三層でしばらく肩慣らしと魔石集めを行って、そこそこの収入を得た。三層ならうまくチームワークを使って戦うことができるのを確認。俺も三人に合わせてモンスターに傷をつけていくことに慣れ始めた。
「この調子なら四層でも大丈夫そうだな。流石に戦いなれしてるだけのことはあるか」
「ここまでなら他のダンジョンで体験済みなんですよね。この先はちょっと解らない、というのが正直な所ですね」
「オークはゴブリンと違って耐久力が一枚上ですからね。俺みたいにアタッカーが居ないと中々手間がかかる相手だ」
一回戦ったが、たしかにしぶとかった。俺の槍では一回二回の攻撃で仕留めきれる相手ではないことは体験済みだ。
あの時はシゲさんもいたから何とかなったところがある。今回は田沼さんも居るし、パーティーとしての安心感はより高まっていると言っていい。四人でオークなら前よりも手早く確実に倒せるんじゃないだろうか。
四層に入り込む。四層も三層と同じく、壁が光っている。この”鉱山”は全部見た目は同じなのだろうか。だとしたら今自分が何層に居るかを見失うと大変な目に合いそうだな。
「さて、オークはどっちにいるかなと……左方向に百メートルってとこかな。一匹だけだしまずは小手調べってところでしょうね」
まず小手調べ、ときたか。さて、オークは一匹だけ。田沼さんがきちんとヘイトをとれていれば佐々さんと俺が自由に動ける。予想通り、田沼さんが盾をがんがんと叩きながら挑発。おそらくこの行為によってスキルとしてのタウントも発動条件になっているんだろう。
オークが田沼さんに釘付けになり、そのまま走って追いかけて来る。盾で攻撃を受け止める。ゴブリンと同じく得物はこん棒だが、体格も膂力も違うオークなので同じように軽々と受け止めるではなく、全身の筋肉をフルに使って重く受け止める、といった感じでしっかりとオークの攻撃を止めていた。
「今! 」
「よし」
田沼さんががっちりオークを受け止めている間に佐々さんと俺でオークに攻撃を仕掛ける。がら空きの腋にやりを突きこむが、オークの質量と肉の分厚さで本当にダメージになっているかまではわからない。しかし、佐々さんのほうはオークの右腕を切り飛ばし、確実なダメージを与えていく。俺もあのくらいできるようになればいいわけか。
得物と右腕を失ったオークが佐々さんのほうへ向きなおすが、そこで田沼さんが盾でオークを殴りなおして再びタウント。オークの意識が田沼さんに移っているそのわずかな間にもう一度こちらも攻撃。同じ傷口に向かって槍を突きこみ、更に体の内部へと槍を突きこませる。
佐々さんは今度は首を狙って攻撃を仕掛ける。オークの太くくびれの無い首は跳ね飛ばせこそしなかったものの、半分ぐらいまで切り込みを入れることに成功していた。
自分へのダメージに耐え切れないオークが攻撃姿勢を中断して左腕で切られた首の傷を抑える。そこでもう一突き、俺からオークへと今度は顔を狙ってダメージを与えに行く。目に突き刺すように狙った槍は少し狙いがそれ、耳の穴にスポッと吸い込まれていったがそれが脳までたっしたのか、急に柔らかい感触に包まれる。それが決め手となったのか、オークは黒い粒子になって消えていく。
後に残った魔石を拾って四層最初の戦闘が終わった。二回目とはいえやはりオークはそれなりにタフなんだな。
「一仕事終わった後で悪いけど、ホブゴブリンが近くをうろついてるわ。大きな反応がある」
ホブゴブリンか……庄司さんの索敵で存在だけは知ってるけどどのくらいの強さのモンスターなのかは事前情報がない。ちゃんと聞いておくべきだそうな。
「ホブゴブリンってまだ見たことないんですけど、どんなモンスターなんですか? 」
「ホブゴブリンはお共に三匹ぐらいのゴブリンを連れていることもあるけど、単体のがほとんど。あふれの時でもない限りは一人でいることはないわね。今はあふれも収まったばっかりだし、あふれの後の掃討も終わっているから間違いなくお供を連れて出て来るわよ」
つまり、複数回攻撃しないといけない訳か。お供のゴブリンが弱ければいいんだが、これは田沼さんに負担がかかる戦い方になるかもしれないな。
「第二目標はホブゴブリンの撃破と魔石の確定ドロップ。第一目標は無事に倒し切ることね」
オークに比べて厄介なことは間違いないらしい。もっと鍛えてレベルを上げれば気楽に対応できるようになるんだろうか。
佐々さんも谷口さんもそれぞれやることは考え付いているようで、俺はその二人に止めを刺してもらうために二人の間を行き来しながらそれぞれの相手に攻撃を与える、ということでいいのかな。
「とりあえずホブゴブリンを対処、頑張って攻撃を加えるからそれまで耐えてね田沼さん」
谷口さんが田沼さんへ確認を取る。田沼さんは大きく頷いて盾役を務めることを確認した。
「佐々さんも野田さんに合わせて出来るだけ早めの対処をお願い。野田さんは素早さが要求されるけど大丈夫かな? 」
「佐々了解。野田さんの動きに合わせる」
「野田了解。努力します」
俺の動きが遅れれば遅れるほど田沼さんに負担がかかることになる。これはうかうかして居られないな。もしかしたら四層は俺を基点とした動きに対応するには結構手間なのかもしれないな。時間効率を考えて、一番いいほうを選んでいきたいところだが、今日明日でそれを判断するのはなかなか難しいらしいな。
曲がり角の先にひときわ大きいゴブリンが見え始めた。確かにこれは一発入れて終わり、というような相手ではないらしい。お共に普通のゴブリンが見えている。お供のゴブリンを先に倒すか、それとも最初に一撃入れた後、他のみんなでホブゴブリンをやってもらっている間に俺がゴブリンを倒すか。選択する余地があるだけまだ余裕はあるということか。
「これ、最初に私がホブゴブリンにちょっかいかけて、その後ゴブリンを任せてもらうほうが動きやすかったりしますか」
「そのほうが集中できるからこっちは助かるかな。それで行けますか」
「佐々さんの負担にもよりますが、谷口さんもホブゴブリンに集中できるようになるのでその分楽になるかと。どうでしょう」
「野田さんの案でやってみるか。野田さんはホブゴブリンに一撃入れることを真っ先に、でよろしく」
「よろしくされました」
カウントをして、カウント後に一斉にモンスターに歩み寄る。そして田沼さんがタウント。これでモンスター三匹が一斉に田沼さんのほうへ向かって駆け寄ってくる。すれ違いざまにホブゴブリンの脇腹に一撃を繰り出し、確実にダメージっぽいものを与えると、その間に他のタウントに刺激されっぱなしでこっちに思考が向いていないゴブリンを一匹ずつ倒していく。出来るだけ手早く、確実に。
二匹のゴブリンを倒し切るころにはホブゴブリンはもう倒されているか……と思ってそちらを見ているが、流石にそういうわけにはいかないタフネスをお持ちらしい。ホブゴブリンは何度も佐々さんの斬撃を受けながらもまだ戦える状態にあった。これは急いで攻撃に参加しないといけない奴だな。
急いでホブゴブリンに近づくと背骨の付近を狙って槍を突きこむ。ゴブリンとはまた違う、肉の抵抗があり、ホブゴブリンの硬さを思い知らされることになった。
田沼さんが盾でホブゴブリンの重たそうな一撃を耐えながら、佐々さんが確実に切り傷をつけていき、谷口さんも急所狙いで何度か攻撃を加えている。ホブゴブリンってこんなに急に強くなるのか。ゴブリンの上位種とは言え、他のゴブリンとは一線を画している。
戦闘は一分ほどの長さになり、耐え続けた田沼さんにも少し疲れが見え始めたところで、ホブゴブリンは倒れた。決め手は佐々さんの心臓付近への一撃だった。やはりモンスターも心臓部分に弱点があるらしく、それを受けて倒れたホブゴブリンは魔石を残して消え去っていった。