* * *
朝――。
眩しい朝日が鳥居の隙間から差し込み、心地よい光で目を覚ました。
「ん……」
まどろみの中で、私は無意識に腕を伸ばす。
(あれ……?)
目を開けると、目の前には金色の髪の少年――ヤトがいた。
「……すぅ、すぅ……」
ヤトは私の腕の中でぐっすり眠っている。
あんなに甘えてぎゅっとしていたのに、今はすっかり安心しきった顔をしてる。
(本当に、昔と変わらないなぁ……)
そう思いながら、私はヤトの髪をそっと撫でた。
すると――
(……あれ?)
なんだか、昨日よりもヤトの体がしっかりしてる気がする。
(え、ヤトって……こんなに大きかったっけ?)
寝る前よりも、身長が少し伸びたような気がするのだ。
気のせいかと思い、そっと布団を抜け出して立ち上がる。
その瞬間――
「……んん……ゆず?」
ヤトもゆっくりと目を覚ました。
「おはよう、ヤト」
「ん……おはよ……」
寝ぼけたまま、ヤトは体を起こした。
すると、私の目線と……ほぼ同じ高さになった。
「……え?」
思わず二度見する。
昨日まで、ヤトは私の胸ぐらいの身長だったはず。
なのに、今はほぼ肩まで伸びている!?
「……ヤト、ちょっと待って!」
私は慌ててヤトの肩を掴んで、じっくりと見つめた。
「え、なに? どうしたの?」
「ヤト……なんか、ちょっと身長伸びてない!?」
「え?」
ヤトはポカンとした顔で自分の体を見下ろし、伸ばした腕をじっと見つめた。
「……ほんとだ!? ボク、大きくなってる!?」
ヤト自身も驚いた様子で、ぴょんぴょんと跳ねてみる。
「え、なんで!? こんなことってあるの!?」
「え、えっと……」
私も混乱しながら、昨日のことを思い返す。
夜刀神の封印は、"力を取り戻せば" 解けるかもしれない。
ヤトは今、神社の結界の中にいる。
そして、私は昨日から彼と一緒に過ごし、朱雀の卵という「神聖な存在」を育て始めた。
(もしかして……四神の卵の影響? それとも、私がここにいること?)
考えていると、ヤトが無邪気に腕をぐるぐる回しながら言った。
「ボク、ちょっと強くなった気がする!」
「え、そうなの?」
「うん! なんか、体が軽い! それに、前よりも動きやすいよ!」
ヤトは軽く跳ねながら、満面の笑みを浮かべた。
「ねえねえ、ゆず! これって、ボクの封印が少しずつ解けてるってことなのかな?」
「うーん……そうかもしれないけど、確かめるにはまだ早いかも」
「そっかぁ……でも、嬉しいな!」
ヤトは笑顔のまま、朱雀の卵をそっと撫でた。
「これも、この子のおかげなのかな?」
「……かもね」
四神の卵は、ほんのりと温かくなっている気がする。
まるで、ヤトと私を見守るように――。
(もしかして、卵も何かを感じ取ってるのかな)
そう思った時、ヤトがふっと顔を寄せてきた。
「ねえ、ゆず!」
「ん?」
「今日もぎゅってして寝ていい?」
「え、また?」
「だって、昨日すっごく気持ちよかったんだもん!」
「……もう、仕方ないなぁ」
私はヤトの頭をぽんぽんと撫でると、彼は満足そうに笑った。
「よし! 今日からもっと頑張るぞー!」
ヤトはぐっと拳を握る。
こうして、私たちの四神育成生活は本格的にスタートしたのだった――。
* * *
――第14話・完――