「やっぱり来てくれたんだね!」
「うん。昨日の試練のあと、何か変化があったか気になって」
そう言いながら、ヤトをじっと見る。
「……なんか、昨日より元気そう?」
「うん! なんだか分からないけど、少し楽になった気がする!」
「……それって、封印が弱まってるってこと?」
ヤトは首をかしげながらも、「そうかも!」と嬉しそうに笑う。
「試練を受けると、ヤトに影響があるのかな」
私は巻物を見せながら、今日知ったことを話す。
「神器を集めれば、ヤトの封印を解くことができるって分かったんだ」
「そっか……! じゃあ、ボク、もうすぐ自由になれるの?」
「うん。まだ道のりは長いけど、絶対に助ける」
そう言って笑いかけると、ヤトの顔がぱぁっと明るくなる。
「ゆず……ありがとう!」
――可愛い。
ついつい頭を撫でてしまう。
昨日と同じように、無邪気に笑うヤト。
ちょっと子犬みたいだ。
「ねえねえ、今日はもう帰っちゃうの?」
「うん、もう夕方だからね」
「そっかぁ……」
ヤトは少ししょんぼりする。
「でも、また来るよ」
「ほんと?」
「もちろん!」
そう言うと、ヤトは満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、約束ね!」
小さな手を差し出され、私は微笑みながらその手を握った。
「約束」
ヤトは嬉しそうに頷く。
「ボク、ここで待ってるからね!」
「うん、また来るよ」
名残惜しそうに見送るヤトに手を振り、私は蛇ノ社を後にした。
* * *
帰り道、ふと空を見上げる。
夕焼けが空を染め、優しい風が頬を撫でる。
「……よし」
次の目的地は決まっている。
私は再び決意を固め、家路を急いだ。
* * *
――第8話・完――