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第20話 「四神の巫女――卵が示す道」

* * *


 夜の帳が降りる頃、結月は境内に腰を下ろし、四神の卵をじっと見つめていた。

 静かな空気の中、手のひらに伝わる温もりは変わらない。


「……何が足りないんだろう」


 数日前から、卵には小さなヒビが入ったままだ。

 だけど、それ以上の変化はない。

 まるで何かを待っているように。


「ゆず」


 玖蛇が結月の隣に座り、同じように卵を見つめる。


「まだ孵らない?」


「うん……何かが足りないみたい」


 玖蛇は真剣な表情で卵に手を添えた。

 すると、ほんのわずかだが、卵がぴくりと震えた気がした。


「ねえ、ゆず。ボク、最近少しずつだけど記憶が戻ってきてるんだ」


「えっ、本当?」


「でも……全部は思い出せない。だけど、"何か"が足りない気がするんだよ」


 玖蛇は目を伏せる。


「四神の巫女が受けた試練の伝承……その中に、この卵を孵すヒントがある気がする」


「四神の巫女の伝承……?」


 結月は考え込む。

 確かに、今までの試練はすべて伝承に基づいていた。

 ならば、この卵の秘密も――?


「玖蛇、その伝承って、どこで知れるの?」


「それが……はっきりとは思い出せないんだ。でも……」


 玖蛇は鳥居の向こう、境内の奥を見つめる。


「神社には"記録"が残ってることがあるよね?」


 結月はハッとする。


「……神社の古文書!」


「うん! たぶん、暁ノ宮や他の四神の神社には、四神の巫女たちが残した記録があるはずだよ」


「じゃあ……もう一度、神社を調べてみるしかないね」


 結月は卵をそっと抱きしめた。

 この卵が孵るために必要なもの。

 それを見つけなければ、次の試練へは進めない。


「でも、ゆず……」


「?」


「ボク、今のままだと結界の外には出られないから……ゆずが頑張るしかないよ?」


「……うん、わかってる」


 結月は力強く頷いた。


「絶対に、答えを見つけるから」


 玖蛇が微笑み、結月の手の上の卵を優しく撫でる。


「この子も、きっと待ってるよ」


「……うん」


 結月は拳を握る。


 答えを求めて、再び四神の神社を巡る時が来た。


* * *


――第20話・完――



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