* * *
私は蛇ノ社へ向かいながら、手元の 「四神の卵」 をそっと見つめた。
――この卵、本当に育てられるのかな……?
試練を乗り越えたことで手に入れたものの、どうやって孵すのか、どう育てるのか、何もわからない。
それに、私は一人じゃない。
「ヤトにも相談してみよう」
そう決めて、境内へと足を踏み入れた。
* * *
鳥居をくぐると、いつものようにヤトが待っていた。
「ゆず!」
封印の間の前で、銀髪の少年が嬉しそうに手を振る。
「ヤト、聞いてほしいことがあるの」
私は四神の卵を見せながら、これが試練の報酬であり、これから育てなければならないことを説明した。
「ええっ!? すごい!!」
玖蛇は目を輝かせながら、卵を覗き込む。
「これ、結構大きいね! ボクが抱えたら隠れちゃいそう!」
そう言いながら、両手でそっと持ち上げようとするが、ややずっしりとした重さに驚く。
「お、おもっ……!? こんなに重いんだね!」
「確かに……神獣の卵だもんね」
私は改めて、この卵が普通のものではないことを実感した。
興味津々な様子で卵をのぞき込むヤト。
金色の瞳がキラキラと輝いている。
「でもさ、どうやって育てるの?」
「それが……私にもよくわからなくて……」
私は肩をすくめる。
「たぶん、普通の卵みたいに温めるだけじゃダメだと思うんだけど……」
「ふーん……」
ヤトは卵をじっと見つめ、しばらく考え込んだ。
「ねえ、ゆず。じゃあ、一緒に育てようよ!」
「え?」
思わず目を瞬かせる。
「ほら、ここなら静かだし、他の人に邪魔されることもないし! それに、ボクも協力できるよ!」
「うん、それは助かるけど……」
「じゃあ、今日から泊まろう!」
「えぇっ!?」
ヤトは無邪気に微笑みながら、私の手を引っ張る。
「だって、卵はずっと温めなきゃダメなんでしょ? なら、ここで一緒に育てればいいじゃん!」
「そ、そりゃそうだけど……」
確かに、神社の神聖な空気の中で育てるのが一番いいのかもしれない。
でも、いきなり泊まるのは……。
「えっと……ヤト、私、一応人間だからいろいろ準備がいるんだけど……」
「準備?」
「例えば、お風呂とか、着替えとか……ご飯もちゃんと食べないといけないし……」
「そっかぁ……」
ヤトは少し残念そうに肩を落とした。
「でも、じゃあ明日から泊まる?」
「うん! 今日は一旦帰って、ちゃんと準備をしてから来るね」
「やったー!」
ヤトは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
その姿を見て、私も思わず笑ってしまった。
* * *
「じゃあ、今日は帰るね」
私は卵をしっかり抱え直し、神社を後にする。
ヤトは鳥居の向こうから私を見送りながら、手を振っていた。
「明日、待ってるね!」
「うん! ちゃんと来るからね!」
そう約束して、私は家へと帰った。
――明日から、ヤトと一緒に四神の卵を育てる。
どんなふうに孵るのか、これからどんな試練が待っているのか、まだわからない。
だけど、不思議とワクワクしている自分がいた。
* * *
――第12話・完――