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第104話:VS大名行列

「まずはある程度人数を溜めてから一気に突撃するためにエンチャントを受けていってくれ。各自パーティーで行動をバラバラに始めると各個撃破されかねない。十パーティーぐらいの人数でまとまって行動してほしい。エンチャントは九十分で切れるが、その前にまずはあふれ部分を終息させよう」


 井上さんの号令で順番に【エンチャント】をかけ続ける。一人、二人、三人……一人ずつしかできないのがネックだな。成長してまとめて全員にエンチャントをかけられるようになれば便利なのだが。これもスキルが成長したらできるようになるんだろうか。


 五人……十人……どうやらエンチャントの効果を体感はじめたらしい探索者達がこれは楽に戦えそうだと漏らしているのが聞こえる。既に役に立ってはいるようだ。十五人……二十人……これで五パーティーぐらいはかけ終わったかな。あと半分で第一陣が戦闘に向かえる。


 二十五人……三十人……そう言えば今までの最高記録は五十六人分だったか。今回はその倍の数。かけ続ける途中で息切れを起こしてかけられないとかそんなことはないだろうか。


 三十五人……四十人。ひたすら機械的にエンチャントをかけ続け、やがて第一陣分の人数が揃ったのか、セーフエリアから出て戦闘を行うために出陣していった。そっちの様子を見たいところだが、まだ半分以上残っている。


 四十五人……五十人。今まではお世話になったことがないしどのぐらいの怪我まで直せるのかもわからないが、ヒーラーとして二部隊編成されている。彼らの分もエンチャントすることで治療効果もあげられることになるだろう。


 五十五人……六十人。五十六人は無事に超えられたらしい。ここからは戦力の逐次投入で戦線の開いた場所に順次投入していくことになるのだろう。戦いの最中だが、炸裂音なんかが響いてくる。戦いは既に始まっていることに間違いはないだろう。


 六十五人……七十人……まだいける。息切れや眩暈、妙な疲れなどもまだ起こしてはいない。どうやらまだまだかけられるようだ。これも自己エンチャントのおかげだとしたら、成長する機会はまだまだあるってことにもなるな。今後に活かそう……今後同じような作戦があるかどうかはわからないが。


 七十五人……八十人。後二十人ほどか。ここまで来たら一気に全員にかけてしまいたいところだが、全員にかけた結果一人一人にかけるよりも効力が落ちるなんてことがあるかもしれないので丁寧に一人ずつかけていく。死線をくぐっている中で手抜きはよくないな、うん。


 八十五人……九十人。もう少しだ。各パーティーメンバーが揃い次第出撃していく。うちのパーティーは最後に出ることになるが、それはまあ仕方がない。みんなごめんな俺のおかげで出番が少なくて。


 九十五人……一〇〇人……一〇四人。どうやら今回の戦いは総勢一〇四人であったらしい。全員にかけ終わると、流石にちょっと疲れてふらっと来て地面に膝をつく。ここまでひたすらエンチャントだけをかけ続けたのは初めてだから仕方ない。ここから戦闘に出ないといけないんだから後衛職は辛いよな。


「さて、行きますか」

「大丈夫かい野田さん、フラフラしてるけど」


 田沼さんが心配してくれるが、立ち上がって大きく深呼吸を二回。上を向いて一瞬真っ白くなった視界を元に戻し、下を向いて血流をよくする。


「うん、大丈夫だ。さあ行こう。美味しいところを頂けるかもしれないしな」

「野田さんが大丈夫なら俺達も参戦だ。戦闘音がまだしてるし、終わってるってこともないだろうからまだ間に合うぞ」

「行きましょう」

「よし、まずは全体を観察するところからだな」


 四人そろって戦闘区域に飛び出す。戦いの様子をまずは見る必要がある。どこの戦線で苦戦しているか、どんなモンスターが残っているか。手の空いていて危ないところはないか。


 大漁にいたモンスターは半数ほどが既に討ち取られているようで、足元に魔石やドロップ品がそこそこの数転がっている。今残っているのは巨大オークとゴブリンロードにハイオーク、そして大名行列の後ろを通ってきたらしいゴブリンやゴブリンアーチャーなどが見受けられる。そっちに回ったほうが良さそうかな。


「後ろの小物から倒していこう。今日は俺が先に攻撃しなくてもいいからまとまって楽に行動できそうだ」


 槍を構えると一目散に敵集団の後ろに回り込んで、こちらの裏を取ろうと動いているモンスターたちに狙いを絞り込む。


 皆も付いてきたようで、田沼さんが強化された【タウント】で複数のモンスターの注目を集めては、そっちに目が向いている間にこちらから遊撃する形で戦いを始めた。


 モンスターの数は多い。多分最初は五百匹ぐらい居たんじゃないだろうか。それが今では大物をメインにしてだが、二百ちょっとぐらいまで数を減らせている。これは、巨大オークの暴れっぷりにもよるが無事にあふれを納めることが出来そうである。


 巨大オークの動きをちらちら見ながらも、こちらも戦闘で手一杯だ。よそのパーティーの心配をするよりまずは自分たちのパーティーの様子を見ながら徐々に数を減らしていこう。


 後ろに回り込まれそうだったパーティーの援護に回る。向こうからは「助かる」と一言だけ帰ってきたが、その一言が言えるだけまだ余裕があるんだろうと思われる。その分こちらにも迫るモンスターの数は増えるが、モンスター自体それほど強いモンスターが正面に居ないので一方的に戦えてはいる。


 ふと目を横に逸らせると、後方に下がって負傷した探索者が治療を受けている。どういう原理かまではわからないが傷の治療がちゃんとできるようだ。場合によっては切り取られた腕が生えたりもするのかな。どこまで治療できるかは解らないが、後方支援はきっちり機能しているらしい。


 そして、戦闘開始から炸裂音が響いていた原因である、魔術系のスキルを持った探索者が巨大オークの頭部めがけて炎の魔法を当てており、視界を遮り続けている。おそらく、負傷者が思った以上に少ないのは巨大オークの動きをそうやって牽制しているおかげなのかもしれないな。


 治療を終えた探索者が戦線に復帰し始める。そしてゴブリンロードやハイオークも倒されていっており、出遅れた分出番はなかったものの、残りは巨大オークとその周辺十体ぐらいまで削れていた。後は巨大オークをうまく倒せるかどうかにかかってきている。


 巨大オークは三パーティーが合同で行動を阻害しながらダメージを与えている。あの筋骨隆々とした探索者のパーティーも中には含まれていた。視線を遮って狼狽えるオークに対して切りつけはするものの、大したダメージは入っていないようにも見受けられる。本格的にダメージを入れていくならここからかな。


 周りを盾役が取り囲み、それぞれが【タウント】のようなスキルを使い挑発している。巨大オークはどっちに攻撃をしたらいいか迷っている間に魔法による攻撃を受け、徐々に体力を削られていっている。やがて、頭部にはっきりとしたダメージを受けて巨大オークはその場にスッ転んだ。


 チャンスだ。槍をエイヤっと突きだすと、巨大オークの足の裏に切りつける。これでドロップ確定もこっそりもらった。巨大オークが地面に顔をつけたことで、届かなかった部分への肉弾戦へ持ち込むことができるようになった。


 皆それぞれの得物で攻撃し、巨大オークのあちこちから黒い粒子が噴き出し始める。こうなったら後はオークの耐久力が先に尽きるか、我々がへとへとになるかの勝負だが、こっちは【エンチャント】のおかげでまだまだ戦える状態にある。そのままひたすら鎧の隙間や顔を攻撃し続けて五分ほどして、巨大オークは黒い粒子に変わっていった。


 第一段階達成である。


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