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第9話 「試練の始まり――朱雀神社の守護者」

* * *


 朝の光が窓から差し込み、部屋のカーテンを淡く照らす。まどろみの中で、ぼんやりと意識が覚醒していく。


 「……ん」


 ゆっくりと目を開け、天井を見上げた。

 ――今日は、最初の神社へ向かう日だ。


 昨夜、蛇ノ社でヤトと話し、封印が少しずつ弱まっていることを知った。ヤトを助けるためにも、一刻も早く神器を集めなければならない。


 「……よし、気合い入れよう」


 布団から抜け出し、軽くストレッチをして体を起こす。朝食を済ませ、スマホを開いて目的地を確認する。最初に向かうのは、京都の東側、山の中に位置する


 『暁ノ宮(あかつきのみや)神社』。


 四神を祀る神社のひとつで、朱雀の象徴とされる場所。地図によると、京都市内から少し離れた比叡山の西側にあるようだった。


 「最初の試練か……何があるんだろう?」


 ワクワクと不安が入り混じった気持ちを抱えながら、私は支度を整え、家を出た。


* * *


 電車に乗り、目的地へと向かう。

 車窓から見える景色は、だんだんと都会のビル群から緑豊かな風景へと変わっていく。


 「……神社って、こんな山奥にあるんだ」


 電車を降り、少し驚きながら地図を確認する。

 暁ノ宮は、比叡山の麓に位置する神社だった。

 最寄りの駅からバスを使い、さらに徒歩で登ることになるらしい。


 「なかなか大変そうだな……」


 けれど、ヤトのためだ。

 不安よりも期待のほうが大きい。


* * *


 バスを降り、登山道のような参道を歩き始める。

 辺りは木々に囲まれ、鳥のさえずりが響く静かな道だ。


 「ジャリ……ジャリ……」


 砂利道を踏みしめる音が耳に心地よい。


 「案内板は……あった!」


 『暁ノ宮・本殿まであと500m』


 「もう少し……!」


 額に汗が滲み始めた頃、視界が開けた。

 ――そこには、壮麗な 朱色の社 が佇んでいた。


 「これが、暁ノ宮……!」


* * *


 鳥居をくぐった瞬間


 バシュッ!


 突如、炎の矢 が足元に突き刺さった。


 「ひっ……!?」


 驚いて飛び退くと、社の奥から赤い羽をまとった人影が現れる。


 「……侵入者か?」


 鋭い目つきで私を見下ろすのは、神社の守護者。


 肩には鮮やかな赤い羽が生え、その手には長弓が握られていた。


 「あなたは……?」


 「我は 暁ノ宮の守護者、カグラ」


 そう名乗ると、カグラは弓を引き絞る。


 「この地に足を踏み入れる者よ。試練に挑む意志はあるか?」


 「え、ちょ、ちょっと待って!」


 私の言葉を遮るように、カグラの弓が光る。


 「問答無用――試練開始だ」


 ギュンッ!!


 炎をまとった矢が、私めがけて一直線に飛んできた。


 「うそっ!? いきなり!?」


 慌てて身を低くすると、矢は背後の木に突き刺さる。


 その瞬間――


 ボンッ!!


 爆風が巻き起こり、私はバランスを崩して地面に転がった。


 「な、何なのこれ……!?」


 間髪入れず、カグラが次の矢を構える。


 「試練はすでに始まっている。――立ち上がれ」


 「待って、本当にいきなり戦闘なの!?」


 「問答無用と言ったはずだ」


 カグラが放つ炎の矢が、次々と私を襲う。


 私は必死に逃げ回るが、彼の動きは速く、まるで狩りをする鳥のようだった。


 (くっ……避けるので精一杯……!)


 このままじゃ、勝てない。


 私はなんとか距離を取りながら、カグラに叫んだ。


 「私、ヤトを助けたいの! だから、神器を探しに来たの!」


 しかし、カグラは微動だにしない。


 「ならば、それを証明しろ」


 言葉とともに、空が赤く染まる。


 次の瞬間、巨大な火柱 が目の前に立ち上った。


 「っ……!!」


 視界が熱に揺らぎ、私は思わず後ずさる。


 すると――


 カグラが一瞬にして懐へと飛び込み、私の腕をつかんだ。


 「!?」


 次の瞬間、身体がふわりと浮く。


 カグラは信じられないほどの跳躍力で、私を神社の屋根へと叩きつけた。


 ドンッ!!


 「がっ……!!」


 激痛が走り、息が詰まる。


 ――強すぎる。


 「これが……試練……?」


 膝をついたまま、呼吸を整える。


 カグラはそんな私を見下ろし、弓を構えた。


 「覚悟が足りぬ。お前に神器を持つ資格はない」


 そして、カグラの弓から最後の矢が放たれる――。


 それは、私の胸元めがけて一直線に――


 (ああ、これ……避けられない……)


 矢が私に届くその瞬間――


 「ゆず!!」


 風が巻き起こり、突風が矢を吹き飛ばした。


 「え……?」


 金色の光が視界を埋め尽くす。


 気づけば、私は神社の境内ではなく、暗闇の中にいた。


* * *


 気がつくと、私は蛇ノ社の鳥居の前に立っていた。


 「……あれ?」


 さっきまでの炎の試練はどこへ?


 私はふらふらと境内へと進む。


 「……ヤト?」


 鳥居の奥、封印の石碑の前に、金色の瞳の少年 が立っていた。


 「ゆず、バカ!」


 「えっ……?」


 「いきなり突っ込んで、倒されて。無茶しすぎ!」


 ヤトはぷくっと頬を膨らませ、腕を組む。


 「もっとちゃんと考えて動かないとダメだよ!」


 「……そ、そんなこと言われても!」


 思わず言い返したが、ヤトはじとっと私を見つめてくる。


 「試練を乗り越えるには、力だけじゃ足りないんだよ?」


 「……考える?」


 「そう! ゆず、"勝つ"ってどういうことか分かってる?」


 私はヤトの言葉を反芻する。


 「……力で相手をねじ伏せること?」


 「ちがーう!」


 ヤトはぶんぶんと首を振る。


 「戦い方はいくらでもあるんだよ! 強さって、ただ相手を倒すことじゃないの!」


 「……じゃあ、どうすれば?」


 ヤトは少し考えた後、ふっと微笑んだ。


 「"火の性質" を知ること!」


 「火の……性質?」


 「火は熱くて、燃え上がるものだけど……"炎を消す" こともできるよ?」


 「……え?」


 私は目を瞬いた。


 「炎を消す……?」


 ヤトは小さく頷き、静かに言った。


 「答えは、ゆずの中にあるよ!」


 私は戸惑いながらも、もう一度、戦いの記憶を思い返す。


 火の試練。カグラの矢。炎の壁。そして――風。


 (もしかして……)


 その時、社の鈴が鳴る。


 私は再び、光に包まれた。


 気づけば――


 私は再び、朱雀神社の境内に立っていた。


* * *


――第9話・完――



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