* * *
――カタン。
机の上にそっと本を置き、私は深く息を吐いた。
「……やっぱり、それらしい情報はないか」
翌日、私は地元の図書館へとふたたび足を運んでいた。
夜刀神や封印のこと、神器について詳しく知るために、頼れる人は 司書のおじさん しかいない。
けれど、いくら調べても、どの書物にも「神器」についての具体的な記述はなかった。
「おや? 昨日の子だね、また来たのかい」
不意に、優しげな声がかけられる。
顔を上げると、眼鏡をかけた司書の男性が立っていた。昨日、私に夜刀神の伝承を教えてくれた人物だ。
「おはようございます」
「おはよう。そんなに熱心に調べ物とは……なにか気になることでも?」
彼の穏やかな口調に、私は迷った末、意を決して話すことにした。
「……実は、神器について知りたいんです」
彼の表情が、一瞬だけ変わる。
まるで、私の言葉が 予想外だった かのように。
「神器……か」
そう呟いたあと、彼は少し考え込むように顎に手を当てた。
「なるほど。それはまた、興味深いものを探しているね」
「司書さん、何か知ってるんですか?」
彼は微笑みながら、私の問いに答えた。
「確かに、神器についての伝承はこの地方にも残っている。だが、それは単なる伝説だとされてきた」
「伝説……」
「例えば、夜刀神の封印を解くには 五つの神器 が必要だと言われているが……その存在を確かめた者はいない」
「五つの神器……やっぱり、間違いじゃなかったんだ」
私は手元の 巻物 を握りしめる。
すると、彼はふと私の手元に視線を移した。
「それは……?」
「……昨日、夜刀神社で手に入れたものです」
彼の表情が、一瞬だけ険しくなる。
「夜刀神社……君が、"試練" を受けたということか?」
「……え?」
私は驚き、思わず問い返した。
「"試練"……って? "試練"があること知っていたんですか!?」
「神器を探す者には、"選ばれた者" にだけ与えられる試練がある」
彼はゆっくりと椅子に座り、慎重に言葉を選ぶように続けた。
「君は……夜刀神と"契約"を結んだのか?」
「えっ」
私は戸惑う。
「契約って……そんなつもりは……」
でも、思い返せば、私は幼い頃 ヤトと約束を交わしている。
"また会おう" という、たった一言。
それが、何か意味を持つものだったのだろうか?
「……私は、ただヤトを助けたくて……」
「そうか」
彼は静かに頷くと、ゆっくりと本棚の奥へ向かった。そして、古びた書物を取り出し、私の前に置く。
「この本に、神器の伝承 について記されている」
私は急いでページをめくる。
すると、そこには 四つの神社の名前 が記されていた。
「……暁ノ宮、蒼龍、白嶺、黒耀……」
「これが、"四神の神器" を守る神社だ」
やっぱり、私が夜刀神社で手にした巻物に載っている地図と同じだ。
「司書さん……この4つの神社に行けば、神器があるってことでしょうか?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
「……どういう意味ですか?」
彼は少し目を細める。
「神器はただそこにあるのではなく、"選ばれし者" が試練を乗り越えなければ手にすることはできない」
私は息を呑んだ。
夜刀神社での試練のように……?
「そして、君が目指している '封印の間' の秘密を解くには、すべての神器を揃えなければならない」
「……ただし、"そこに至るまで" に、君が何を選ぶかが問われることになるだろう」
「やっぱり……」
「だが、それだけではない」
「……?」
「四つの神器を揃えた者には、最後の試練が待っている」
「最後の試練……?」
彼は、私の目をじっと見つめる。
「君は……本当に、この道を進む覚悟はあるのか?」
その問いに、私は迷いなく頷いた。
「ヤトを助けるためなら、どんな試練でも受けます」
彼はしばらく私を見つめた後、小さく笑った。
「……そうか」
そして、本の最後のページを指差した。
「最初に向かうべき神社は……"暁ノ宮神社" だ」
「暁ノ宮……」
「そこにいる "守護者" に会えれば、君の進む道が正しいのかどうか、分かるだろう」
"守護者" という言葉に、私は緊張する。
「……分かりました。まずは、暁ノ宮神社に行ってみます」
私が本を閉じると、彼は再び微笑んだ。
「気をつけて行くといい。君の道が、良きものであるように」
私は深く一礼し、図書館を後にした。
* * *
外に出ると、すでに夕暮れが迫っていた。
「……次は、暁ノ宮神社」
私はスマホを取り出し、ナビを開く。
場所をチェックする。
次の目的地は決まった。
これから、本格的な 神器探しの旅 が始まる。
* * *
――第7話・完――