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第83話:エンチャント

 エンチャントを全員にかけての戦闘が始まった。田沼さんはオーク二匹からの攻撃を軽々と往なすと、合間に攻撃を入れるぐらいの余裕が出ている。身体能力の強化も出来ているのは確からしい。そして、佐々さんは一撃でオークを倒してのけた。


 俺も試しにとオークに肉薄し……そのままぶつかりそうになるぐらい自分が加速していることに気づくと、予定よりも早く攻撃姿勢に入りそのまま槍を突き刺し……槍がオークを貫通して反対側まで突き抜けた。


 今まで一分か二分かかっていたオーク二匹との戦闘が、ほんの十秒ぐらいで終わる結果になった。これは劇的な改善だ。


「エンチャント、何にでもエンチャントできちゃうんですね……これは高性能かも」

「野田さん自身の動きや攻撃力も上がってるようですし、佐々さんも素早く力強くなってます。谷口さんに至っては【鷹の目】まで強化されてますし……これは私のタウントも強力化しているって認識で良いんですかね」

「かもしれないですね。しかし、こんな便利なスキルが出てくれるとは、長生きはするものですね」

「野田さんは誰かの役に立ちたいって意識が強い方ですから、それがスキルのほうにも現れてくれたのかもしれませんね」


 谷口さんがおめでとうに花を添えてくれる。


「さあ、後は持続時間と具体的にどのぐらい強くなってるのかを確かめないと。まだまだ魔石はポケットに入りますし、一つ気合を入れていきますか」

「そうだな。エンチャントを持続させるのに野田さんの精神力を使っていくのかどうかもわからないし、一回かければいつまで持つかもわからないし、まだまだ知らない事だらけだが、今の俺達が絶好調だということはわかる。そのまま探索を続行して、エンチャントが切れた時にまた考えよう」


 テンションもエンチャントされているのであろう、佐々さんが昂っているがたしかに言う通りだ。この【エンチャント】というスキルが何をどこまでエンチャントしてくれるのかまではわからない。しかし、現状の自分たちにとって有用なスキルであることは間違いない。


 何度か試して使っていって、限界点や強さの上昇量、効果時間等を探りつつ、効率的に採掘活動を行っていこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間ほど経ったが、切れたような様子はない。どうやらまだ持続時間はあるらしい。谷口さんに最初にかけたので、時間が来たと感じる場合は彼女の【鷹の目】の視界がまず狭くなるはずである。谷口さんは自分の時計で計測し続けてくれているので、そこは助かる所だ。


 ダンジョン内では時間をよく見失う。明るさも風景も一定しているので、頻繁に時計を気にしなければ時間経過が解らないのはよくあること。しかし、さっきから順調すぎるぐらいのペースでモンスターを倒しては魔石を手に入れている。これは明日以降四周目に入れるかもしれないな。


 今後の予定と俺のスキルが何処まで効力があるものかまでは解らないが、マツさんとの交易ペースを上げるためにも有用なスキルであることだけは既にわかっているので、使いまくってスキルの効果を上げていくことも必要だろう。


 快調なペースでモンスターを次々と襲っては通り魔のように殺し去っていく一団。ちゃんと魔石も拾ってドロップ品は必ず落とすようにお互いの動き方も連携が出来ているので、一方的に俺が殺し切ることもあるけれどほぼ順調と言っていいだろう。


 いつもよりも三十分早く魔石を回収して納品に帰る時間を迎えることが出来た。


「おっと、どうやら効力切れみたいです。時間は……九十分ってところでしょうね」


 谷口さんが時計を見つつ俺に報告してくれる。九十分あのペースで戦ってたということか。これは中々良い感じかもしれないぞ。移動の間もエンチャントをかけておけば素早く動くことができる。その分だけ更に密度の高い採掘活動が出来るということ。これは一日四周行けるかもしれないな。


「これ、常にかけ続けたら一日四周行けるかもしれませんね」

「ざっと三割増しの稼ぎですか……悪くないですね」


 田沼さんが自分の給料を考えて舌なめずりをする。


「我々にも悪くないし井上さんにも悪くない。野田さんは良いスキルに恵まれたな」

「それもありますが、ちゃんと鑑定を受けて具体的な所を知りたい、というのもありますね。明日にでも探索者事務所に出向いて鑑定をお願いしようかと思っていますよ」

「それが良いと思います。本人が自覚できない範囲でスキルが発動してる可能性もありますからね。自分のできることとできないことをはっきりさせるためにも、一度鑑定に赴かれるのは悪くない話だと思いますね」


 明日は午前の仕事が終わったら午後からは鑑定を受けることにしよう。もしくは、午前の内に出かけておいて鑑定の空き時間を聞いて、その間に採掘して戻ってくる。こっちのほうが周りに負担をかけずに済むから良いだろうな。


 三人にエンチャントをかけ直し、駆け足気味の速度で階層を上っていく。道中のモンスターは収入なので余さず倒していく。これでちょうどいいぐらい、と思ったところで外に出た。


 いつも通り佐々さんが話を通して換金、そして給料をもらう。


「さあ、もう一周行きましょうか」

「おう」

「ええ、行きましょう。エンチャントのおかげでなんだかいつもほど疲れてない気もするし」


 どうやらエンチャントによって疲れもある程度軽減されているらしい。その分カロリーとか余分に使ってそうだが、そのあたりは大丈夫なんだろうか。少し心配だが、みんな昼飯も食ったし今補充しないと倒れてしまう……というほど食事をギリギリにしている人もいないので今のところは心配はないってことなんだろう。


 そのままのペースを維持しながら四層まで戻り、再び広がった谷口さんの視界の中にいるモンスターをひたすら狩り尽くす作業が始まった。谷口さんのスキルによる視界も広まっているため、モンスターを探すために歩く時間も短くなり、そもそも歩く時間が短くなり、そして戦闘時間も短くなる。


 三つの短くなる時間によって、今まで二時間ほどかけて集めていた四層での採掘作業が一時間から一時間半ほどで終わるペースになった。これはかなりのペースアップになる。


 使ってる間に思ったのだが、この【エンチャント】というスキルは俺から皆に対して力を与えている訳ではないような気がしてきた。なぜなら、エンチャントをかけ直しても俺自身に全く反動が来ないからだ。もしかすると、エンチャントをかけた相手の何かしらを活性化させているのではないだろうか、というのが今のところの疑問点だ。


 明日鑑定をお願いするのをさておき、使い倒してよりみんなが気持ちよく動けるようにカバーしていかないとな。俺自身にもエンチャントをかけることで動きも機敏に、そして攻撃力というか槍の振り抜きによる威力も上昇している。オークだって一撃だ。ホブゴブリンを一撃……とまではいかないのが現状だが、それでも充分役には立っているし佐々さんの負担は減っている。


 そのまま魔石を集めてまた一時間ほどすると、背中のバッグの中身がいっぱいになり始めた。もう一周行けるかどうか微妙な時間だが、みんなのやる気によるかな。他のメンバーがまだいけるからもう一周しようというならお付き合いしよう。


 今日はここまでで、明日鑑定を受けて正式なスキルとしてこの【エンチャント】の効果が判明してから作業状況を組み立て直そう、となった場合は二日後頑張るようにしよう。


 魔石を回収し終わって、素早く換金所まで戻ってくる。いつもより一時間から一時間半ほど早い揚がりの時間になったが、皆の意見は……


「もう一周行くか」

「行きましょう。稼げるときに稼がないと」

「じゃあ俺も」


 どうやらもう一周をお望みのようだ。だったら俺も付き合わないとな。


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