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第63話:試運転 1

 いつもの”鉱山”へ行く間に戦う方法や立ち位置、俺が攻撃を入れるタイミングなんかを打ち合わせする。どうやら盾役を担当する田沼さんにはタウントというスキルがあり、それによってモンスターの注意力を引き付けることができるらしい。そう言えば俺、スキルについてはほとんど何も知らないな。今度何処かでそういう講習があれば受けてみたいもんだ。


 ちなみに佐々さんはウォークライと言って、自らや周囲のパーティーメンバーのやる気や集中力を高め、それによってより激しい攻撃や致命傷を与えやすくするスキルを持っている。


 また、谷口さんは斥候役のスキルとして鷹の目というスキルを持っており、ある一定範囲のモンスターや人物の位置を把握することができるとか。人の多い所に居ると眩暈がしそうなスキルだが、意識的にオンオフすることができるらしく、ダンジョン外では使わないようにしているとか。


 皆スキル持ちか、いいなあ……俺にもスキル何か生えないかな。この歳でスキルが生えても活かす時間はそれほど残されていないだろうが、巡り巡って誰かの助けになるならそれもまたありなんじゃないだろうか。


 マツさんも言っていたが、レベルを上げれば必ず生えるというものでもないらしいが、レベルアップを機会としてスキルを覚えることは多いらしい。


 この三人にも聞いてみたが、スキルが生えたのは皆レベルアップのついでに頭の中に声が聞こえた、と口をそろえて言う。この三人のレベルも気になるが、スキルはレベルいくつぐらいになると生えてくるものなんだろう。


「私にもスキルが生えるとしたらどんなスキルなんでしょうね。色々あるらしいですが、その体質に見合ったスキルであると嬉しいですね」

「野田さんだと、マジックバッグ系のスキルが相性がいいでしょうね。異次元に物を貯めこんでおけるスキルなんですよ。希少で中々持ってる人を見かけないスキルではあるんですけど」


 谷口さんが希望するスキルであろう所を口にする。マジックバッグというか収納系スキル、というところだろう。たしかマツさんのところで読んだ本にもそのようなことが書かれていたことを思い出す。


「マジックバッグですか……確かにそれがあれば換金所との往復も必要なくずっと潜っていられるでしょうし便利ですね」

「マジックバッグ持ちは貴重だからな。もっと奥の方へ向かう探索者パーティーに大事に育てられている場合がほとんどだ。四層程度で留まっている探索者には滅多に出会えないレアキャラだ。飯も仕舞っておけるし、朝弁当を持って出かけたら夜まで戻ってこなくて済むってのもいい所だな」


 田沼さんはマジックバッグ持ちが羨ましいらしい。俺も羨ましい。荷物もさっと持ち替えることができてきっと戦闘の幅を持たせることもできるんだろうし、モンスターのドロップ品、魔石以外の品に関しても持ち帰ることができるならばそれもまた一財産になるんだろう。


 しばらく歩きながら陣形の形をとったり意識しながら歩いたりして、”鉱山”に到着した。受付で四層まで行くことを告げ、四人であることと三層までは問題なく四人とも潜れることを確認された。


「さて、潜りましょうか。野田さんの話が本当か疑うわけじゃないですけど目の前で見せてもらえればより信憑性も上がると思いますし」

「そうですね、実際見てもらった方が早いと思いますし、三層までまず歩きましょう。さすがにその間ぐらいは私も無事に戦えると思いますので」


 槍を強めに握ってさあ、今日も戦うかという気合を込める。今のところ戦うことしかできない俺にも役に立つことがあるとすれば、それは魔石の安定供給というこの体質を生かした仕事に邁進することだろう。さて、一層に入りしばらく奥まで進む。入り口周辺は他の探索者や門番担当が綺麗にしてくれているため、しばらくは安全な空間が確保されている。


「野田さんのその槍は結構立派だけど、どこで購入されたんですか? 」


 佐々さんにそう聞かれ、答えをどう濁そうか少し考えてみる。ネットで売ってましたとは言えないからな。


「これは、ある人に餞別でもらったものです。前に居た場所から離れた際にこれからも使うかもしれない、と言われて」

「大事な奴なんですね。使い所がちゃんとできたのは良かったのかどうかは悩ましいところですが」

「でも、誰かのためになるために使うのは悪いことではないと思ってますよ」


 そのまま一層ではモンスターに出会わないかもしれないようなスピードで進むが、ちゃんとビッグラットは出てきてくれたので俺一人で倒し、ちゃんと魔石が出たことを確認してもらう。


「これがたまたま、という可能性もあるので、念のため私が一撃入れた後誰かに止めを刺してもらって、それでも魔石が落ちるかどうか確認してもらおうと思います」

「わかりました。確かに、確実性という点では大事ですもんね」


 まず、どういう仕組みで魔石が必ず落ちる、というものが働くのかを目で見て体で感じて確認してもらうのが一番だからな。俺がちょっとでも傷をつければいいのか、それとも確実にダメージを与えなければ落ちないのか。

 そのあたりを理解してもらうにもまずはモンスターを見つけないといけないわけだが、まずは谷口さんの索敵に任せることにするか。俺もパーティーメンバーの実力を知っておかないといけない所だからな。


「百メートル先、岩陰にゴブリン二匹かな。まず一匹受け止めてて、その間に野田さんに一匹を完全に仕留めてもらって、もう一匹は傷だけつける形にして止めをこっちで刺してみて調査、ということでどうでしょう」

「問題ない。今更ゴブリンに後れを取るでもないからな。野田さんはそれでいいかな」

「はい、ではそれで行きましょう」


 ゴブリンに近づいて一気に一匹を槍で突き刺してすぐさま戦闘不能にする。それと同時に田沼さんが盾を叩いてスキル発動、タウントを使い、俺の真横にいるにもかかわらずゴブリンが田沼さんのほうに気を向ける。なるほど、これがスキルの効果か。


 ゴブリンが田沼さんのほうに駆けていくのを追いかけて、ゴブリンが田沼さんの盾に一撃入れた後、俺がゴブリンの腕に傷をつける。


「これで大丈夫なはずです」

「よしきた」


 佐々さんが最後にゴブリンに止めを刺して一戦闘終わり。ゴブリンが両方とも魔石を落としたことを確認して、今のところ魔石ドロップ率100%であることを証明する。


「とりあえず今ぐらいのダメージでも問題なく攻撃が入って体質が発動する、証明にはなりませんか」

「この先々でどうなるかはわからないけど、今のところ納得するしかないでしょうね」

「野田さんのスキル……いや、体質は間違いないようだ」

「これで稼ぎは十分確保できるってことでしょう。さあ、せっかくの結成式もやったことですし、魔石を持ち帰られるだけ持って帰れるように一仕事頑張りますか」


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