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第61話:パーティー面談

 一日空けて今日も同じ午前九時に探索者事務所を訪れた。昨日はさすがに疲れがたまっていたのか、一日ボーっとしていたし、体もあちこちがきしむような形になった。レベルアップしたとはいえ、疲労は貯まるらしい。銭湯へ行きゆっくり湯に浸かり、しっかりと疲労抜きをして今日に至る。


 このコミュニティには公共銭湯がある。利用料はそれなりにするが、個々人で風呂を沸かすよりもまとめて大きな風呂を沸かす方が魔石消耗の効率がいいとかで、アパートメントなんかの個人向けの部屋には風呂は付いていないらしい。そのおかげで窮屈さこそあるものの、堂々と湯が使えるのは良いことだと思う。


 先日のあふれはもはやなかったことのように世の中が進んでいる。ダンジョンあふれが発生するというのは日常の一ページとして存在しているんだろう。先日の騒がしさが嘘のようにいつも通りの生活があふれている、という気がする。


 さて、今日こそはパーティー募集の声をかけてくれたパーティーに出会えると良いんだが。いつもの装備を身につけて、今日も外れなら一人で二層辺りまで向かって日銭を稼ごうかと思って探索者事務所に顔を出す。


 探索者事務所にはいくつかのパーティーらしき人たちが待ち受けていた。それぞれのパーティーで固まっているのか、雑談をしている人たちもいるが、俺が入っていくと会話はピタリと止まる。


 何やら注目されているようだが、とりあえず待合の椅子によっこらせと座り、周りのパーティーの動きを見る。ついでに聞く。


「あれが噂の魔石100%ドロップ爺さんか? 」

「そんなスキル聞いたことねえが、収入を求める仲間としては魅力的だな」

「どうする? 誘ってみる? 」

「なんでも、先に唾つけたやつらがいるらしい。そいつらの動き次第じゃねえかな」


 大体の声は聞こえている。爺さんだから耳が遠くなっていると思われているのかもしれない。だが、全部とは言わないが半分ぐらいは聞こえているぞ。


 しばらく休んだところでよっこらせと腰を上げ、受付に向かう。


「野田様ですね、パーティーの皆様が待っておられます。二階へ来ていただけますか? 」


 どうやらこの中にいるわけじゃなく、二階でわざわざ待っていてくれたらしい。これは真っ直ぐ受付に来た方がよかったな。下手に時間を空けたりわざわざ座り込んで声をかけてもらうのを待つ必要はなかったな。


 連れられて行った二階の一部屋。そこには三人の探索者らしき人々が待っていた。


「お待たせしました。野田五郎と申します。本日はお声をかけていただきありがとうございます」


 まず最初にお礼を言っておく。こういうのはまずお礼から入るのが大事だ。実際にパーティーを組むかはともかくとして、声を上げてくれたことに感謝しなければならない。


 用意されていた椅子にそれぞれが座り、コーヒーとまではいかないが水が用意されていた。長期戦になるかもしれないという配慮らしい。


「こちらこそ、貴重な時間を使わせてしまって申し訳ない。私はこのパーティーのリーダーをしています、佐々宗正と申します。二人は盾を持っている方が田沼幸四郎、もう一人が谷口朋子です」

「初めまして野田さん、田沼です」

「谷口です。今日はよろしくお願いしますね」


 三人とも二十代から三十代といったところ。男性二人に女性一人のパーティーのようだ。斥候役は女性が務めることが多いのか、それとも女性にスキルが発現しやすいのだろうか? 気になる所ではあるが、今はそこを気にしても仕方ないだろう。


「本日は顔合わせということで、特別に部屋をご用意してのパーティーメンバー募集ということになりました。理由は色々ありますが、このパーティーさんは井上さんの息のかかったパーティーであることを野田様には先に申し上げておきます」


 ということは、俺がこの歳で探索者を始めた理由も、体質のことも、そしてダンジョン帰りであることも承知されている、ということだろうか。


「そんなわけで、野田さんの経歴はある程度伝えてもらってあるんですよ。その上で、野田さんの力をお借りしたい、というのが第一の理由になります」


 佐々さんが主導になって説明を始める。


「第一の理由……ということは、他にいくつか理由があるってことですか? 」


 理由がいくつかあるという点が引っかかるが、話を最後まで聞いてみてそれから判断しても遅くはないということにもなるな。


「そうなります。まず、私たちは表向きダンジョンに潜って魔石集めをするという体裁を整えてしばらく”鉱山”に潜ることになります。その上で野田さんの体質が非常に有効的に活用されると信じてのお願いということになります。こちらの”鉱山”でも野田さんの体質は発揮されて、ダメージを与えたモンスターからは必ず魔石が落ちる、ということに変わりはないということで良いですか? 」


 佐々さんから質問をされる。探索者事務所にパーティー募集がかけられていてその体質が特徴として記されているということは、当然何処のダンジョンに潜っても問題はないのだろうと思われている、そう考えていいはずだ。


「その点は先日のあふれの時と、その前に探索者としての技能教習というか試験探索というか、その両方で確認されましたので間違いはないかと思います。お気になさるなら庄司さんという女性の斥候役の方にお世話になったのでそちらに確認を取っていただければ確実だと思います」


「ならばそれを信じることにいたします。そしてもう一つ理由があるのですが、こちらのほうは口外禁止という形で伝えさせていただきたいのですが、それを聞く覚悟はおありですか? 」


 どうやら密命みたいなものがあるらしい。それを聞いたら戻れない、なんてことはないだろうか。


「それを聞いた段階で契約書にサインをすることと同じ、というならば少し考えさせていただきたいのですが」

「その心配はありません。野田さんにも関わってくる内容になりますから」


 俺に関わってくるのか。だとしたらやはりマツさん関連の話になってくるんだろうか。


「まず、我々は魔石を集めてその分の換金で給料をもらうという形ではなく、魔石は換金所へもっていかずに直接井上さんに渡す形で仕事をします。その上で別で給金をもらう、というシステムになります。井上さんに集められた魔石は松井さん……今はマツさんと呼ばれているんでしたか。彼との交易用の魔石として帳簿外の収支として扱われることになります」


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