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第66話:ゆっくり四層を回る

「ホブゴブリン、強いですね」


 月並みな感想だが、それ以上の感想が出てこない。一人でこれを相手しろ、と言われたらちょっと難しい、いや、無理だろう。パーティーで四層で戦って来いと言われたら多分何とかなるだろうが、とてもじゃないが俺の実力ではどうにもなりそうにない。


「ええ、だから四層以降はパーティー必須な場所なんですよ。ここから難易度が一気に上がるので」

「なるほど。ソロだと二層までが限界ってところですかね」

「三層までソロで潜る探索者はいますけど、野田さんを除けば三層までソロで潜るぐらいだったら臨時でパーティーメンバーを見繕って四層か五層へ突入するほうが効率的だとは思いますね」

「四層からは品質のいい魔石が落ちますからね。これがまた中々にエネルギー量の高い魔石になっているんですよ」


 ホブゴブリンから拾った魔石と、ゴブリンの魔石を見比べてみる。ゴブリンの魔石は黒っぽいが、ホブゴブリンの魔石はやや赤みがかっている。大きさも違うが、その色合いだけでも随分内包されるエネルギー量が変わってしまうらしい。


「とすると、四層のモンスターを定期的に倒せるようになってここの密度の魔石を持ち帰られるようになれば、交易の効率がよくなるってことですか」

「そんな感じだね。量を確保するだけなら三層でも充分なんだけど、交易の行き来の荷物を減らすためとかそういうことを考えると四層で品質のいい魔石を集めているほうが積載効率がいいのでそうしたいんですが、大丈夫そうですかね? 」


 どうやら俺の心配をされているらしい。他のみんなは平気そうな顔をしているので、四層には何度か来ているのだろう。


「私は……慣れるまで足を引っ張るかもしれませんが、確実にものにはして見せますよ」

「それが聞けて安心です。四層が厳しいなら三層でレベルを上げつつ戦っていく、という形になることになったでしょうが、四層で同じことをやったほうが効率がいいですからね。ちょっとパワーレベリングみたいな形になるでしょうが、野田さんも我々もレベルを上げて行ってより強くなれば四層から五層へ向かうようになれるかもしれません。そこを目標として行きましょう」


 佐々さんが前衛の枚数が一枚増えることに少しほっとするような表情を見せる。やっぱり攻撃の手数が多いほうが早く終わるだろうし時間効率も良い。俺が攻撃を加えるのが第一条件とは言え、ホブゴブリンのように耐久力の高いモンスターを倒すにも、俺の攻撃が通ることが大事なんだろう。


「では、ゆっくりでいいですから四層を回って荷物が、そうですね……七割ぐらいになるまで頑張ってみましょうか。それだけ一杯になれば帰り道のモンスターでちょうどいいぐらいになりそうですから」


 谷口さんが探索予定を立てる。他の二人はそれでいいと頷いているので、俺も続いて頷いておく。四層から一層への移動の途中に残りの三割を埋めてしまおう、という話らしい。それだけ解ってれば多分大丈夫だよな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 引き続き四層を回る。俺がまだ四層のモンスターに慣れていないのが主な原因だが、これも最初の内だけだろうと考えている。午前で四層をひとしきり回れるならば、午後にもう一度回るチャンスはあるはず。その間に体を慣らしてモンスターに慣れて、どう戦えば一番効率がいいのかを探していこうと思う。


 四層ではだが、オークは固まって行動することはなく基本的に一匹で行動してることのほうが遥かに多い。その為田沼さんへの負担はできるだけ最小限にとどめることが出来ているようだ。


 また、途中オークを仕留める所で俺のレベルが上がった。腰や頭のもやはもう完全に取り去られたと言っていい。年齢こそ63だが、体の動きは40そこそこぐらいまで回復したような気分だ。ここから先は更に若返り、動きも機敏に、そしてパーティーメンバーの足を引っ張らないようにより洗練された動きが出来るようになっていくことを願う。


 そういえばみんなのレベルはいくつぐらいなんだろう。今度食事のついでの会話にでも聞いてみるとするか。みんな俺より高いか、高くないけど若い分レベルに補正されないそもそもの身体能力で上回れているのかもしれないしな。レベルにおける年齢への影響なんかは調べてみないとわからないだろうし、そういう実験も何処かで行われていたりするんだろうか。


「これで五郎さんはレベル……いくつになったんですか? 」

「えっと……二十八かな。他の皆さんはいくつぐらいなんですか? 」


 丁度聞けるタイミングが出来たので聞いてみる。


「俺は四十」


 佐々さんは四十らしい。俺よりだいぶ上か。


「私は四十五ね」


 意外だが谷口さんは更に上だった。


「私は三十七ですね」


 田沼さんも俺より上。ここで一番レベルも身体能力も低いのは俺ということが確定してしまった。みんな俺よりレベルが上だった。つまり引っ張ってもらってる形になるのだな。もしくは、レベルが高い分もっと奥の階層に潜っていたのを俺に合わせて下がってきてもらっている、という可能性もある。


「じゃあ頑張って追いつかないといけませんね。ソロでも二層を巡ってレベルを上げていけるように頑張ろうと思います」

「あんまり無理はしないでくださいね。このパーティーは野田さんが要になって結成されたパーティーですから、無理して動けなくなったり負傷されて探索に出れない、となると私たちも井上さんにいい顔が出来なくなりますから」

「それはもちろんです。ある程度自分の実力は見極めてるつもりですので」


 谷口さんからの心配にきちんと答える。俺だって無理が出来ない年齢と体だということは承知している。でも、二層辺りぐらいならソロで回っていても問題ないだろう、というのが今のところの体感感覚だ。


 オークを着実に一匹ずつ倒し、品質が良いとされる魔石をどんどん採取していく。オークがどんな動きをしてきたなら次はこういう動作をする、という癖もわかってきたため、回避するべきタイミングや攻撃を加えても反撃に来ないスキなんかが徐々にわかり始めてきた。


 ホブゴブリンはオークより強い。オークのほうが種類が違うモンスターな分だけ強いのかとも思ったが、どうやら強さ的にはホブゴブリンのほうが一枚上手らしい。これだけの耐久力があるなら、あふれの前兆として出てきた時に危険信号としてわかりやすくもあろうというもの。


 ホブゴブリンはとにかく佐々さんと滅多打ちにしてスキがあれば田沼さんも攻撃に参加しつつ、とにかくダメージを蓄積させて叩くというのが基本戦術らしい。もっと攻撃スキルに余裕があれば色々出来るのだろうが、現状の我々の、というか俺の実力ではここまでが精一杯、というのが現状のようだ。


 もっと強くあらねばと意識を強く持つところである。


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