「なるほど、つまりあなた方の仕事というのはマツさんとの貿易用の魔石を別ルートで集めて、裏資産という形で運用し、生活必需品や高級品、希少品のたぐいのものと交換するために雇われている、という形になるのですが」
「そうなります。松井さんとも面識があり、このことを知っていて、なおかつその交易用に高効率で魔石を集める手段として野田さんの力をお借りしたい、ということになります」
そうきたか。確かにこの話ならば蹴ってもおかしくはないしもうマツさんとは縁が切れたから口外もしないし関わる気がない、と言ってしまえば話はそこまでになってしまうということになるな。
「どうですか、我々に協力してはいただけませんか。働いた分のお給料は充分に出ますし、野田さんが望むなら今後より深くへ潜ったりする際にも我々は全力を尽くしてサポートいたします。一つ考えてみてはくれませんか」
そこまで言われなくても、マツさんがらみの話となれば乗らないわけにはいかないだろう。むしろ、井上さんの入れ知恵として俺なら断らないんじゃないか、と考えられての勧誘とすら言える。なかなか頭の回る人だな、井上さん。
「そこまで言われて断れない、と踏まれているんでしょうが……」
俺がそこで言葉を切ると、三人に緊張が走る。
「残念ながら断れないんですよね。マツさんにはまだ返し切れてない恩があります。それを返すまでは動けなくなるまでサポートをしたいとも思っていますし、今の自分に出来るサポートがそれだというのなら、私はお手伝いをする以外に選択肢がありません。どうか、まずは様子見からよろしくお願いします」
俺がハッキリ言い切ると、三人は安心したのか乗りだしていた身を椅子に預けて良かった、という空気を作り出す。
「良かった、これで断られたら我々の仕事量が何倍にも増える所でしたよ」
「これで楽が出来るな。正直三人だけでこの仕事をやるという話だったら三倍苦労するところだった」
「しっかりサポートのほうはさせていただきます。頑張りましょう野田さん」
三人ともすっかり安心した様子で俺の周りに集い始めた。
「ここからは探索日程の話を詰めることになります、いいですか? 」
「ええ、これからよろしくお願いします。とりあえず、先日のあふれの際は三層基準のところを五往復ほど三人で巡ってくることになりました。これが判断基準になるかどうかはわかりませんが、より深い階層に潜るなら私もちょっと覚悟を決めなくてはいけない所です」
探索計画において何層まで潜ることができるかと、荷物がいっぱいになる時期がどのくらいで来るかは大事だ。マツさんのゲルに居た頃もそうだった。持ちきれずにダンジョンに放置していくモンスタードロップ品はそれなりの数があったし、それでも魔石のほうが価値があったからよかったものの、それらまで回収するとなればさらに荷物持ちが必要になってくる。
「野田さん、今レベルはいくつ何ですか? 」
「先日鑑定してもらった時は二十六でしたが、それから一つ上がったはずですので二十七と言うところでしょうか」
「なら四層まではこのパーティーで行けることになろうかと思います。オークの御経験は? 」
「一度だけ。あふれの際に三人組で出会って倒したことはありますね。多分……四人なら問題なく戦えるかとは思います」
「ならこれから四層まで行って様子を見る、ということでいかがですか」
矢継ぎ早に意見と今日これからの探索計画が見積もられていく。基本的には俺の動きを見つつ、ちゃんと一撃入れられるかどうかのタイミングを見ながらの戦闘ということになるらしい。
「では、偵察と実力確認もかねて早速行きますか。私も四層でどれだけ動けるのかは解りませんし、四層でも活動できるという証明が必要ならそれももらいに行く必要があります」
「そうですね、流石に最深層で稼いで帰って来いなんて命令は受けてませんし、野田さんの実力次第では四層で止まってしまうかもしれません。ですが、質で補えない分は量で補っていこうと思います」
「そのための野田さんでもありますし、何よりダンジョンは階層が深くないほうが早く帰れますからね。道中で出来るだけ無駄な戦闘は避けながら四層まで行ってみることにしましょう」
こうして、佐々さん、田沼さん、谷口さん、そして俺の四人でパーティーを結成することになった。平均年齢を随分押し上げてしまっているが、本当にこの四人で大丈夫なのかどうかそれを確かめに行くのだ。まだ何も行動してない内から無理だと決めつけるような人生はこの先もう心配しなくていい。
そう考えれば随分足取りも軽くなろうという所。パーティーの結成式が無事に終わって会議室を出ると、一階に溜まっていたパーティーのいくつかは既にもう何処かへ出かけてしまったらしく、ほとんど人が居ない状況だった。
唯一残っていたパーティーがこっちに向けて声をかけて来る。
「パーティーを組むことにしたのか? その爺さんと? 」
爺さん、とは他に居ないので間違いなく俺のことだろう。
「そうだ、役に立つかどうかこれから実証実験だ。本当に魔石が100%落ちるなら深く潜らなくても収入になるからな。悪いが譲る気はないぞ」
「本当にその爺さん大丈夫なのか? 道中で腰を悪くしたりしないか? 」
「それも含めてだ。もし探索が無理な様子なら止める所だが、庄司さんがテストをして問題なしって太鼓判を押してくれているからな。信頼はしているところだ」
「そうか、庄司さんがか……なら大丈夫そうだな。気を付けて行って来いよ」
茶化しに来たのかと思えば、真面目に心配しての進言だったらしい。そこまで身を案じてくれていたというのは意外だな。
「あんな口調だが、昔は年寄りでも何かできることをって探索者になるためにここへ来て、いざ探索の段階になって体調不良を起こして途中でダウンする、って人を何人も見てきたんだ。だからあまり気にしないでやってほしい」
「そういう理由なら納得できる。だが、俺もそれなりに鍛えてきてるから心配ないってところを見せておかないとな」