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第22話 「朱雀の炎――己の内なる火を知れ」

* * *


 結月は息を整え、カグラの言葉を反芻する。


 「お前が火の力を扱えるようになれば、この卵もきっと答えを返すだろう」


 今までは、卵を温めることばかり考えていた。


 けれど、巫女の記録には「己の炎を理解すること」と書かれていた。


 (私が、火を操る……?)


 そんなこと、今まで考えたこともなかった。


 自分には、特別な力なんてないと思っていたのに。


 戸惑いながらも、結月はカグラの前に立つ。


 「……私は、どうすればいいの?」


 カグラは静かに弓を手に取り、境内の中央を指差した。


 「そこに立て」


 結月は指示された場所へと移動し、深く息を吸い込んだ。


 風が緩やかに流れ、朱雀神社の空気がどこか張り詰めていく。


 カグラはゆっくりと弓を引き絞り、炎の矢を形作る。


 「お前は、火の本質をまだ理解していない」


 「火の……本質?」


 「火とは、破壊の力であり、再生の力でもある。強すぎればすべてを焼き尽くし、弱すぎれば何も生み出せぬ」


 カグラの目が鋭く光る。


 「今から、お前に"炎の試練"を与える」


 ビュッ――!!


 カグラが放った炎の矢が、境内の地面に突き刺さった。


 すると、その周囲に火柱が立ち上り、結月を取り囲む。


 「っ!?」


 熱気が一気に押し寄せる。


 まるで、自分が朱雀の炎の中に囚われたような感覚だった。


 カグラの声が響く。


 「お前の心に宿る炎を知れ」


 結月は火の中心で、ぐっと拳を握った。


 (私の心の炎……?)


 怖い。


 だけど、この炎を理解しないと前には進めない。


 結月はゆっくりと目を閉じた。


* * *


 ふと、幼い頃の記憶が蘇る。


 夕焼けの中で駆け回った日。


 寒い冬の夜に、焚き火の前で温まった日。


 そして――


 玖蛇と一緒にいた、あの神社の光景。


 あの頃の玖蛇は、小さくて可愛くて、私が守ってあげなきゃって思ってた。


 でも今は?


 玖蛇は強くなり、私よりもいろんなことを知っている。


 それでも、あの優しい笑顔は変わらない。


 「……火は、あたたかいもの」


 そう呟いた瞬間――


 結月の体の周りに、ふわりと淡い光が生まれた。


 火柱の揺らぎが変わる。


 (あれ……?)


 「炎の力を制御しはじめたか」


 カグラの声が、どこか楽しげに響く。


 「ならば、次の段階に進もう」


 結月が目を開いた瞬間――


 バシュッ!!


 無数の炎の矢が空へと放たれ、結月の周囲を旋回する。


 「お前の炎を、形にしてみろ」


 「……形に?」


 「そうだ。お前がこの炎をどうするか決めろ」


 結月は息をのむ。


 (私が……火を動かす?)


 でも、どうやって?


 戸惑いながらも、結月は無意識のうちに両手を前に差し出していた。


 すると――


 炎の一部が、彼女の指先に沿うように流れ始めた。


 「……あ」


 まるで、生き物のように炎がまとわりつく。


 「お前は、すでに"炎を宿す者"になりつつある」


 カグラが微笑む。


 「お前がこの火をどう導くのか、それが"朱雀の試練"だ」


 結月は炎を見つめた。


 (私の火……)


 何かを破壊するための力じゃない。


 これは、守るための力。


 結月はそっと炎を包み込むように手を動かした。


 すると、炎の矢が次第に収束し、小さな光の球となる。


 それは、まるで――


 卵のような形をしていた。


 「……!」


 結月はハッとして、懐に抱えていた四神の卵を見た。


 すると――


 卵の表面が、ふわっと暖かく輝いた。


 「光った……?」


 「お前の力が、この卵に影響を与えた証だ」


 カグラが満足そうに頷く。


 「これで、お前は"朱雀の火"を理解した」


 結月は静かに、卵を抱きしめた。


 (まだ……生まれない)


 でも、確かにこの卵は何かを感じ取っている。


 「これが……私の試練?」


 カグラは頷いた。


 「試練は、終わったわけではない」


 「え?」


 「次は、お前自身が"四神の炎"を完全に使いこなすこと」


 カグラが指を鳴らすと、炎が再び結月の手に宿った。


 「これは、お前自身の力だ」


 「私の……?」


 「試練を乗り越えるたびに、その力は目覚めるだろう」


 結月は自分の手を見つめた。


 この炎は、確かに自分のものだ。


 「……次の試練に進む前に、もう一度、卵と向き合うがいい」


 結月は深く頷いた。


 (四神の巫女の伝承……)


 (そして、この卵の謎)


 すべてが、ゆっくりとつながり始めている。


 次の試練は――蒼龍神社。


 私は、この卵とともに、次の扉を開く。


* * *


―― 第22話・完 ――

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