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第8話 「ヤトの変化」

* * *


 「……なるほど。神器はそれぞれの神社に祀られている、と」


 図書館での調査を終え、私は建物を出た。

 手には、司書さんから教えてもらった神社に関する資料がある。


 暁ノ宮、蒼龍、白嶺、黒耀――

 それぞれの神社には「守護者」と呼ばれる存在がいて、試練を乗り越えた者だけが神器を手にすることができる。


 「……簡単にはいかなそうだなぁ」


 改めて気を引き締める。

 でも、どんな試練が待ち受けているのかは、実際に行ってみないと分からない。


 それに――


 「……蛇ノ社に行ってみよう」


 私は歩きながらスマホを確認する。時刻は夕方。

 少し日が傾きかけているが、まだ明るい。


 図書館で手に入れた情報を整理するためにも、ヤトに会って話してみたかった。

 昨日、夜刀神社の試練を終えたことで、何か変化があったかもしれない。

 そう思うと、自然と足が向いていた。


* * *


 蛇ノ社に到着し、鳥居をくぐる。

 神社は相変わらず静かで、木々の葉が風にそよぐ音だけが響いている。


 境内を進み、封印の石碑の前に立つ。


 ――ジャリ……ジャリ……


 足元の砂利を踏む音が、妙に響く。

 昨日と同じ場所なのに、どこか違う雰囲気を感じる。


 「……ヤト?」


 そっと呼びかける。


 すると――


 金色の光がふわりと広がった。

 その光の中から、銀髪の少年が現れる。


 「……ゆず!」


 嬉しそうに駆け寄ってきてギュッとしがみついてくるヤト。ぱっと顔を上げ、瞳を輝かせる。


 「やっぱり来てくれたんだね!」


 「うん。昨日の試練のあと、何か変化があったか気になって」


 そう言いながら、ヤトをじっと見る。


 「……なんか、昨日より元気そう?」


 「うん! なんだか分からないけど、少し楽になった気がする!」


 「……それって、封印が弱まってるってこと?」


 ヤトは首をかしげながらも、「そうかも!」と嬉しそうに笑う。


 「試練を受けると、ヤトに影響があるのかな」


 私は巻物を見せながら、今日知ったことを話す。


 「神器を集めれば、ヤトの封印を解くことができるって分かったんだ」


 「そっか……! じゃあ、ボク、もうすぐ自由になれるの?」


 「うん。まだ道のりは長いけど、絶対に助ける」


 そう言って笑いかけると、ヤトの顔がぱぁっと明るくなる。


 「ゆず……ありがとう!」


 ――可愛い。

 ついつい頭を撫でてしまう。

 昨日と同じように、無邪気に笑うヤト。

 ちょっと子犬みたいだ。


 「ねえねえ、今日はもう帰っちゃうの?」


 「うん、もう夕方だからね」


 「そっかぁ……」


 ヤトは少ししょんぼりする。


 「でも、また来るよ」


 「ほんと?」


 「もちろん!」


 そう言うと、ヤトは満面の笑みを浮かべる。


 「じゃあ、約束ね!」


 小さな手を差し出され、私は微笑みながらその手を握った。


 「約束」


 ヤトは嬉しそうに頷く。


 「ボク、ここで待ってるからね!」


 「うん、また来るよ」


 名残惜しそうに見送るヤトに手を振り、私は蛇ノ社を後にした。


* * *


 帰り道、ふと空を見上げる。

 夕焼けが空を染め、優しい風が頬を撫でる。


 「……よし」


 次の目的地は決まっている。

 私は再び決意を固め、家路を急いだ。


* * *


――第8話・完――


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