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第11話 「四神の卵――最適な温もりを探せ!」

* * *


「……絶対に、卵を立派に育ててみせる」


 私は決意を固め、四神の卵を抱えた。

 両腕で包み込めるほどの大きさで、表面は滑らかでほんのりと温かい。

 まるで鼓動が宿っているような、静かな生命の気配を感じる――。


(私の育て方次第で、孵るか燃え尽きるか決まる……)


 責任の重さに少しだけ息が詰まりそうになる。


 カグラはそんな私を見据え、静かに告げた。


「覚えておけ。その卵は、お前の精神を映す」


「私の……精神?」


「心が乱れれば、炎も乱れ、卵は燃え尽きる。逆に、強い意志と正しい導きがあれば、立派に孵るだろう」


 私は卵をそっと抱きしめた。


「……なら、ちゃんと育て方を考えないと」


 カグラは満足そうに頷くと、少しだけ笑みを浮かべた。


「焦るな。まずは、卵に"最適な温もり"を与えることからだ」


「最適な温もり……?」


「そうだ。朱雀は火の神獣だが、ただ熱を与えればいいわけではない」


「つまり、温めすぎるとダメってこと?」


「そうだ。炎が強すぎれば、未熟な卵は燃え尽きる。逆に温もりが足りなければ、孵ることなく命が途絶える」


 私は改めて卵を見つめる。


「じゃあ……ちょうどいい温度を探すのが最初の試練ってこと?」


「理解が早いな」


 カグラは軽く頷くと、私に向き直った。


「この神社の炎を使ってもいいが、まずはお前自身の方法で試してみるといい。卵は持ち主の意志を感じ取り、育つ」


 私はゆっくりと息を吸い込んだ。


(……つまり、手探りで育て方を見つけるってことか)


 簡単じゃない。だけど、やるしかない。


「分かった、試してみる!」


 私はしっかりと卵を抱え、暁ノ宮を後にした。


* * *


 帰宅してから、私は卵を抱えながら考え込んだ。


(最適な温度って、一体どれくらいなんだろう……)


 まずは、自分の体温で試してみる。


 そっと両手で包み込むと、指先からじんわりとした温もりが伝わる。


(うーん……何となく暖かくなるけど、これじゃ足りない?)


 次に、タオルに包んでみた。


 少しだけ温もりが持続するような気はする。


(でも、まだ弱い気がするな……)


 ならば、と少しずつ方法を変えて試してみる。


 ① 布団の中に入れてみる → △ ほんのり温かいけど、何となく物足りない


 ② レンジで温めた湯たんぽと一緒に置く → × ちょっと熱すぎるのか、卵の色が変わりかけて焦る


 ③ 炭火の近くに置く(距離を取る) → △ 温まるが、一定時間で冷める


 ④ 抱きしめてみる → ◎ じんわりと温かくなり、卵の表面がほのかに赤みを帯びる


「……やっぱり、こうして直接抱いてるのが一番いいのかな?」


 私は両手で卵を包み込みながら、ふと思った。


(もしかして、この卵はただの熱じゃなくて"気持ち"も必要なのかな?)


 ふと、カグラの言葉を思い出す。


* * *


『その卵は、持ち主の精神を映す』


『意志が弱ければ、炎は燃え尽き、卵は灰となる』


* * *


(私が不安に思ったり、迷ったりしたら、それが伝わってしまうのかも……)


 だからこそ、卵にとって安心できる温もりが大事なのかもしれない。


 私はそっと微笑んで、卵を撫でた。


「……大丈夫だよ。絶対、ちゃんと孵してみせるから」


 その瞬間――


 卵が、ほんのりと光った気がした。


「えっ……?」


 慌てて見つめるが、すぐに光は消えてしまう。


(今の、気のせい……?)


 でも、どこか確信があった。


 ――きっと、この方法は間違っていない。


「よし、しばらくこのままで温めてみよう」


 抱きしめた卵は、じんわりとした温もりを増していた。


(明日、ヤトにも相談してみようかな)


 そう思いながら、私は卵を抱いたまま、そっと目を閉じた。


* * *


――第11話・完


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