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第68話:食後

 食事を終えて少し休憩した後、再び四層へ向かうことになった。午後からもしっかり気合を入れて稼いで、マツさんへの支援物資をかき集める役目、と思えば気合も入ろうというもの。


 食堂の無料の水をしっかりと水筒に詰めて、ついでに腹が減った時用の豆菓子を少し買い入れると、活動の準備は万全だ。豆菓子は夕食の後か寝る前にお腹が空いたら食べるでもいい、食料を少しでも携帯している、という安心感は心に余裕を持たせてくれる。


 他の三人も、もう一稼ぎはしておかないとな、という感じで午後の作業もいっちょやるかと乗り気だ。一往復半ぐらいはできるだろうか。夕食を何時にとるかにもよるが、食堂は二十四時間営業なので多少遅くなったとしてもまあ問題はない、という所だろう。


 そして、食事が終わって団らんしている間に四人で探索スケジュールを決めることになった。流石に毎日潜って同じように、というのは肉体的にも無理を強いることにもなりかねないので、一日おきに集まっていけそうなら四層に潜る、ということで今のところのスケジュールを調整することになった。


 二日で一日。週三か週四のお手軽探索で良いのかとも思うところではあるが、向こうにいた時とは違い生活と命がそこまでかかっていない分と思えばそのぐらいでもいいのか、とちょっと安心するところではある。毎日日向でボーっとしていたころをふと思い出すと、俺も随分と健康的になったものだな。


「そんな感じで、とりあえず明日は休み、ということでいいかな」

「根詰めて探索しても身に着くとは限らないからな。しっかり休んで次の探索に備えていく。それも仕事の内だ」


 ふむ……しかし、一日おきではわりと暇だし、一人暮らしを始めるという目標の金を貯めるには少し時間がかかるかもしれない。半日でもそこそこ稼げると考えて、午前中ぐらいは稼いでおきたいところだな。週七で働く、というわけにはいかないので丸一日は休みとして一日、午前、一日、午前と仕事をするようにしようかな。


「野田さんも、レベルが上がっていて体に無理を利かせられるからってあんまり毎日潜るようでは困りますからね」


 事前にくぎを刺されてしまった。しかし、生活費としてある程度の収入は欠かせないものでもあるし、独り立ちするという目標がある以上できるだけの稼ぎを手に入れていくことは必要だ。黙ってこっそり潜っていればばれないだろう。


「まあ、ほどほどにはしますよ。ちゃんと一日潜れるように……そうだな、目標は一日四層三往復ってところかな。そこまで行けるようにレベルと連携、実力をつけていかなきゃいけないからね」

「じゃあ、今日の目標はもう一往復ってところだな。出来ればさらに行きたいところだが」


 田沼さんはかなりやる気に道触れている。おそらく盾役としてきちんと仕事が出来ている、という実感が強い四層ではお仕事が出来ているという自信がついているんだろう。


「午前中に集めた金額、全部通常の金額として換金所に回せばもっとお金になったんでしょうけど、普段通りに四層を回っていることに比べれば多少差っ引かれてても収入としては多いものになってるからこれはこれでいいかもしれませんね」


 そういえば俺の場合、普段皆がどのぐらいの時間をかけていくら稼いでるかは理解できないんだったな。普通は三倍ぐらい時間と手間をかけて稼いでる、と思っておけばいいんだろうか。だとするとみんなの稼ぎは一日一万円から二万円、という所なんだろう。


 なら、半日午前中だけ仕事して午後は何かする、というスケジュールでも問題なさそうだ。よし、空いた時間もしっかり稼いで行くことにするか。


「さ、午後も稼いで行きますか。早く稼いで早く帰って、可能ならもう一往復……というところでしょうか」


 佐々さんはしっかり稼げることを確認した上で、もっと稼いで帰りたいという意思を明確に出してくる。俺も同じ意見なのできっと共に美味しい酒が飲める相手なのだろう。


 全員の体調を確認したところでもう一度四層まで潜る。俺も胃袋が落ち着いて動くには問題なし。一層から四層まで真っ直ぐ抜けて、四層までまず到着。道中のモンスターは出来るだけ出会わないように、かつ戦った方が早く抜けられる場合は戦って、最短時間での到着を考慮して戦う。


「他の探索者が居るのか、意外とスムーズに四層まで来れましたね」

「昼休憩からみんな一気に動き出したからじゃないかな。おかげで階層間の道が結構整理されている。足元にもほれ」


 言われた方を見ると弓が転がっていた。持ち歩きには邪魔だし金にならないと先に潜った探索者が捨てていったものらしい。これも、時間が経てばダンジョンに吸収されていくのだろう。


「何層まではこの感じになるかわかりませんが、楽に進めそうでいいですね」

「普段ならこの間でも収入になるからと必死に探してるところだが、もっと奥で確実に魔石を手に入れる手段があるとわかってると、この歩いてる時間すら無駄に思えてくるよ」


 無駄な時間か……たしかにそうかもしれないが、この無駄な時間も他の探索者のおかげで短縮できていると言えばその通りなので、彼らには感謝しないといけないな。


「このままスッキリ四層までいけるといいんですけどね」

「四層までならまあ何とかなるんじゃないかな。五層までと言われると自信がないところだけどね」


 つまり、四層までなら比較的に潜ってる探索者が多い、ということになるのか。五層以上はそれなりに実力がないと挑めないらしい。きっとオークの上位種やゴブリンの上位種が出てきたり、集団戦を意識させられるのだろう。集団戦になれば俺の体質を活かすことなく戦闘が終わってしまうことのほうが多くなりそうなので四層でゆっくりかつ手早く、かつ確実に稼いで行くことのほうが重要な気がしてきた。


 一層から数えて両手で数えられる程度の戦闘回数で、三層を通り越して四層まで来てしまった。ここからはしっかりと戦闘をしていくことを意識していかなければならないな。さあ、気合の入れ時だ。ここから真面目に働いて稼ぎを確実なものにしていくぞ。


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