* * *
翌朝、私は目覚ましの音で目を覚ました。
(今日から、蛇ノ社にお泊まりか……)
まさか、大学卒業前にこんな経験をすることになるとは思わなかった。
でも、ヤトと一緒に四神の卵を育てるためには、それが一番いい。
昨日の夜、布団や着替えを詰め込んで準備は万端。
とはいえ、神社に泊まるなんて初めてだから、ちょっと緊張する。
「……よし、行こう!」
四神の卵を抱え、私は蛇ノ社へと向かった。
* * *
「おかえり、ゆず!」
鳥居をくぐると、ヤトが満面の笑みで出迎えてくれた。
「昨日はちゃんと寝れた?」
「うん、しっかり寝たよ。今日からお泊まりするから、よろしくね」
「ふふん、じゃあ今日から一緒に寝れるね!」
「……なんか嬉しそうだね?」
「だって、久しぶりにゆずと一緒に寝れるんだもん!」
ヤトは子供の頃から、私と一緒に昼寝するのが好きだった。
いつも遊んで、疲れたら私の隣にぺたっとくっついて眠っていたっけ……。
「それより、卵のことだけど、どうやって育てるの?」
「えっとね……」
ヤトはしばらく考え込んで、卵をじっと見つめた。
「やっぱり、温めるのが一番じゃない?」
「えっ、温めるって……ずっと抱えてるの?」
「うん! でも、一人じゃ大変だから、ゆずとボクで交代で温めればいいんじゃない?」
「……まるで親鳥みたいだね」
「そりゃ、神獣の卵だもん!」
ヤトは得意げに胸を張る。
(とはいえ、本当にそれで孵るのかな……)
私は四神の卵を見つめながら、ため息をついた。
「まぁ、やってみるしかないか」
「そうだね!」
こうして、私たちの四神育成生活が始まった――。
* * *
夜、寝る前。
神聖な空間である鳥居の奥にある寝床には、すでにふかふかの布団が敷かれていた。
私とヤト、それぞれの分がちゃんとある。
「これ……誰が用意したんだろ?」
「うーん、わかんない。でも、いいじゃん!」
「まぁ……そうだね」
卵を真ん中に置き、私は布団に入った。
ヤトも隣に入り、卵をそっと撫でる。
「……ゆず」
「ん?」
「ボクね、なんだか嬉しい」
「どうして?」
「だって、こうしてまた一緒にいられるんだもん」
そう言うと、ヤトは布団の中で少しもじもじしてから、小さな声で言った。
「……ぎゅって、してもいい?」
「え?」
「その……昔みたいに、ぎゅってしてほしい……」
私は思わずヤトの顔を覗き込む。
すると、少し恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
(……ああ、昔もこんなふうに甘えてきたっけ)
私は小さく笑い、そっと腕を伸ばした。
「いいよ、おいで」
ヤトは嬉しそうに私の腕の中に潜り込み、ぎゅっとしがみついてきた。
「やっぱり、ゆずの匂い落ち着く……」
「もう、子供みたい」
「ボク、まだ子供だもん」
「……そうだったね」
ヤトの髪を優しく撫でながら、私は目を閉じた。
「おやすみ、ヤト」
「おやすみ、ゆず」
こうして、四神の卵を抱えながら、私たちは静かに眠りについた――。
* * *
――第13話・完――