それぞれの潜るペースも決まったところで午後の二回目の作業に入る。みんな四層でいくら稼げるかで競い合っているからか、道中のモンスターは出来るだけ刺激しないように素早く動いて、もし反応したら確実に俺が倒す、という感じで進んできている。
おかげで移動工程をかなり短くすることが出来た。移動がスムーズだと目的地での「採掘作業」も捗る。早々と四層に到着すると、早速谷口さんのスキルでモンスター情報を参照しながら出てきた順番にモンスターを倒していく。
前も言ったが、ここは近接攻撃がメインのモンスターばかりなので遠距離攻撃をしてこない分だけ戦闘に集中する時間が増える。戦闘に集中する時間が増えればその分だけ早く戦闘が終わる。早く終われば次を探すまでの時間が短くなる、と好循環を起こしてくれている。
また、午前中に上がった俺のレベルがまた一つ上がった。どうやら三十ぐらいまではそれなりに上がりやすいらしい。今まではある程度下駄をはいていた状態にでもなるのかな。レベルは三十を超えてからが本領発揮だと谷口さんに教えてもらった。
つまり、二十八前後の俺と三十九の谷口さんの間には中々追いつくことのできない壁のようなものがある、ということか。弱いモンスターを倒してもレベル上昇には寄与してくれるらしいので、順番に上げていくようにしよう。ソロで二十八なら二層も楽勝だ。楽勝の相手と戦い続けて何が経験値か、と言われるかもしれないが、もうこの歳なんだ、ある程度は許容してもらいたいものだな。
「三十を過ぎればスキルを発現する人も増えますし、焦らなくても大丈夫ですよ。それに、レベルが上がればそれだけ機敏で力強い動きが出来るようになります。そっちの面でも頼れるようになるでしょうから期待してますよ」
谷口さんにそう諭され、安心していいのかお前はまだまだヒヨッコだと言われているのか悩ましいところではある。しかし、上げられるものはできるだけ上げておいたほうがいい。明日も午前中は二層だな。
四層での採掘作業にも慣れてきた。モンスターという名の鉱脈を掘り、魔石という鉱石を持ち帰る。たったそれだけのお仕事だ、気楽に行けばいい。今のところ俺の火力を上げるにはより良い武器を持つかレベルを上げて膂力を強くしていくぐらいしか選択肢がないので、いい武器を持つ方にシフトしたいところだが今のところ持ち合わせがない。これはもう、諦めてレベル上げのほうに集中したほうがいいだろう。
「四層だとどのぐらいのレベルから上がりにくくなってくるんですかね? 」
「三十五を越えたあたりならもう五層で戦ってたほうがいいとは聞きますね。ただ、レベルの上限がいくつまでなのか……という話はとくと聞いたことがないので、もしかしたらレベルは無限に上がり続けるものなのかもしれません。あくまでこの”鉱山”での目安なのであまり深く考えなくてもいいですし、モンスターの厄介さを考えたら四層で魔石を集めてるほうが移動時間も考えると効率は良いはずですよ」
なるほど。この階層は効率がいいのか。ならあまり心配しなくて良さそうだな。てっきり四層より五層、五層より六層のほうがより品質のいい魔石が出るのでそのほうが助かります、という話だった場合、四人で五層へ向かってより強力であるだろうモンスター相手にあくせくしなければならない所だった。
ここが効率がいい、というならばもしも俺のレベルが十分に上がっている場合一人で四層を回ってモンスターと戦うことも不可能ではない未来がある、ということだな。ちょっとやる気出た。
ホブゴブリンは相変わらずの迫力と筋肉の分厚さでタウントで注意を引きつけている田沼さんに熾烈な攻撃を繰り返す。その間に佐々さんが後ろに回り込み、俺が横から攻撃したのを見計らって背中を一気に切り裂く。
その痛みでこちらに向きなおしてくるが、そのたびに田沼さんがタウントスキルを使って無理矢理興味を田沼さんのほうへ引きつけている。普通切りつけられている相手に対して真っ先に反撃しようと体が反応するんだろうが、それを越えてスキルというものは干渉するらしい。
何度かあっちを見てこっちを見てを繰り返す間にホブゴブリンはズタボロにされ、やがて体力の尽きたホブゴブリンは黒い粒子になって消えていった。そういえば、この魔石一つで一体どれだけのエネルギーを放出してくれるんだろう。具体的な価格は聞いてなかったな。今度一人で巡った時に換金カウンターで聞いてみることにするか。
「しかし、魔石がこうも簡単に落ちると、魔石の価値が下がってしまいそうで怖いな」
「そうならないように私たちだけ特別パーティーという扱いで命が下ったんでしょうね」
「パーティー募集の時は焦ってたしな、井上さん」
「そうなのか。そりゃ、スキルで魔石ドロップ率100%っぽいてす、って宣伝したら……いや、でもこんな爺さんが言ってるんだからぼけてるんじゃないかと思うほうが先の気がするな。俺もレベルを上げるまではぼけた老人そのものだったし」
「その辺は後でゆっくり……夕食を食べながらでも聞かせてもらうことにするかな。今は探索に集中しよう。あと長くても二時間だ。その間ぐらいは戦闘に勤しもう」
佐々さんの言葉で話をまとめ、再びモンスター探しと討伐に集中する。集中すると意外とモンスターもポンポンと出てきてくれるもので、まとまって出てくるケースはオークが二体、というところだった。
オーク二体ともに注意を引きつけて防御に回ってもらってる間に佐々さんと二人で片方を集中して攻撃し、谷口さんも攻撃に加わって倒すと、今まで耐えてくれていた田沼さんにお礼を言いつつ、今度は田沼さんも攻撃に参加しつつタウントを取りながら攻撃にも転じてくれたおかげで二体にもかかわらずかなりの速さで戦闘を終えることが出来た。
そんな流れで良い感じに波に乗ってきたところだったが、途中で谷口さんが手で制して全員の行動を止める。
「残念だけど時間よ。帰りましょう」
「時間で区切るって約束だったしな。今日のところはここまでだ。まずは換金所へまっすぐ向かおう。その間のモンスターもきっちり狩って、精々夕勤夜勤組が活動しやすいように道を作っておいてやらないと」
どうやら帰り道できっちりモンスターを狩っていって財布の足しにしていく模様だ。特に反対意見はない。俺ももうちょっと稼いでから帰りたかったなというのが本音だが、タイムキーパーをしていた谷口さんの言うことに反論をするつもりもないが、帰り道に湧いてるモンスターならしょうがないよな、というところでお茶を濁しておく。
谷口さんを先頭に真っ直ぐ一層へ向かう。道中に出てきたモンスターはきっちり俺が攻撃を入れて他の三人が止めを刺していく形で無事に魔石となり、財布の足しになっていった。真っ直ぐ出入口まで進んだためそれほど回数は多くなかったが、それでもそこそこの個数にはなったと思う。これが四等分して後から現金になって帰ってくるのだから、”鉱山”とはよく言ったものである。