午後も午前と変わらず、オークとホブゴブリンをメインとして戦っていく。同じモンスターと戦っていくが、場合によっては同時に二匹相手にすることもある。その場合は一匹を確実に田沼さんに引きつけておいてもらって、その間に佐々さんのスキルでるウォークライを使うことになった。
理屈は解らないが、このスキルを使うことで本人とその周囲の探索者に対して一次的に戦力の増強、つまり力強さだったり敏捷性だったり、様々な効果の上昇が見込めるらしい。
試しに受けてみて分かった事だが、たしかにホブゴブリンやオークの動きがゆっくりに見え、その分だけ心にも体にも余裕が出て来る。そして、ここが弱点だろう? という部分が見えてくる瞬間が現れる。これもその効果の一部らしい。
そして田沼さんには踏ん張りがきくようになり、より長くモンスターを集中して自分にあたらせることができるらしい。攻撃系スキルというよりは支援スキルに近いものだと推測されるが、佐々さんがこれを使えるおかげでずいぶん楽に戦闘をさせてもらっている。
谷口さんは俺が攻撃したのを見送った後で、他のモンスターが近寄ってこないように気を張りながらの戦闘参加になるので一番精神的に疲れるんじゃないかというポジションだ。
「二周目になるとさすがに慣れてきたかな。野田さんも良い感じで攻撃を加えてくれているようだし、午前中よりも早いペースで回れそうだ」
「これは三周目いけるかもしれないな。今日一日で充分収入に余裕が持てそうだ」
「普段は一日かかって目一杯に持って帰っていたことを考えると、野田さん効果は凄いですね」
皆口々に褒めてくれるが、なんだか接待探索みたいな感じになって背中がくすぐったい。しかし、普通はそのぐらいの収入なのか、ということを考えると俺は他人の三倍ぐらい稼げるらしい。
「大体探索者の一日の収入というのがおぼろげながら見えてきた感じですね。今日はもう一日分稼いでるってイメージで良いんですよね? 」
「だいたい……そんな感じかな。だから午後の分はもう延長戦みたいなもんだな」
田沼さんも普段の収入を考えながら相槌を打ってくれている。一日三万稼げば探索者としては上の下ぐらいには入れそうだ。しかも二層でその収入が確定できるのだからこれはかなり楽に美味しい、ということになる。
パーティー収入からはいくらか井上さんのほうへ隠し預金として流れているのだろうから、少しばかり収入に色がついていないことになっていたとしても充分な収入と言える、という形なのだから、井上さんを通さずに単純に換金所に通してしまえばもっと上の収入を狙っていける、というところなんだろう。
「さあ、どんどん狩るぞ。谷口さん、次はどっちだい」
佐々さんは自分の仕事を十全に行って俺の攻撃が入ったのを確認すると猛烈に攻撃を始めるため、相手が一体なら防御をほぼ捨ててひたすら攻撃に励んでいる。
「次は右へ行って五十メートル、道の途中にホブゴブリンかな」
谷口さんはマイペースできちんと自分の仕事を行って出来るだけ短い移動距離でモンスターを見つけられるように常に索敵しながら移動してくれているため、ただ歩いているだけの時間というものを少なくしてくれている。おかげで戦闘回数は中々のものになっている。
「この調子なら二往復いけそうだな」
「一日でこれだけ稼げるなら毎日でも通ってしまいそうだが、二日に一回と決めた以上は守らないとね」
「二日に一回でも充分な収入といえるし、休みは取れるし、井上さんから苦情が出始めるまではこのペースで行きましょう。そのほうが安全率が取れるし、何より今は野田さんのレベルを言い訳にして楽が出来るわね」
「俺としては早くレベルを上げるためにも毎日でも潜ってしまいたいところなんだけどなあ」
それぞれが感想を漏らすが、二日に一回は全員の一致で決めたこと。そこだけは守っていかないとな。
「一番大事な野田さんが無理して疲労骨折起こしたりぎっくり腰にでもなったら困るわ。そこは自分を労わってほしいんだけど」
「そうそう、それに二日に一回二日分以上の収入があるってなら自分の生活の余裕も出て来るしな。初日だというのに欲を出すのはまだ早いと思うね」
「たしかに……それもそうか。うん、俺は今日初めて四層に来たんだった。まず離れることが大事……でしたよね」
「そうそう」
余計な詮索や考えをやめて、戦闘に集中することにした。今はこれで良いんだ。今はな。毎日潜りたいとかもっと収入が欲しいとか言い出すのはこのパーティーで安定してからでも良いんだ。より早くより強くなって、三往復してもまだまだ時間に余裕が出るようになってからでも遅くはない。一日二日の働きで劇的に変化するわけじゃないんだ。落ち着いていこう。
◇◆◇◆◇◆◇
午後も同じ戦闘をひたすら繰り広げ続け、荷物が七割になったところで一層方面へ戻り、”鉱山”から外へ出て換金所へ向かう。佐々さんが午前中と同じように換金カウンターで話をして、それから換金。ほぼ午前と同じ金額が支払われた。
「じゃあ、午後の二週目行こうか。野田さんもまだ時間大丈夫ですよね? 体力的には? 問題ない? 」
かなり心配をされているが、マツさんの下ではもっと長く多く荷物を背負って活動していたこともある。それに比べればまだまだ大丈夫と言える。
「大丈夫です、もう一周いけます」
「よし、もう一稼ぎいこう」
「賛成」
「ただし、時間で区切りましょう。そうね……三時間。三時間で戻って来ましょう。それで荷物がいっぱいにならなくても帰ってくるってことで。今後の目標として、三時間で行って帰ってきて荷物を満タンにして帰ってくれるまで成長できるようになれば充分、ってことでどうかしら」
谷口さんが乗り気ながらも中間案を出す。多分俺の体調を気遣ってということと、自分達の目標意識を考えてのことだろう。三時間で行って帰ってきて荷物を満タンに出来るなら、午前も九時に集まって三時間で行って帰ってきて、食事をとって午後も二回。九時七時のお仕事ということになる。それで三日分の仕事量が一日で片付く。
中々に良いところを突いてくる案だとは思う。俺も金を貯めて今の間借りしてる住居から独り立ちして生活をしていくにも役立ちそうだ。
「休みの間何してるか……まではいいませんけど野田さんは一人で連続で丸一日”鉱山”で戦ってるようなことだけはしないでくださいね」
おっと、早速考えていたことがばれていたらしい。
「午前中、二層だけならセーフになりませんかね? 今のところ休みの日にやることがなくて」
三人が顔を寄せ合って相談している。流石に週に一日は確実に休むが、出来れば週六勤務でその内三回がフルタイム、という感じのほうが自分のペースを乱さなくて済むような気がするんだよね。
「そこまでであれば……セーフってことにしましょうか」
「そうだな、流石に完全にしっかり休め、とは言えないし、本当に体調が悪ければそれどころじゃないだろうし」
「完全に個人の行動を決めつけることもできないし……そこまではセーフってことで」
無事にお許しが出たらしい、良かった。これで目標に一歩早く近づける。