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第19話 「伝承の巫女――四神に選ばれし者」

* * *


 ――夜明け。


 まだ淡い空の下、境内は静寂に包まれていた。


 結月は朱色に染まる鳥居をくぐり、そっと四神の卵を抱きしめる。


「昨日の夜、確かにヒビが入ったはずなのに……」


 卵の表面を優しく撫でる。


 けれど、目を凝らしても、昨夜見たヒビがどこにも見当たらなかった。


「……嘘でしょ?」


 あんなにはっきりとヒビが入ったのに、まるで最初からなかったかのように元に戻っている。


 その様子を見た玖蛇は、眉をひそめた。


「これは……たぶん、"試されてる" んだと思う」


「試されてる?」


「うん。たぶん、この卵は"何か"を待ってる。……ボクたちに、何かを気づかせようとしてるんだよ」


 玖蛇は静かに卵に手を添え、目を閉じる。


「……ボク、思い出した気がする。この卵……"前にも見たことがある"」


 結月は驚いて玖蛇を見つめた。


「えっ!? 本当に!?」


「うん。でも、はっきりとは思い出せないんだ。ただ……」


 玖蛇は、ふっと遠い目をする。


「前にも、誰かがこの卵を育てようとしてた気がするんだ。ボクがまだ、人間の世界にいた頃……」


「……誰かって、誰?」


 玖蛇は考え込むように口を閉ざす。


「分からない。でも、"巫女"だったと思う」


「巫女……」


 結月は膝を抱えながら考え込む。


「もしかして、その巫女さんは卵を孵すことができたの?」


「……分からない。けど、ボクが覚えてるのは――"四神に選ばれた巫女だけが、この卵を孵す資格を持つ"ってこと」


 結月は息をのむ。


「四神に選ばれた巫女……?」


 もし、その伝承が本当なら、過去にこの卵を孵した人がいるということ。


 その巫女が何をしたのかを知れば、卵を孵す手がかりがつかめるかもしれない――!


「玖蛇、その伝承……どこかに残ってないかな?」


「うーん……ボクの記憶の中には、ぼんやりとしかない。でも、どこかに記録があるかも?」


 結月は考える。


「……よし! 図書館で調べてみよう!」


「うん! 何か分かるかもしれない!」


 こうして、結月と玖蛇は「四神に選ばれし巫女」の伝承を探すために動き出す。


* * *


 翌日――


 結月は図書館の資料室に足を運んでいた。


 静かな部屋の中、古い書物が並ぶ棚をひとつずつ丁寧に調べていく。


 (きっと、どこかに……何か手がかりがあるはず)


 その時だった。


「夜刀神伝説……?」


 手に取った一冊の古文書に目を留める。


 ページをめくると、そこにはこう記されていた。


 ――『四神は、古来より "選ばれし巫女" によって導かれる。その巫女は、神々の声を聞き、世界の均衡を守る者なり』――


 結月の心臓が高鳴る。


 (……やっぱり、何か関係がある!)


 さらに読み進めると、重要な記述があった。


 『巫女が"試練"を越えた時、四神は真の姿を現す』


「試練……?」


 結月はページをめくる手を止めた。


 (もしかして、私も"試練"を受けないといけないの……?)


 けれど、その試練が何なのかは、書物の中には詳しく書かれていなかった。


 (でも、ヒントにはなった……!)


 結月は急いで資料をまとめ、図書館を後にする。


* * *


 夜、蛇ノ社――


 結月は玖蛇に伝承について報告していた。


「やっぱり、巫女の伝説が関係してた!」


「へぇ……」


 玖蛇は興味深そうに、結月が見つけた資料に目を通す。


「じゃあ、やっぱりゆずも試練を受けなきゃいけないのかも?」


「かもね……でも、どうやって?」


 結月が卵を抱えながら呟いたその時――


 ピキッ……!


「っ!?」


 またしても、卵に小さなヒビが入った。


 玖蛇は目を輝かせる。


「やっぱり! ゆずが何かを見つけるたびに、卵が反応してる!」


「もしかして、この卵……私の行動を見てるの?」


「うん。きっと、ゆずが"選ばれるべき存在か"を試してるんだよ」


 結月は卵をそっと抱きしめる。


 (私が……選ばれるべき存在か……)


 ――もし、この卵が"巫女の資格"を試しているのだとしたら。


 結月は、"四神に選ばれる者"にならなければならない。


「玖蛇……私、試練を探してみる」


「うん! ボクも協力する!」


 こうして、結月は四神の試練を受けるための手がかりを探すことを決意した。


* * *


――第19話・完



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