目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第91話:初めての五層

 四層を抜けて五層に入った。五層からは少し温かみのある光空間になり、前の階層に比べて寒々しさは少なくなった。気温は同じぐらいのようだが光のせいか、温かく感じる。


「見た目は変わりますけどそれ以外は変わらないんですよね、ここ。初めて入ると暖かく感じはするのですが」


 まさに思っていることを谷口さんが解説してくれた。やはり温かく感じるのは気のせいらしい。


「ここではゴブリンロードとハイオークが出ます。ゴブリンロードはお供も連れていますし、本人も魔法を使ってくるので要注意です。お供の分の魔石は諦めてもいいかもしれませんね。余裕があれば……というところだと思います。ゴブリンロードの魔石は中々価値が高いので確実に手に入れたいものです。我々の目的としてはゴブリンロードの魔石確保が第一条件でしょうね」

「ハイオークのほうはどうなんですか? 」

「ハイオークはオークが革鎧を着ている、という認識で良いと思います。持ってる武器はこん棒から斧に変わります。とにかくタフな奴で中々に苦戦すると思います。ゴブリンロードの攻撃力に対してハイオークは防御力に主眼が置かれているモンスターだと考えていいと思います。まず、試しに戦ってみますか」


 田沼さんは何が来ても受け止める、という姿勢でこちらの心理的負担を減らそうとしてくれているようだ。


「ゴブリンロードは集団でうろついているので【鷹の目】からも発見しやすいですし、ハイオークは一人でうろついているのがほとんどなのでそれぞれで見わけをつけやすいんですよ……と、近くにハイオークがいますね」


 谷口さんが早速ハイオークを見つけたらしい。ドキドキしながらハイオークとの顔合わせを待つ。しばらく歩いて、ハイオークの姿を見ることが出来た。確かにオークより一回り大きい体に革鎧をつけ、斧を肩に担いだままあっちこっちを見てはうろうろしている。こちらへ来ないということは、まだ認識されてないということだろう。


「せーので出ますよ。出たら田沼さんは引きつけてください。その間に野田さんは一撃どこでもいいですから加えてやってください。当たったら合図を」

「了解。トドメは佐々さんに任せます」

「別に一撃で倒せるなら倒してしまってもいいですが、中途半端にダメージを与えて怒らせると面倒になるので、必ず合図はくださいね」

「いきます、せーの」


 一斉に四人がハイオークの前に立ちふさがる。こちらを認識したハイオークが谷口さんに向かう。が、田沼さんの【タウント】で意識が強制的に田沼さんのほうへ向かう。その間に鎧の隙間から俺が一撃を入れる。腕を振り上げて田沼さんを威嚇し、彼の盾に向かって攻撃を加えているので腋にちょうどいい感じに槍を突き刺す隙間が出来ている。


 そこに槍を突きこんで、ねじる。ハイオークは痛みを覚えた腋を締めて、槍が抜けるのを防ごうとしてくる。これでハイオークの姿勢は固定できた。佐々さんが好き放題攻撃するスキが出来たということだ。


「一撃はいりました! 」

「了解! 」


 佐々さんがその間にハイオークの真後ろから攻撃を加える。剣一閃、首から刃を差し入れるとそのまま力を入れて首を切り落としに入った。ハイオークのほうも首に力を入れて切らせんとしているが、体が田沼さんのほうに向いている分力が入っていないのか、佐々さんの腕力がエンチャントで上がっているおかげか、そのまま首を切り落としてハイオークは全身を黒い粒子に変えながら消えていった。


「お疲れ」

「そっちも」


 佐々さんと田沼さんがそれぞれお互いの健闘を称える。どうやら慣れた様子で接しており、もともとハイオークを倒すのは慣れていたように感じる。俺が入る前は五層でメイン活動をしていたんだったっけ。久しぶりの五層、というところなんだろうな。


 ハイオークが消えた後には色の違う魔石が一つ残されていた。大きさはオークの物とは変わらないが、こちらの方が工芸品というか宝飾品っぽさがでている。カットが違うというのか、オークの魔石は見方によっては黒い水晶のようだが、こっちはより青っぽく加工されたような形になっている。こっちのほうが魔石もエネルギー量も価値も高いってことなのだろう。


「野田さんもお疲れ様。この階層はこんな感じですよ。ゴブリンロードのほうはまた違った戦い方をしますけど、ハイオークはさっきみたいなやり方でうまくいくと思います。回数を重ねたらもっといい方法があるかもしれませんが、今のところ問題はないと思います」


 後ろで控えていた谷口さんがきちんとした感想をくれる。あれでよかったのか。流石に俺の腕力では首を跳ね飛ばしたり心臓を一撃したりは出来ないから、今のが現状の最適解ということでいいんだろう。


 次もハイオークになった。ハイオークは二匹連れで出てくることはめったにないらしい。それは一安心だな。もし二匹で出て来るなら田沼さんの負担が大きいことになっていただろう。【タウント】をしながら攻撃を受け流して、片方が倒れるまで耐えるという仕事が更に追加されることになる。流石に二匹同時に相手取って攻撃をかいくぐるのは厳しそうだ。


 さっきと同じ手順を踏んでハイオークを無事に倒して魔石をゲット。これ一個でいくらになるかは解らないが、四層と五層のモンスターの強さの違いを考えると、五層で集めるのも意外と悪くないんじゃないか? という気持ちにさせてくれると良いんだが。


 しばらく進むと、先頭を進む谷口さんから手で静止の合図。この先でモンスターと出会うらしい。


「ゴブリンロードがいますね。数は四。ゴブリンロード含めて田沼さんに抑えてもらっているうちに数を減らしていきましょう。佐々さんがゴブリンロードにある程度ダメージを与えている間に、他のモンスターは野田さんにお任せしてもいいですか? 」

「雑魚を散らした後攻撃に入って、攻撃が入ったことを確認次第ゴブリンロードを倒す、ということですか」

「そのほうが上手くいくと思います。ゴブリンロードの魔法にまともに耐えられるの、おそらく田沼さんの装備だけなので」

「そういうことだから、なるべく早めにお願いするよ」


 責任重大だな。手早くお供のゴブリンを処理しないといけない訳か。ゴブリンロードの強さにも寄るが、場合によってはゴブリンロードのほうを早く倒してお供のゴブリンは魔石を狙わずに戦うことも覚悟しておかないといけないか。


「じゃ、行きますよ」


 谷口さんの口上と共にゴブリンロードの視界内に入る。田沼さんが全てのゴブリンの前で【タウント】を発動。この場にいる全てのモンスターのヘイトが田沼さんに向く。その間にゴブリンを一匹仕留めて次のゴブリンへ向かう。お供のゴブリン自体はソードゴブリンやシールドゴブリンが精々のようで、それほど強くない。


 シールドゴブリン二匹を横から切り飛ばしてお供のゴブリンととっとと倒すと、ゴブリンロードに向きなおす。ゴブリンロードは田沼さんに向かってゴブリンマジシャンも使ってくるファイアボールと形容するような炎の魔法をぶつけている。田沼さんはその炎を自分の盾で上手いこと往なしている。流石に手慣れているんだろう。でも熱そう。


 ゴブリンロードにある程度ダメージを与えている佐々さん。あちこちに切り傷をつけてゴブリンロードにダメージを与えているところで俺もゴブリンロードに攻撃を仕掛けに入る。


 ゴブリンロードに切り傷をつけたところで合図をして、一気に畳みかける。ゴブリンロード自身はそれほど力があるわけでもなく、ゴブリンマジシャンのちょっとでかいバージョンという辺りが本当のところのようだ。おそらくはお供を連れていての連携攻撃が本分なのだろうが、それも順番に倒してしまったことで丸裸になっているゴブリンロードを四人で一気に畳みかけて倒す。


 ゴブリンロードを倒した後にはやはりきらめきの違う魔石が残されていた。五層からは一段階綺麗な魔石が出るのは間違いないらしい。四層で戦い続けるか、五層で自分の力を試すためにもより強い敵と戦うか。どっちがいいかはまだ判断がつかないな。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?