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第17話 「玖蛇の想い――結月と四神の卵」

* * *


「んー……まだ……」


 結月が布団の上でゴロンと転がり、膝を抱えて卵をじっと見つめている。


「もっと温めた方がいいのかな……?」


 そう呟きながら、卵にそっと頬を寄せた。


「うーん……あったかいけど、これで十分なのかな……?」


 必死に卵を温めようとしている結月の姿を、玖蛇は少し呆れたように見つめていた。


「ねぇ、そんなに抱きしめなくても、卵は逃げないよ?」


「でもさ、孵らなかったら困るじゃん!」


 結月は真剣な表情で、ぎゅっと卵を抱きしめる。


 玖蛇はそれを見て、ふっと小さく笑った。


「……変なの」


「えっ?」


「だって、まるで本物の親みたいじゃない?」


「……え?」


 結月はキョトンとした顔で玖蛇を見つめた。


「ボクたちが育てるんでしょ? だったら、大切にしなきゃいけない」


「……そう、だけど……」


 結月が小さく頬を染める。


 (玖蛇って、こういうことサラッと言うんだよね……)


 それに、確かに今の自分はまるで卵の親みたいに感じていた。


「じゃあさ、玖蛇も一緒に温めようよ!」


「えっ」


 玖蛇は一瞬、目をぱちくりさせた。


「一緒に?」


「だって、玖蛇だってこの子の親でしょ?」


 結月がそう言うと、玖蛇は少し考えるように目を伏せた。


 ――「親」か。


 自分のことをそんな風に考えたことはなかった。


 けれど、卵を手に入れたときから、結月と一緒に育てると決めた。


「……まぁ、確かにボクも親の片方だしね」


 玖蛇は布団に潜り込み、結月の隣に座った。


 そして、結月と卵の間に、そっと自分の手を添えた。


「……あったかい?」


「うん! 二人で温めたら、もっと早く孵るかも!」


 結月は嬉しそうに笑う。


 玖蛇はそんな結月の笑顔を見て、不思議な感覚に包まれた。


 (昔から可愛いとは思ってたけど……)


 子供の頃はただ「大好きな友達」だった。


 けれど、こうして二人で卵を育てるうちに、ふと胸の奥がくすぐったくなるような感覚を覚える。


「ねぇ、玖蛇」


「なに?」


「この子が生まれたら、名前つけようね」


「……そうだね」


 玖蛇はそっと目を細めた。


 結月と二人で、大切に育てる。


 この卵は、ただの四神じゃない。


 二人の大切な存在になるのだから。


  * * *


 しばらくそうしていると、結月が大きく伸びをした。


「ん~~~、そろそろ寝ようかな……」


「そうだね。明日も育てないといけないし」


 玖蛇が立ち上がろうとしたそのとき――


 結月が、モゾモゾと布団に潜り込んだ。


「ん?」


 玖蛇が首を傾げると、結月は小さく言った。


「ねぇ、玖蛇……」


「なに?」


「ギュッとして?」


「……え?」


 玖蛇は一瞬、言葉を聞き間違えたのかと思った。


「だって……昔は、一緒にお昼寝してたじゃん」


 結月がそう言うと、玖蛇の記憶が蘇る。


 ――あの頃、結月はよく「眠たくなったら一緒に寝よ」って言っていた。


 最初はただの子供の習慣だった。


 けれど、今こうして改めて言われると――なんだか、妙に照れくさい。


「……まぁ、いいけど」


 玖蛇はため息をつきながら、結月の隣に横になった。


 そして、そっと彼女の肩を引き寄せた。


「……これでいい?」


「うん!」


 結月は満足そうに目を閉じる。


 玖蛇はそんな彼女をじっと見つめた。


 (……なんだろう、この気持ち)


 心臓が、少しだけ早くなっている気がした。


 (ボク、今、めちゃくちゃドキドキしてる……?)


 けれど、その理由はまだわからない。


 玖蛇は静かに目を閉じた。


「……おやすみ、ゆず」


「おやすみ、玖蛇」


 結月の体温と、卵のぬくもりを感じながら――玖蛇は、心地よい眠りについた。


* * *


――第17話・完――


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