目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第93話:今日の戦果

 その後、満タンになるまで四層を回り続けた。所々ハイオークの出現していたお残しのを真剣に倒しつつ、いつものモンスター狩り……つまり採掘作業を続ける。


 流石にハイオークを相手にした直後でもあり、オークとホブゴブリンは随分簡単な相手に思えるが、これも慣れという感覚なんだろうな。なにより体が一回り小さい分、受けるプレッシャーも小さくて済んでいる。気楽に挑めて同じような魔石をどんどん排出してくれるので非常にありがたい。


 一時間ほどで一杯になり、また換金所に向かう。もう一周したら今日は終わりかな。今日はあふれも起きたし、新しいモンスターとも戦ったし、イベント盛りだくさんだった。あまりいい言い方ではないが、しっかり祭りを楽しんだという感想が漏れ出る。


 換金し終わり最終周回に入ろうとすると、同じタイミングでダンジョンに入っていくパーティーが居たので追従していく。三層に入ったところでそのパーティーからエンチャントのお願いがあったので、千円もらってエンチャントをかけてやると、五層へ向かうらしいとのこと。五層にはまだ食べ残しがあるかもしれないから気を付けてくれよ、と一言伝言を伝えておく。


 ありがとう、美味しく頂くよという返事をもらえたので五層の食べ残しの心配はこれでしなくて良さそうだな。さて、四層をひたすら巡って今日最後の採掘活動に入ることにしよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 あっという間に一時間が経ち、また荷物が満タンになる。これで一層まで戻れば充分な報酬がまた約束されていることだろう。


「今日もなんだかんだで一杯稼ぎましたね」

「これも野田さんのおかげなんだよな。二日にいっぺんこれだけ美味しい思いが出来るなら悪くないどころじゃなく美味しい思いをさせてもらっていることになる。野田さんと出会う前なら二往復できればそれで十分な稼ぎだったのに、今日に限っては六往復もさせてもらってる上に五層のモンスターと戦っていた分だけ更に割り増しされているからなお儲けが大きい」

「【エンチャント】といい、野田さんの魔石ドロップといい、野田さんにおんぶにだっこされてる気がする。もう他のパーティーとは組めないかもしれないな」


 口々に俺を褒めてくれる。流石にここまで言われるとちょっと照れるな。あまり褒められると対応に困る、俺はあんまり褒められ慣れてないんだ。手元が狂って帰り道で何か事故が起こらないか心配するほうに意識を集中させよう。帰るまでが遠足とも言うしな。


 入口まで戻り、無事に何もなかったことに安堵して本日の最終便の換金を行う。今日は一周一万円の四層開拓を五回行って、更に五層のモンスターと戦っていた分で更に五千円分ほどの上乗せがされた。一日で六万五千円の稼ぎである。これは中々に美味しい。風呂も行けるし飯だって定食に加えて小鉢のおかずまで手を伸ばしてもまだいつもより多い収入となる。


 今日のところは解散して、今日の夕飯は何かなあと食堂へ向かうが、解散をしたくせに全員同じ方向へ足が向いていた。皆お腹が空いていたらしい。


 今日のワンコイン定食はコロッケと季節の根菜と豆の煮込みだった。久々の揚げ物だな。ワンコインにしては今日は量が多い。もしかしたらあふれがあったおかげでいつもより食事に時間と手間をかけられた分豪華なのかもしれない。それを見越してか、いつもよりも人数も多く感じる。みんなあふれが収まって掃除をし終えて帰ってきて、さあ飯だ、というところなのだろう。


 添え物にはキャベツを発酵させたもの、いわゆるザワークラフトがあった。少しでもビタミンを摂取できるようにという知恵らしい。ワンコインではかなりお高い部類の今日の定食だ。そして、今日は肉っ気が取りたいので、奮発して三百円の肉の切り落としをごま油で薫り高く焼いたものを購入。今日は贅沢な夕食になったな。


「野田さん今日はよく食べるな」


 俺が小鉢を取ってきてるのを見て佐々さんが茶化す。


「たまにはしっかり良いものを喰わないとね。良いものかどうかはともかく、ワンコイン定食じゃないと食っていけないわけでもないし、たまにはいいもんじゃないかと思って」

「俺もそれ頼もうかな……よし、俺も食うぞ」


 佐々さんもこの香りと肉に惹かれたらしく、追加で注文をしに行った。まあ、みんなの懐具合は解ってることだし無駄遣いでもない。今日はみんなしっかり動いたんだからたまにはワンコイン以上のものを求めたって誰かが困るわけでもないだろう。むしろ食堂のメニューをちゃんと消費することでフードロスが起きないようにする意味でも大事だろう。


 このご時世フードロスなんて起こした日にはもったいないお化けに取りつかれて殺されてしまう。きちんと小鉢のメニューにも目を通して、今日はどうするか、明日はどうするか、メニューはどうかなどと考える余裕が出始めたのも最近のこと。


 それまではずっとワンコイン定食で肉体を維持し続けてきたのだから、もっと大柄な人や体力を使う仕事をしてきた人によってはワンコイン定食だけでは足りないだろう。百円追加してご飯を大盛にしたり、カロリー以外の栄養バランスを考えて和え物や煮物、今回みたいに肉を追加してしっかりと食べることも必要である。


 さて……いただきます。肉は今日は何の肉かは解らないが、しっかりと焼かれていて食中毒の心配はなさそうだ。一口食べてみる。うむ、ごま油もそうそう多く使えるものではないのだろうが、しっかりと焼かれていて美味いことに違いはない。


 コロッケをまとめて揚げる油があるのだからまだ食料事情はそれほどひっ迫してないことが分かる。もしかしたら”鉱山”の食堂には優先的に回されている可能性はあるが、家で過ごしていた時はどうだったかな。作ってもらっていてその辺をよく考えてなかったな。


 食事が終わると今度こそパーティーメンバーと別れ、自宅に帰った後着替えとタオルを片手に風呂に行く。やはり広い風呂は良い。最初のころこそ自宅風呂が欲しいと思っていたが、金に困っていない現状、毎日銭湯にいくだけの金銭的余裕があることは自分の頑張り様を理解できるような気がする。


 あの”鉱山”で働くトップパーティーや生活圏防衛担当ともなればもっと多くの日給を稼ぐことが出来ているのだろうが、今のところこれだけ稼げていれば充分だろう。今は焦ることはない。日々レベルも少しずつだが上がっているし、戦闘にも完全に慣れた。次の交易に連れて行ってもらえるならまたマツさんに会いに行きたいものだ。


 そろそろ次の交易の時期かもしれない。懐かしのダンジョンへ行くのもそうだが、交易のついでに食べられるあんパンと牛乳も楽しみだ。いやいや、マツさんを早くあそこから助け出すのが先なんだ。その為の交易であり、井上さんも交易に伴って色んな装備や物資を仕入れているはず。


 いつになるかは解らないが、マツさん救出部隊を編成するなら俺も参加者として何かできることがあるかもしれない。この【エンチャント】がどこまで力になるかはわからないが、出来る限りのことはやれるように、いつでも心の準備はしておこう。


 その為のレベル上げとエンチャントの磨き上げ、スキルがより効果を発揮するようになるためにはどうしていけばいいのかを調べるのも大事か。探索者事務所にスキルについて何か書かれた書物や情報の蓄積があればそれを参考にしていくのも大事だな。


 今後の自分に期待しつつ、風呂上がりに冷たい水を飲む。昔はここでも牛乳だったが、ここの牛乳はちょっと高い。今日はお預け……いや、せっかくだし飲んでおくか。明日の気合を込めて腰に手を当てると、一気に飲み干して気持ちよくゲップ。これがいいんだよ、これが。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?