* * *
水の試練はまだ終わらない。
蒼龍の守護者・イズナは、結月に**「龍の牙を手に入れろ」**という課題を与えた。
「龍の牙は、この流れの中に眠る。
お前が"水と炎"の本質を理解し、流れを掴むことができれば、牙はお前の手に落ちる」
結月は息を整え、流れる水の中へと歩を進める。
(流れを掴む……)
四神の卵を胸に抱きながら、彼女は慎重に水の中を進んでいった。
* * *
目の前には、巨大な蒼龍の影が揺らめいている。
深い青の鱗を持ち、悠然と水の中を泳ぐその姿は、まさに神獣の威厳に満ちていた。
「……この龍が、龍の牙を持っているってこと?」
イズナは静かに頷く。
「そうだ。しかし、力ずくで奪うことはできない」
「……じゃあ、どうすれば?」
「龍の牙は、"水の流れと共にある"。
流れを読み、その流れの中で牙を掴み取ることができるか――それがお前の試練だ」
結月はもう一度、蒼龍の姿を見つめた。
水の中をたゆたうように動くその姿。
まるで、水そのものと同化しているかのように見える。
(流れ……)
結月は、朱雀の試練で学んだことを思い出した。
炎はただ燃え上がるだけではない。
水と共にあることで、その力を本当の意味で制御できる。
「……炎も、水も、流れを持ってるんだよね」
イズナが目を細める。
「そうだ。炎は風に揺れ、水は流れに従う。
お前がその流れを理解し、自分のものとすることができるかどうか――」
結月は水の中で静かに目を閉じた。
(流れを感じる……)
ゆっくりと、意識を研ぎ澄ます。
水の冷たさ。
流れの緩急。
そして、龍の動き。
(この龍は、流れそのもの……)
結月は水の流れを読むように、一歩ずつ近づいていく。
龍の動きに逆らわず、その流れに乗るように。
すると――
龍の尾がゆっくりと動き、結月の目の前を横切った。
その瞬間――
結月は水の流れを利用しながら、一気に龍の懐へと飛び込む!
「っ……!」
水圧に逆らわず、流れに身を任せる。
そして、龍の牙にそっと手を伸ばした――
ガシッ!!
「……掴んだ!!」
その瞬間、水の中が一変する。
龍の姿が光に包まれ、結月の手の中には**青く輝く「龍の牙」**が握られていた。
イズナが微かに微笑む。
「やるな」
水が引き、結月は再び蒼龍神社の境内へと戻ってきた。
息を整えながら、彼女は手の中の龍の牙を見つめる。
(……すごく綺麗……)
青く透き通ったその牙は、まるで水晶のように輝いていた。
「それが"龍の牙"だ。
お前が水の流れを掴んだ証でもあり、次の試練へと進むための鍵となる」
結月は静かに頷いた。
そして――
四神の卵が、再び小さく光を放つ。
「……っ!」
まるで、卵が何かを感じ取ったかのように。
(やっぱり……卵は、試練を超えるたびに何かを吸収してるんだ)
イズナは満足げに頷く。
「よし、お前は試練を超えた。
次は――白嶺(はくれい)神社だな」
結月は龍の牙をしっかりと握りしめ、深く頷いた。
「はい! 次は白嶺神社へ向かいます!」
そして彼女は、次なる試練へと歩みを進める――。
* * *
――第24話・完――