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第64話:試運転 2

 引き続き”鉱山”を下層へ下りていく。道中のモンスターはそれぞれ俺が一撃を加えてその後で佐々さんが止めを刺すか、戦闘の隊形や相手の位置によっては完全に俺が倒してから次へ向かったり、一撃を加えた後タウントでモンスターを引き寄せてもらい、順番に倒していく等、いくつかの連携のパターンを試しながら向かうこととなった。


 二層に来る頃には形として段々それができ始めてきて、二層を抜けて三層へ到着する頃には問題なくその動きを意識しながら戦うことができてきている。


「野田さん、歳のわりに物覚えが早いね。やっぱりそれもレベルアップの恩恵なのかな」


 佐々さんがモンスターを探す間の雑談にと話を振ってきてくれている。無言で歩き回るよりは気が楽になるのでありがたい。


「どうなんだろうね。ボケも随分よくなった気がするからそういうことなのかもね」


 段々口調も打ち解けてきて、お互い年齢差があるにもかかわらず年長を慮ったり年下だからだと逆に気を使ったり、ということも少なくなってきた。むしろ、短い言葉でやり取りする必要があるダンジョン内の緊張がかえっていいほうにまわってきているのかもしれない。


「さて、そろそろ三層だけど、ゴブリンマジシャンをどうやって倒していくかが問題かな。アーチャーぐらいなら問題ないけどマジシャンにはタウントが効きにくいんだ」

「だったらマジシャンを見かけた時点で俺が突っ込んで確実に収入を得られるようにしたほうがいいかな。この階層のモンスターぐらいなら田沼さんに任せても大丈夫かな? 」

「まあ、それは大丈夫だが、野田さんはあんまり無茶しないでくれよ。攻撃の基点が野田さんなんだからそれが崩れるようじゃせっかくの隊形が台無しになっちまう」

「そこはもちろん。だからできる範囲でやるのは大前提だ。その上でも相手の隊形によっては取り逃すことにはなるけど、出来るだけ稼いで帰りたい……というより往復回数を増やしたいのは同じだろうしね」


 前回は盾役こそいなかったものの、三人でもなんとかなった。今回も何とかなるだろうと慢心するのは良くないが、とにかく俺が攻撃を始めないとせっかくのパーティーが組み立てられないという仕組みな以上、俺がちょっと踏ん張って頑張らないといけない所ではある。


 いや、だがあんまり不安がらせるのも問題か。ほどほどのところで突っ込むのはやめておかないといけないな。上手く誘導してタウントの範囲に入れつつ、全体の攻撃を受け流してもらいながらこっちが攻撃にいけるようにモンスターを誘導する、そういう作戦も必要か。


 考えてる間に、ゴブリンアーチャーとゴブリンマジシャンという遠距離セットがやってきたらしい。どっちからやるべきか。


「野田さん、マジシャンから先に。アーチャーはこっちで引き付ける」

「了解」


 田沼さんがタウントでゴブリンアーチャーの注意を引きつけている。ゴブリンマジシャンにもタウントがかかったらしく、田沼さんに向かって魔法を詠唱し始める。今ならチャンスか、と全力で駆け寄って、魔法が発動する前にゴブリンマジシャンの首に槍を突き刺し、詠唱をキャンセル。すぐさま引き返してゴブリンアーチャーに傷を与え、佐々さんが勝負を決める。


 その間に谷口さんがゴブリンマジシャンに止めを刺し、黒い粒子になって消えていったモンスターから魔石を回収。ゴブリンアーチャーも同じく魔石に変わり、そして弓を落とした。


「この弓はどうします? 」

「流石に荷物なんでダンジョンに吸収してもらおうかなと。持って帰って金になるわけでもないですからね」


 マツさんのところではゴブリンの魔石と同じぐらいの価値だったから、手持ちに余裕があれば持って帰っていたが、こっちではそういうわけにはいかないらしい。


 弓をそのまま置き去りにすると、三層をうろつき始める。そう言えば俺、三層から四層へのの道知らないや。今のうちに恥ずかしげもなく聞いておこう。


「どっちに行ったら四層なんですかね? そういえば前回は三層で引き返したし斥候役が道を知ってるだけだったのでどっちへ行けばいいかわからないんです」

「じゃあついてくる感じでお願いします。五層までは頭に入れてきたし、最悪地図を見れば方向は解りますから」


 どうやら谷口さんが地図をちゃんと携帯してくれているらしい。いかんな、そのへんもしっかりしないと。一人で潜ることはないとはいえ、マップを把握していてくれていることは有り難い。というか俺もちゃんと学んでおかないとな。


「まあ、四層まで一人で行くことはないだろうからマップを把握してなくても仕方がないかな。それに、まだそんなに回数潜ってないんでしょ? 」

「同じところをうろうろしていたという意味では複数回ですが、三層もちょこっとだけ入って先日のあふれが発生したところだったからね。まだまだ慣れと知識が必要かなって思ってるよ」


 佐々さんに言われた通りまだ通いなれてないが、一層から三層に来るまでの道のりは大体覚えた気がするな。三層までは一人でも来れる、という所か。個人的には二層のマップを完全に把握して、一人で二層を回っていても問題ないようにしておきたいところだ。


 今は三層をそのまま四層に向かって歩いているらしい。むむむ……後で地図を見せてもらって歩いた風景と頭の中で合成しながら覚えさせてもらおう。


 しばらく歩くとソードゴブリン二匹の気配と谷口さんが言うので、そちらに警戒しながら進むと、言われた通りの相手とご体面。タウントで両方の気を田沼さんが引きつけてる間に後ろに出来るだけ素早く回ってちょっとずつ傷をつけていくと、佐々さんが止めを刺していく三店方式で難なくクリア。魔石も両方出た。


「ちょっとした傷でも攻撃した判定になるわけか。回復されてたらどうなるんだろう? 」

「回復してくるモンスターと出会ったことがないのでわかりませんが、ダメージを基にされるのか、それともフラグみたいなものを立ててるのか。悩むところですね」

「まあ、回復してくるモンスターはこの”鉱山”にはいないから心配しなくていいと思うわ」


 回復してくるモンスターはいないらしい。いたら見てみたいところでもあるが……そういえばヒーラー職の人にもまだ出会ったことはないな。貴重な回復スキルというもの、怪我してまで見てみたいというわけじゃないがどうやって治っていくのかは気になる所だな。


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