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第15話 「四神の卵と、玖蛇の名前」

* * *


「うーん……」


 私は四神の卵をじっと見つめながら、どう育てるべきか考えていた。


 朝からずっと、卵に何か変化がないか観察していたのだけど……。


 まだピクリとも動かない。


「……何か変化あった?」


 ヤトも卵を覗き込み、ぽんぽんと優しく撫でる。


「うーん……昨日よりちょっと暖かい気もするけど、まだ孵る気配はないね」


「やっぱり、もっとちゃんとした育て方があるのかな?」


 私はスマホを手に取り、「四神 卵 孵化」などのワードで検索をかけてみる。


 だけど、当然ながら神獣の卵の育て方なんて情報はどこにもない。


「やっぱり、普通の検索じゃダメかぁ……」


 ヤトは腕を組みながら、小さく唸った。


「ねえ、ゆず。ボクの記憶の中に、何かヒントがあるかもしれないよ!」


「え、そうなの?」


「うん! 四神はそれぞれ違う属性の力を持ってるんだけど、卵の段階ではまだどの属性かわからないんだ。だから、基本的に"気"を感じ取ることが大事なんじゃないかなぁ?」


「気を感じ取る……?」


「たとえば、温めるだけじゃなくて、"育てる人の気持ち"も影響するんだと思う!」


 私は卵をそっと抱きしめる。


 すると、ふわっと表面が赤く輝いた。


「えっ、今光った!?」


「やっぱりね!」


 ヤトが得意げに笑う。


「ボクもやってみる!」


 ヤトは卵にそっと手をかざし、じっと目を閉じた。


 すると――


「わっ、またぽわぽわしてる!」


 卵の表面がふわっと光り、ぬくもりが増していく。


「ヤト、これ……何してるの?」


「ボクの"気"を分けてるんだよ!」


「ええっ、そんなことできるの!?」


「えへへ、ちょっとだけね!」


 ヤトが得意げに笑う。


 私は改めて、ヤトの存在が普通の人間じゃないことを実感した。


 (本当に、神様なんだ……)


 しばらくすると、卵の光がふわっと弱まり、再び元の姿へと戻る。


「……まだ孵らないかぁ」


 ヤトは少し残念そうに呟いた。


「でも、昨日よりもずっと暖かくなった気がする」


 私は卵をそっと撫でる。


 確かに、昨日よりもぬくもりが増しているような気がした。


 (きっと、少しずつだけど変化してる……)


「よし! 今日はここまでにして、また明日頑張ろう!」


「うん!」


 ヤトと私は頷き合い、寝る準備をすることにした。


* * *


 夜――


 寝る前、私は布団にくるまりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。


 卵を抱きしめながら、ヤトの分の布団もちゃんと用意してある。


 すると、隣からモゾモゾと気配を感じる。


「……ん?」


 ヤトが私の布団に潜り込んできた。


「……ヤト?」


「えへへ、今日はね……ちょっと甘えたい気分なの!」


「も、もう……仕方ないなぁ」


 私は苦笑しながら、ヤトの髪を撫でた。


 すると――


「ねえ、ゆず」


「ん?」


「そろそろさ……ボクの本当の名前で呼んでほしいなぁ」


 ヤトが、私の胸元に顔を埋めながら呟いた。


「えっ……」


 私は思わず動きを止める。


「玖蛇(くじゃ)って……覚えてる?」


「もちろん、覚えてるよ」


「そっか……」


 ヤト――いや、玖蛇は少し嬉しそうに微笑んだ。


「ボクね、"ヤト"って呼ばれるのも好きだけど……やっぱり、本当の名前で呼ばれると、もっと特別な気がするんだ」


「……特別?」


「うん! だって、ボクの名前をちゃんと知ってるのは、ゆずだけだもん!」


 玖蛇がぎゅっと私にしがみつく。


 その温もりが、すごく心地よくて。


 私は小さく息を吐いた。


「……玖蛇」


 そっと呼んでみる。


 玖蛇は、びくっと小さく震えた。


 そして、ゆっくりと顔を上げ、私をじっと見つめる。


「……もう一回、呼んで?」


「玖蛇」


 今度は、しっかりと名前を口にした。


 玖蛇は、ぱぁっと顔を輝かせる。


「……えへへ、なんか照れるなぁ」


「自分でお願いしておいて?」


「だって、初めてだから……!」


 玖蛇はくすぐったそうに笑いながら、私の布団にぎゅっとしがみついた。


「今日は、ゆずのそばで寝る!」


「……もう、仕方ないなぁ」


 私は玖蛇の頭をぽんぽんと撫でながら、目を閉じた。


 こうして、四神の卵とともに、玖蛇との特別な時間は続いていく――。


* * *


――第15話・完


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