* * *
翌朝、結月は早くから準備をしていた。
今日の目的は、四神の巫女の伝承を探すこと。
昨夜、玖蛇が話してくれた――
四神の巫女たちが受けた試練の記録が、どこかに残されているかもしれないという話。
「まずは、暁ノ宮(あかつきのみや)神社だね」
朱雀を祀る神社ならば、何か手がかりがあるかもしれない。
結月は四神の卵を布で包み、大切に抱えながら神社へと向かった。
* * *
暁ノ宮神社に到着すると、朝の清々しい空気が境内を包んでいた。
参道を進み、奥の社殿へ向かうと――
「また来たのか」
朱雀の守護者、カグラが静かに立っていた。
「お前、もう試練を終えたはずだろう?」
カグラは鋭い眼差しを向ける。
「実は……卵がまだ孵らなくて」
結月は四神の卵をそっと見せた。
「それで、"四神の巫女"の伝承を探してるの。ここに何か記録が残ってない?」
カグラは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。
「……なるほど」
彼は社殿の奥へと歩き出し、手招きをする。
「ついてこい。お前に見せるべきものがある」
* * *
カグラに案内されたのは、社殿の裏手にある蔵のような建物だった。
扉を開けると、中には古い巻物が並んでいる。
「ここに、四神の巫女たちが記した記録が残っている」
カグラが棚の奥から、一本の巻物を取り出す。
「これが、"朱雀の巫女"の記録だ」
結月は息をのむ。
カグラが巻物を広げると、そこには古めかしい文字が並んでいた。
『朱雀の巫女は、炎を宿す卵を手にし、それを孵すための試練を受けた。
だが、その卵は容易には孵らなかった。
巫女は"火の加減"を学び、己の内に宿る炎を理解することで、ようやく卵は目覚めた――』
「……火の加減……?」
結月は巻物を見つめながら考える。
「もしかして、この卵を孵すには、"炎"を操ることが必要なの?」
カグラは静かに頷いた。
「朱雀の力は、ただ燃え上がるだけではない。火は命を育み、守るものでもある」
「……守る炎」
結月は卵を抱きしめる。
今まではただ温めることだけを考えていたけど――
(もしかして、それだけじゃダメなのかもしれない)
「お前は今まで、どうやってこの卵を育てていた?」
「えっと……ずっと温めたり、玖蛇と一緒に気を送ったり……」
「ふむ」
カグラは腕を組み、しばし考え込む。
「では、お前自身が"火を操る"力を得ることができれば、この卵に変化があるかもしれないな」
「えっ、私が……!?」
「そうだ」
カグラは結月をまっすぐに見つめる。
「四神の巫女は皆、それぞれの"神の力"を理解し、己のものとすることで試練を超えてきた」
「私が……火の力を……?」
結月は戸惑いながらも、どこか納得している自分がいた。
(そうか……私がもっとこの卵と向き合わないといけないんだ)
「……わかった」
結月は強く頷く。
「私、火の力を学ぶ!」
カグラは満足そうに微笑んだ。
「よし。ならば、"朱雀の炎"の試練を受けてもらう」
「試練……?」
「そうだ。お前が火の力を扱えるようになれば、この卵もきっと答えを返すだろう」
結月はゴクリと唾をのむ。
次なる試練――
今度は、自分自身が変わるための試練だ。
* * *
――第21話・完――