「多分ですが後六十分ほどであふれが収束し始めると思う。それまでにせめて一往復はしておきたいところだな」
佐々さんが大体のペースを予測して今回のあふれの進捗具合を考えている。
「やっぱりエンチャントのせいですかね? 前回はもっと長くかかってたと思いましたが」
シゲさんと庄司さんと一緒に潜っていた時には二時間から三時間ほどかかっていた覚えがある。昼食をはさんでいるとはいえ、前回ほど稼いで帰るのは難しそうだ。やはりおにぎりを片手に金稼ぎに邁進していた方がよかっただろうか。
「まあ、今回は御縁がなくても次回があるさ。定期的に起きるイベントだし、あふれに遭遇できただけでも儲けもの。今のうちにさっさとモンスターの湧きつぶしをして山盛り稼いで帰りましょう」
普段の三層よりもモンスターの遭遇率が高く、そして出てくるモンスターが一段階下がっているので、普段の四層よりもモンスターで混雑しているような形だ。なので移動時間が短くて済む分、換金までの時間が短縮できる分、更に短い時間で多く稼ぐことができる。
「さあ、どんどんモンスター探して倒していくか。もう一時間もしないうちに収束するだろうし、それまでに一回ぐらいは換金に回りたい」
佐々さんは稼いで帰るのが目標らしい。そもそも今日はそういう日なのでそれがさらに加速されるなら文句は言わない。
「ペースを上げましょうか。今の私たちならもうちょっと素早く動き回っても疲れることなく行けるはずですから」
「かなり気楽に倒せるようだし、野田さんも大丈夫かな? 」
「大丈夫。三割ぐらい早く回るぐらいなら問題ないと思う」
ペースを更に上げて歩き回り、谷口さんが索敵する範囲でモンスターを見つけて近寄って倒して魔石を拾って……というサイクルが更に加速し、どんどんドロップ品が溜まっていく。レベルアップはさすがに加速しないが、倒している数が数なので今日ぐらい一個上がっても不思議はない。
やがて三十分ほどで全員のバッグがいっぱいになり、戻るタイミングとなった。まだあふれ現象は終息していない。まだ稼げるな。
換金所まで戻ると、換金所はそこそこの人だかり。順番待ちの行列ができていた。あっちもこっちもあふれの内に稼いでしまおうと、かなりの人が潜り込んでいることが伝わってきた。
こっちの換金は別ルートのため、他の探索者とは別会計で魔石を渡しているため優先列みたいな形で通してもらえた。その点はラッキーだな、と思いつつ他の探索者には申し訳ないところではある。
換金が終了し、再びその足で三層に舞い戻り、相手をし続ける。そろそろエンチャントが解け始めるころかな? と思いエンチャントを重ね掛けして戦闘中に時間切れが起きないようにケアしておく。
「まだ九十分は経ってないと思いますけど」
「念のためかな。正確に測ってないし、戦闘中に切れて動きが悪くなるとケガにつながるといけないから」
「なるほど、たしかに」
再びモンスターを見つけて戦闘に入る。エンチャントはさっき重ね掛けしたばかりなので問題なく対応可能。佐々さんにメインを任せて一番槍だけ心がけて順番にモンスターに対応していく。
俺が傷さえつけてしまえば佐々さんにお任せしてもいいし、俺が一人で倒し切ってしまってもいい。谷口さんの仕事はその間に次のモンスターのめどをつけることと、モンスターの注意が他に向かないように田沼さんには【タウント】でモンスターの注意を引きつけてもらう作業をそれぞれ分担されているので良い感じに仕事がちゃんと出来ている。
やっぱり四層相当のモンスターは楽でいいな。近づいて傷つけるだけで魔石が必ず落ちる。わざわざ離れたモンスターが居る所まで行かなくても向こうから寄ってきてくれるので倒した後落ちる魔石を拾いに行く手間も省ける。
ゴールデンタイムをしっかり味わい更にもう一往復行こうかと帰り道に差し掛かったところで、モンスターの中にゴブリンアーチャーやゴブリンマジシャンが混じり始めた。どうやら討伐のほうは無事に終了したらしい。
「もう終わりか、やはりいつもより早く終わったな」
佐々さんが残念そうに肩をすくめる。
「エンチャントかけなきゃもうちょっと美味しい時間が味わえたかもしれませんね」
田沼さんは仕事が【タウント】だけで済んでいるので結果だけを見ていたらしい。確かに、もう一時間ぐらい長くかかってても良かったかもしれないな。
「でも、これで三周。もう三周ぐらいはいけそうですね」
谷口さんはまだまだやる気に満ち溢れているようだ。
「この後は……三層の掃除をしてから四層ですかね? 」
念のため一回戻った後の行動について確認する。そのまま四層へ行くと今度は五層の魔物が居残っている可能性が高いのでちょっと美味しくない思いをするかもしれない。
「そうですね、三層に残った四層の魔物を綺麗にしてから四層に戻ることにしましょう。その頃には四層も掃除されて綺麗になっているはずですから」
個人的にはゴブリンアーチャーやゴブリンマジシャンの相手をするのは戦闘中の移動距離が延びる分面倒この上ないんだが、この際は仕方ないか。これも”鉱山”を正しく運用していくためのお仕事だ。諦めて混合部隊を相手にしていくことにしよう。
換金して再始動。三層に戻ってもまだホブゴブリンやオークは居たので丁寧に掃除をしつつ、新しく湧いたところよりも前から湧いていた地域を念入りにしらみつぶしに歩き回り、四層の魔物と会わなくなるまでひたすら戦い続けた。流石に戦闘回数が多いからとレベルアップをすることがなかったが、そろそろレベルがもう一つ上がっても良い頃合いでもある。
レベルアップまだかなーと心待ちにしつつ現れたゴブリンアーチャーの放ってきた矢を手でつかみ取ると、逆に投げ返してゴブリンアーチャーを負傷させ、戸惑っている間に接近して槍を突き刺して倒す。シンプルな戦い方の一つではある。もちろん、エンチャントがかかっているからできる芸当でもある。
四層のモンスターをほぼ見かけなくなったところで四層に移動してまた四層でオークとホブゴブリン。そろそろ飽きてきたのもあるし、次の一周は五層へ行かないかと提案したところ、全員からそれもいいかもねと返事が来たので五層へ行くことにした。それまでは四層で我慢することになった。
楽しみだな、五層。ゴブリンロードとお供が出てくることまでは聞いているが、それ以外の要素はまだ聞いたことがない。他にどんなモンスターが出てくるのか、ゴブリンロードとはどんな攻撃をしてくるモンスターなのか。ゴブリンキングという上位種が居るのは解っているが、それよりは弱い、ということになるのだろう。
だが弱いとはいえ普段自分たちが戦っているモンスターよりは上位の魔物だ。今日の最後の一周は中々緊張感に包まれた中での戦闘になるかもしれないな。気を引き締めていこう。
四層で荷物を一杯にした後、換金所に戻って換金。さて、最後の一周は五層まで潜り込む。エンチャントが切れないように三層に入る手前でエンチャントをかけ直して、三層から四層を抜けると、四層から先はみんなに道を任せる。俺は道が解らないので仕方がない。
普段立ち寄らない方向にどうやら五層へ続く道があるらしく、ちょっと戸惑いながらの移動になったが、道中に出てきてくれるモンスターはいつものオークとホブゴブリンなので安心して戦える。さあ、これから五層だ。気を引き締めていこう。