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第21話 「四神の巫女――伝承の手がかり」

* * *


 翌朝、結月は早くから準備をしていた。

 今日の目的は、四神の巫女の伝承を探すこと。


 昨夜、玖蛇が話してくれた――

 四神の巫女たちが受けた試練の記録が、どこかに残されているかもしれないという話。


「まずは、暁ノ宮(あかつきのみや)神社だね」


 朱雀を祀る神社ならば、何か手がかりがあるかもしれない。


 結月は四神の卵を布で包み、大切に抱えながら神社へと向かった。


* * *


 暁ノ宮神社に到着すると、朝の清々しい空気が境内を包んでいた。

 参道を進み、奥の社殿へ向かうと――


「また来たのか」


 朱雀の守護者、カグラが静かに立っていた。


「お前、もう試練を終えたはずだろう?」


 カグラは鋭い眼差しを向ける。


「実は……卵がまだ孵らなくて」


 結月は四神の卵をそっと見せた。


「それで、"四神の巫女"の伝承を探してるの。ここに何か記録が残ってない?」


 カグラは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めた。


「……なるほど」


 彼は社殿の奥へと歩き出し、手招きをする。


「ついてこい。お前に見せるべきものがある」


* * *


 カグラに案内されたのは、社殿の裏手にある蔵のような建物だった。

 扉を開けると、中には古い巻物が並んでいる。


「ここに、四神の巫女たちが記した記録が残っている」


 カグラが棚の奥から、一本の巻物を取り出す。


「これが、"朱雀の巫女"の記録だ」


 結月は息をのむ。


 カグラが巻物を広げると、そこには古めかしい文字が並んでいた。


『朱雀の巫女は、炎を宿す卵を手にし、それを孵すための試練を受けた。

 だが、その卵は容易には孵らなかった。

 巫女は"火の加減"を学び、己の内に宿る炎を理解することで、ようやく卵は目覚めた――』


「……火の加減……?」


 結月は巻物を見つめながら考える。


「もしかして、この卵を孵すには、"炎"を操ることが必要なの?」


 カグラは静かに頷いた。


「朱雀の力は、ただ燃え上がるだけではない。火は命を育み、守るものでもある」


「……守る炎」


 結月は卵を抱きしめる。

 今まではただ温めることだけを考えていたけど――


(もしかして、それだけじゃダメなのかもしれない)


「お前は今まで、どうやってこの卵を育てていた?」


「えっと……ずっと温めたり、玖蛇と一緒に気を送ったり……」


「ふむ」


 カグラは腕を組み、しばし考え込む。


「では、お前自身が"火を操る"力を得ることができれば、この卵に変化があるかもしれないな」


「えっ、私が……!?」


「そうだ」


 カグラは結月をまっすぐに見つめる。


「四神の巫女は皆、それぞれの"神の力"を理解し、己のものとすることで試練を超えてきた」


「私が……火の力を……?」


 結月は戸惑いながらも、どこか納得している自分がいた。


(そうか……私がもっとこの卵と向き合わないといけないんだ)


「……わかった」


 結月は強く頷く。


「私、火の力を学ぶ!」


 カグラは満足そうに微笑んだ。


「よし。ならば、"朱雀の炎"の試練を受けてもらう」


「試練……?」


「そうだ。お前が火の力を扱えるようになれば、この卵もきっと答えを返すだろう」


 結月はゴクリと唾をのむ。


 次なる試練――


 今度は、自分自身が変わるための試練だ。


* * *


――第21話・完――


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