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第72話:夕食会 2

 夕食を食べながらゆっくりとお互いの話をする。佐々さんは子供が二人いるらしい。子供を育てるためにも金は必要であり、生活をするために”鉱山”で仕事を続けていたが、今回井上さんに声をかけられて固定収入的なものができ始めるし階層はそこまで深く潜らなくてもいい、という好条件を素直に飲んでパーティに参加したらしい。


「じゃあ、普段よりはしっかり儲かってるわけですか」

「それはもう。二倍ぐらいは儲かっていることになります。探索者は税金がかからない仕事何で収入がそのまま懐に入りますからね」

「その税金周りについて詳しく教えてもらえませんか。私も収入があるので探索者の税金については詳しくないんですよ」


 今までは探索者の仕事とは無縁でやってきたからな。特殊な税金がかかるような内容になっている場合、脱税ということになってしまうかもしれない。


「探索者は換金所で換金する時点で15%の探索者税と5%の換金手数料を取られることになってるんです。なので、あらかじめ税金として納めてある、という形になってます。なのでそれ以上の税金は取られないようになってるんですよ。ダンジョン災害前後まで話を戻しますと、社会がこんな調子ですからできるだけ税金は解りやすく取れるところから取る、という形になりまして。その中で社会インフラを維持するためにも探索者はちょっと優遇されてるような形になります。ダンジョン災害以後から社会機構を回すための試験として色々税金の形について議論されまして、それから……」


 なるほど、探索者は特別税みたいな形になっている訳か。後、手持ちにある現金は既に税金支払い済み、ということになる。安心して全額使い切ってしまってもいいわけか。ちょっとした贅沢が出来るな。


「……というわけで、源泉徴収される以外は基本的に付加価値税……いわゆる富裕税ですね。一部の高級品を購入する際の税金以外はほとんどかからない仕組みになっています。その辺は野田さんは? 」

「それが家族や会社にに任せっきりだったのであんまり詳しくなかったのですよ。ですが、少なくとも探索者やってる限り税金の心配はしなくていい、ということが分かったので一安心ですね」


 税金の問題はこれで解決と。今後も心配しなくて良さそうなのはいいな。あと何年持つかわからない子の身体、全盛期とは言わないもののそこまで体を持っていくには後数回のレベルアップが必要になるだろう。それまでに何処か身体に不調が来ないようにできるだけ休む時は休んで、そして働くときは働く。きっちりプライベートと仕事を分けていこう。


「とりあえず、どうしようかな。町を見回っていい物件がないかどうかを探すのは続けようと思います。もし引っ越しするならその時は皆さんにもお知らせするのでその時は看取りのほうをよろしくお願いしますね」

「またそんな突っ込みづらいことを……レベル補正がある分野田さんは四十代そこそこの戦い方が出来ていると言っていいんですから、今日の動きを見てても解ります。きっと後十年ぐらいはまだ戦えると思いますよ」

「そうです。その年でそれだけ動き回れるなら十二分に


 十年か。それだけあればマツさんもこちらへ連れてくることができるかもしれない。その間に全力でマツさんのサポートを陰ながらしていくだけだな。


「十年あれば何とかなりそうですね。井上さんもできるだけ早く事を起こしたいでしょうし、一助となるにはそれなりのレベルアップもしなくてはいけないでしょうから、今後ともよろしくお願いします」


 一同にお礼のつもりで頭を下げる。


「はい、こちらもお願いします。全力でサポートさせていただきます」

「うん、お世話になるのはむしろこちらのほうかもしれないからね。収入のあてとしてしっかりお互い働きましょう」

「よろしくお願いします」


 三人とはこれからも仲良くやっていきたいからな。収入面でもそうだし、井上さんの手伝いでもそう。今のところこのコミュニティに知り合いは少ない。もっと増やしていくべきか、それとも小さい範囲で細々とやっていくか。


 詳細を知らない他の人にとっては100%ドロップという特異体質を放ってはおけないだろうし、既にパーティーを組んでいるからと言って、そのパーティーで活動しないときは家で一緒にやらないかというお誘いを受ける可能性もある。そうなると、うかつに探索者事務所に立ち寄るのも少し控えておいたほうがいいかもしれない。


 人が出ては去って、忙しい食堂でゆっくりと夕食を食べているのはもしかしたら邪魔になっているかもしれないが、自分達よりも早く来てまだ食事をしてるパーティーらしきものもいるので、純粋に彼らは時間を無駄にしたくないのだろうな。


「ここではあんまり長々と食事をするのは好まれなかったりするんでしょうか」

「そういうわけではありませんが、ゆっくり食事しているのは昼勤務が終わって後は帰って寝るだけ、という人たちが多いですね。おそらく早朝に来ても同じ光景が見られると思いますよ。夜勤明けでゆっくり食事して帰る時間帯、というのが時間によっては存在するんですよ。今がその時間ですね」


 なるほど、昔なら五時から男の時間帯が今、ということらしい。この後は酒を呑みに行くなり、家に帰って明日の準備をするなり、食い足りないから何処か食べ物を追加して食べに行ったり色々あるのだろう。


 さえ、そういう楽しみからはとんと離れてしまった俺は家に帰ってゆっくりするぐらいしかやることがないわけだが、この後はみんなはどうするんだろう?


「とりあえず今日は儲かったという成果を家族に見せに帰らなきゃいけないから真っ直ぐ帰りますかね」


 佐々さんは稼げる仕事にありつけたという話をしに真っ直ぐ帰るらしい。


「私も家族に連絡ですかね。まだ結婚しろと政府から要望がないので独身の内にお金を貯めておこうかなと」


 谷口さんはまだ結婚強制年齢ではないらしい。この年寄りにお付きにさせて申し訳ないような気もしてくる。もっと別の職場で年齢に近しい人を見つけられるならそのほうが良いとは思うんだけどな。


「失礼ですけど、谷口さんおいくつなんですか」

「今年で二十三になります。探索者自体は十八から始めていて、浅いところから順当に進んでいって五年ほどになりますね」


 なるほど、探索者一辺倒でここまで生きてきたわけか。


「探索者以外のものになろうとは思わなかったんですか? 選択肢もまだ色々あったでしょうに」

「そうですね、でも手っ取り早く家族に収入をもたらせるのが探索者だったっていうのと、私かなりレベルの低いうちから斥候のスキルが生えてきたのでそれもあって、メイン戦力にはならずとも何処かのパーティーのお供として呼ばれる回数もそれなりにあったので。今では天職だったのかなと思ってますよ」

「田沼さんは? 何故盾役として探索者に」

「俺は最初のころはアタッカーで剣振り回してたんだけど、レベル重ねて生えたスキルがタウントだったんで、そこから盾役にチェンジした口だな。直接戦闘に関わるって意味でも、周りの人間の命預かるって意味でも貴重な役割としてやらせてもらってるよ。にしても、野田さんのそれがスキルじゃなくて体質ってほうが一番の驚きだけどね」


 それには俺もびっくりしている。これでまだスキルが生える余地があるってんだから人生何が起こるかわからないって奴だな。俺もレベルがいくつかになるか、ある一定まで経験値を貯めればスキルが生えるかもしれない。未来に期待をしつつ、最後の一口のご飯を食べ終わった。


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