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第67話:昼休み

 オークとホブゴブリンしかこの階層には出ないらしい。正確にはホブゴブリンのお供としてゴブリンが出るのだが、それを除けばシンプルなモンスター構成と言えるんじゃないかな。


 なにせ、面倒くさい遠距離攻撃を仕掛けてくるモンスターが居ないので、パーティーの地力で上回っていれば不意のアクシデントは最小に抑えられる。そして、それぞれ一撃で倒してしまえる相手ではないので、攻撃するタイミングが十分にあるので俺の体質である殴れば魔石が必ず落ちる、という現象を確実に発生させることができる。


 ここをソロで巡れるようになればかなり美味しくなりそうだな、という感想は出るが、それまでに俺の寿命が尽きるかどうかはわからない。レベルアップで肉体寿命と精神寿命はどうやら少しばかり延びたらしいので、レベルアップによる延命治療という意味では充分に活用できているのではないだろうか。


 予定通り、七割ほど荷物がいっぱいになったところで戻りの道を進む。これ、普通に換金したらいくらぐらいになるんだろうな。そういえば、荷物自体は全て交易用に回されるということにはなっているが、我々のお給料はどのくらい出るんだろう。事前に確認をしておくべきだったか。


 さすがに井上さんもマツさんのためだから無料で働けるよね? とは言えないはずで、換金所で何かしらの手続きをした後にそれなりの報酬を約束されるものではあるとは思ってはいるが……これは換金所で聞いたほうがいいな。今帰り道に差し掛かってもめたりするのはあまりよろしくない。


 考え事をしながらもモンスターの襲撃は来るので随時対処はしているものの、頭に引っかかることがあると若干動きが鈍るのは仕方ないことで、ゴブリンから一撃貰ってしまった。ただのゴブリンのこん棒の一撃なので痛くもなく、頭部に受けたからと言って脳震盪を起こしたりはしなかったが、ちょっとだけ危なかったな。これがオークやホブゴブリンだったら一発でかなりのダメージか再起不能になっていた可能性もあるのだ。


 いかんな。今は無事に戻ることだけを考えないと。


 一時間ほどかけて換金所まで戻ってきた。荷物は満タン、四人とも豊作である。


 佐々さんが代表して受付と交渉している。どうやら秘密の符丁みたいなものがあるらしく、少々こそこそと話をしていたが、話が終わると換金の受付を開始し始めた。全員分の荷物をまとめて提出し、それぞれを鑑定、換金して四等分して結果を出してくれた。


 午前の働き分の報酬、およそ一万五千円。午後からも同じ行程をやるとして、もう二万円分ぐらいは稼げそうな雰囲気だな。午後からは俺も慣れてきただろうし、もう一回ぐらいはレベルアップが出来るかもしれない。より役立つ爺さんとして戦闘に参加するべくやる気が満ち溢れてきたが……その前に腹ごしらえだな。


「飯食ったらもう一度行きますか。野田さんは大丈夫? 疲れてきてたりしない? 」

「大丈夫。握り飯三つで丸一日戦い続けたこともあるから、それに比べればまだまだ楽だよ」

「ダンジョン帰りってみんなこんな感じなのかしら」

「戦闘担当は皆慣れてると思う。俺もこっちへ帰ってきて一人とは再会できたけど、他のみんなはどうしてるかはちょっと解らないな」

「そんなに大勢いたんですか? じっくり聞きたいところですね」

「そんなに聞いてて気持ちのいい話じゃあないが……まあ飯の種ぐらいにはなるかな」


 四人そろって食堂へ行く。今日の食堂のワンコイン定食は……味噌汁と漬物とサラダのランチだった。今日はカロリーっ気は少なめらしい。その代わり、味噌汁には少量だが豚肉が入っているようだ。肉もあっちでは結構貴重品だったな。


 初日のコロッケと比べると今日の定食はちょっとお高く感じてしまうのは仕方ないところ。でも、五百円でほんのちょっとでも肉が食えるのは有り難いことか。畜産も必要とはいえ、貴重な食料を喰わせて肉にさせてそれからたんぱく質として補給するというサイクル上、人間でも食えなくはないものを食べさせて丁寧に育てられた肉に違いない。


 ダンジョン災害前みたいにA5ランクの和牛が、なんて世界ではなくなってしまった。今では赤身肉が食えるだけでも贅沢な食事と言えるんではないか。


 全員がワンコイン定食を頼み、席を探すと六人掛けのテーブルが空いていたのでそこに四人で座る。二人組が来ても席がちゃんとあるように固まって座ることにした。


「とりあえず午前中お疲れ様でした、ということでいただきます」


 佐々さんが音頭を取り、みんなでいただきますしてご飯を食べる。肉っ気はほとんどないが、山盛りのご飯がうれしさを感じさせてくれる。米だけはちゃんと食えるようにしないといけない、という”鉱山”で働く人たちへの気配りが見える。その分だけ肉が食いたいと言い出せるようになったのは最近だから、やはりレベルアップは身体を若くしてくれるんだろうな。


「結構量が多いけど、野田さんはこれだけ食えるの? 特にご飯」

「食は太いほうなのでこのぐらいなら問題なく。むしろもうちょい肉が食いたいところかな」

「肉はなあ……冷凍冷蔵は出来るとはいえ、そう多く確保できるものでもないし、育てるにはそれなりにコストがかかるからなあ」

「前にコロッケが出てきたことはありましたけど、中身はジャガイモだけでしたね」

「肉入りコロッケなんて贅沢な。そんなのもうしばらく食べてないな」


 やはり肉は高級品らしい。これはマツさんのところから買い付けに走るにはちょうどいい消耗品なのかもしれないな。


 味噌汁を飲む。薄くはないのでしっかりと味噌の味はしているし、だしも入っているらしい。しっかりと深みとコクのある美味しい味噌汁だ。これにほんのちょっとだけ肉が入っていた。残りはご飯でなんとかたんぱく質を確保してくれ、ということなのだろう。後は別の日に豆腐でも出ればいいんだろうが、今日の栄養バランスは炭水化物に偏り気味になるらしい。


 これでもちょっとずつ改善してるらしく、畜頭数は徐々に増加傾向にあるとか。絶対生活圏の拡充によって農作地や放牧地が増えることになり、そこを使って新しく起業していく人が増えているらしい。ダンジョン探索者も電力、火力インフラとして大事だが、そっちのほうも頑張ってもらいたいところだ。望めば毎日肉が食える生活ってのは心に余裕が増えるからな。


 心の余裕は体の余裕。その為にも、マツさんをこちらに招聘してスキルを存分に発揮してもらう、というのは井上さんだけでなく、この地域一帯にとっても結構な仕事であることは間違いないだろう。



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