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第16話 「四神の卵――隠された力」

* * *


 朝。


 私はいつものように四神の卵を撫でながら、「今日は少しでも変化があるといいな」と期待していた。


 けれど――


「うーん、今日も変化なし?」


 四神の卵は相変わらず静かなままだった。


 玖蛇(ヤト)も卵を覗き込んで、小さく唸る。


「昨日より暖かくなってる気はするけど、まだ孵る気配はないね」


「そっか……」


 私は少し残念そうに卵を撫でた。


 すると――


 ボワァッ!!


「……え?」


 突然、卵がぼんやりと赤い光を放ち始めた。


「え、なにこれ!?」


 驚いて手を引こうとするが、卵はまるで私の手に吸い寄せられるように、温かい光を発していた。


 玖蛇(くじゃ)は目を丸くする。


「……ゆず、もしかして……」


 彼は私の手元をじっと見つめながら、何かを考えているようだった。


「え、え? 私、何もしてないよ!?」


「……本当に?」


 玖蛇はじっと私を見つめる。


 その金色の瞳が、不思議なほど真剣だった。


 私は戸惑いながらも、もう一度そっと卵に触れてみる。


 すると、また――


 ボワッ……!


「また光った!?」


 玖蛇は目を細め、卵と私の手を交互に見つめる。


「……やっぱり、ゆずの中に"何か"があるんだ」


「え、何かって……?」


 私は困惑する。


 自分では何もしていない。ただ卵を触っただけ。


 なのに、卵は明らかに反応している。


「もしかして……私、知らないうちに何かしてるの?」


 玖蛇は少し考え込み、やがて真剣な表情で頷いた。


「……ゆず、たぶん"魔力"があるよ」


「えっ!?」


 思わず大声を出してしまう。


「ま、魔力!? そんなの、私にあるわけないでしょ!?」


「でも、証拠に卵が反応してるじゃん」


「それは……でも……」


 確かに、私は何もしていないのに、卵が光った。


 それはつまり、私の中に眠る何かが、卵に影響を与えている ということ……?


「……信じられないけど……」


 私は再び卵に触れてみる。


 すると、また優しく光る。


「……でも、なんで?」


 玖蛇は私の手をそっと握る。


「ゆずの力は、きっと昔からあったんだよ」


「え?」


「ボクと出会った頃から、なんとなく感じてた。でも、ゆずは普通の人間だったし、気のせいだと思ってたんだ」


「……じゃあ、今は?」


 玖蛇はニコッと笑う。


「もう、気のせいじゃないね!」


「ちょ、そんな簡単に言われても……!」


「ゆずは、"神獣を育てる" ために選ばれた人なのかもしれないね」


 玖蛇は卵を優しく撫でる。


 私はまだ混乱していたけれど、確かにこの卵は、私にだけ特別な反応を見せている。


 (もし、本当に私に魔力があるとしたら……)


 (もしかして、ヤトの封印を解く力にも関係があるの……?)


 考え込む私を見て、玖蛇は笑う。


「まぁ、難しく考えなくても大丈夫だよ!」


「え?」


「ボクと一緒に育てていけば、そのうち分かるって!」


「……もう、玖蛇ってば……」


 なんだか気楽そうな玖蛇の態度に、思わず苦笑してしまう。


 (でも、確かに今は深く考えすぎても仕方ないかもしれない)


 (とにかく、四神の卵を無事に孵化させることが先決だ)


「よし、じゃあ……もう少し頑張ってみよう!」


 私は改めて卵を抱きしめた。


 すると、今までよりも少しだけ、光が強くなった気がした――。


* * *


――第16話・完――


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