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第23話 「蒼龍の試練――流れる水のごとく」

* * *


 四神の卵を抱えながら、結月は次なる目的地へと向かっていた。


 ――蒼龍(そうりゅう)神社。


 京都の北東、霧深い山間にひっそりと佇む神社。


 そこには**「蒼龍の守護者」**がいる。


 カグラの試練を経て、火の力を知った結月。


 だが、卵はまだ孵化する気配を見せていない。


 カグラはこう言った。


 「試練を超えるたびに、卵は目覚めていく」


 ならば、次の試練を超えることで、また何かが変わるかもしれない。


* * *


 山道を進み、霧の中を歩く。


 結月は卵を抱えながら、慎重に足を進めた。


 すると、視界の先に見えてきたのは――


 青々とした水が流れる、龍の形をした石像。


 その背後には、静かにそびえ立つ神社の鳥居。


 「……ここが、蒼龍神社」


 鳥居をくぐると、空気が一変した。


 冷たい風が頬を撫で、どこからか水の音が聞こえる。


 そして――


 「よく来たな」


 静かだが、響くような声が境内に広がった。


 結月が顔を上げると、そこに立っていたのは――


 蒼龍の守護者、イズナ。


 彼は淡い青の衣をまとい、長い黒髪を揺らしながら、じっと結月を見つめていた。


 「お前が次の試練を受ける者か」


 「……はい。私は四神の卵を育てるために、ここに来ました」


 結月は胸の前で卵を抱きしめながら答える。


 「卵、か」


 イズナは一歩前へと進み、鋭い眼差しで卵を見つめる。


 「まだ眠ったままのようだな」


 「ええ……でも、私はこの子を孵すために試練を受けます」


 イズナは微笑み、静かに頷いた。


 「ならば、お前に"水の試練"を与えよう」


 彼が手を振ると、結月の足元に青く輝く魔法陣が浮かび上がる。


 「……っ!?」


 次の瞬間――


 世界が、一瞬で水の中へと変わった。


* * *


 「――っ!」


 結月は水の中にいた。


 息ができる。


 だが、足元に確かな重力を感じる。


 (ここは……?)


 周囲を見渡すと、巨大な龍がゆっくりと泳ぐのが見えた。


 その龍は、蒼く光る鱗を持ち、しなやかな尾を揺らしている。


 「試練とは、"水の流れ"を理解すること」


 イズナの声が、水の中で響く。


 「お前は"火"を得た。だが、炎は水によって消える」


 龍の瞳が、結月を見据える。


 「炎は力強く、情熱を生むが、時に激しすぎて自らを燃やしてしまう」


 「……!」


 「水は炎を消すだけの存在ではない。水は流れを作り、命を運ぶ力でもある」


 イズナの声が低くなる。


 「お前は、この水の流れの中で、自らの"炎"をどう活かすかを知ることになる」


 結月は水の中で手を動かしながら、ゆっくりと目を閉じた。


 (水の流れ……炎とどう関係するんだろう?)


 すると――


 卵が微かに光を放った。


 まるで、何かを感じ取っているように。


 「……この子も、何か言いたそう」


 結月はそっと卵を抱きしめた。


 その瞬間――


 水の流れが激しく変化した。


 「っ!!?」


 まるで川の激流のように、水が荒れ狂い、結月の体を押し流そうとする。


 「な、何!? これ……!」


 流れに逆らおうとしても、足元が定まらず、どんどん押し流されていく。


 すると、イズナの声が再び響く。


 「力で抗うのではない」


 「え?」


 「水は形を持たぬ。ならば、お前も"流れ"を受け入れるのだ」


 (流れを受け入れる……?)


 結月はもう一度、周囲を見渡した。


 確かに、水は力強く流れている。


 でも、その流れには法則がある。


 ならば――


 流れに逆らうのではなく、流れに乗ればいい。


 結月は息を整え、流れの中に身を委ねた。


 すると――


 ふわりと、水が彼女を包み込む。


 (……すごい)


 まるで、川の流れの中に身を任せるように、自然と前へと進むことができた。


 (もしかして、火の力も同じ……?)


 火もまた、無理に操ろうとすると暴走する。


 けれど、流れを知れば、それを制御することができるのではないか?


 結月がそう思った瞬間――


 卵の光が、少しだけ強くなった。


 「……!」


 結月は静かに微笑んだ。


 「分かってきたか」


 イズナの声が、穏やかになった。


 「炎は情熱を生み、水はそれを受け止める。両方を知ることで、お前は己の力を手にする」


 結月はゆっくりと頷く。


 「……ありがとう、イズナさん」


 「まだ試練は終わっていない」


 イズナは笑みを浮かべる。


 「次は――"龍の牙"を手に入れろ」


 「龍の牙……?」


 イズナは指をさした。


 結月の視線の先――


 そこには、蒼き龍の巨大な影がゆらめいていた。


 「龍の牙は、この流れの中に眠る。


 お前が"水と炎"の本質を理解し、流れを掴むことができれば、牙はお前の手に落ちる」


 「……わかった」


 結月は卵を抱えながら、静かに前を向いた。


 (きっと、この試練を超えれば……また、何かが変わる)


 彼女の旅は、まだ続く。


* * *


――第23話・完――

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