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第106話:足跡を辿る

 初めての五層に入る。どうやらこのダンジョンは二階層ごとに見た目が変わるらしく、三層四層が青白く光る洞窟ダンジョンだったのに対し、五層からは石造りで温かみのある光源の存在するここから一風変わったダンジョンになった。


「ここからは更にダンジョンっぽくなったな。洞窟も良いがこういう作りも中々悪くないね」


 田沼さんが一言漏らす。俺と同じ感想を抱いているらしい。ダンジョンってイメージはこっちのほうが強い。石の階段を下りてきたせいもあるが、やはりダンジョンと言えば石造りのマップに宝箱にトラップに……それらがあったら困るな。もしあった場合、先に解除してきてくれたりはするんだろうか。


 後ろから付いてきた以上先に進んで六層までは行けるということは間違いないし、この階層までは地図が出来上がっているのでもしトラップがあるなら解除されるなり既に発動されていたりはするんだろうか。念のため聞いておくか。


「トラップとか宝箱とかはないんですかね? なんかこういう空間だとそういう物がありそうな気がするんですが」

「残念ながら、今のところダンジョンでそういう機能がある仕組みのある場所は見つかってないですね。モンスターが自分自身で発動させてしまう可能性もあるから、とかいろいろ言われていますが、とにかくダンジョンにトラップや宝箱の類は今のところ存在を確認されてないですね」


 俺のワクワクは何処かへ行ってしまった。どうやらダンジョンには宝箱もトラップもない、ただモンスターを生み出すだけの存在らしい。


 しかし、言われてみれば”鉱山”にもそれらはなかった。”鉱山”もダンジョンなんだからもしも宝箱やトラップがあるならあそこにあってもおかしくはなかったんだよな。あえて宝箱もトラップもなくて難易度の低めのダンジョンを”鉱山”として残していた可能性もあったんだが、どうやらそういうわけでもないらしい。


「なんか、ダンジョンに対する期待がちょっとだけ落ちましたね」

「まあ、モンスターが魔石をくれるだけでも現代社会にとっては有り難いですからね。本来ならモンスターもダンジョンも出現せずにそのまま社会を維持できたのがベストなんでしょうけど、そういう世界ではなくなってしまいましたから」


 少し遠い目をしながらダンジョン災害前の時代を思い出す。今ではもう見られない子供が遊びまわってる姿や割れてない綺麗な道路をたくさんの車が行き来して物流インフラが存在した日々のことを。あの時代を謳歌できたのがせめてもの楽しみだったのかもしれないな。


 考え事をしながら歩いていたら、すぐそこにモンスターが湧きだしたらしく前のパーティーがあわただしく動き始めた。そっちを向くとハイオークが湧いていた。


 そういえば、俺の体質である魔石100%というのはどこまでのダメージや火力に対して付加されるんだろうか。最小値を試したことはなかったな。ちょっと試しにやってみるか。


 足元に転がっていた石を拾い上げると、ハイオークに対して投げつける。ハイオークに当たった石はそのまま力なく地面を転がる。それで一瞬気がそれたのか、ハイオークはこっちに一瞬戦闘の意思を見せる。


 が、すぐに盾役のヘイト管理によって視線をすぐに奪われ、とっとと討伐されてしまった。後には魔石が残っている。さっきの石が当たったおかげでドロップしたのかどうかはわからないが、”鉱山”に戻ってから確かめる課題が一つ増えたようだ。


「うーん……石を投げて当てただけでも効果があると思ったんですが、流石にサンプル数が一つでは判断するには甘いですね」

「ああ、そういう理由で石投げてたんですか。てっきりヘイトでも取ろうとしてたのかと思ってましたよ」

「どこまでの攻撃がダメージとして換算されるかを見たかったんですが、ダメージゼロでも発動するかもしれない、というのが見えてきたのでより効率的に動けるんじゃないかと思えてきましたよ」


 この仕事が終わって街に戻ったら”鉱山”で試してみよう。その時はまたこの四人で潜って魔石を集めることになるだろうから……なるのか?


 そういえば、マツさんが街に戻ったらマツさん専用の魔石収集の仕事も終わりになる。そうなればこの四人で集まることもなくなるんだろうか。その辺は確認しておかないといけないな。


 戦闘があったことで前のパーティーとほぼ横並びで進むことになり、お互い地図を持っているので地図を確認しながら道を進んでいく。これもマツさんが十年前に見つけ出した道だ。それを今この足で進んでいる。階層の間まで到着したらそこでいったん集合し、【エンチャント】のかけ直しをすることになっている。


 地図によるとあと十分ぐらいで到着する予定だが、谷口さんに確認すると道が綺麗になっているらしく、横道で余計なことをしない限りはしばらくモンスターの反応はなさそうとのこと。


 ここまで二層から歩きっぱなしだったのでちょっと体を動かすような運動をしてみたかったところだが、結局ここまでで問題になるようなことはなかったな。


 そのまま歩き抜けて六層への入り口には先にたどり着いた探索者達が休憩していた。休憩しながらも索敵は行っているようであるが、少なくとも周りにモンスターは居ない。いたモンスターを倒し終わったのか、それとも層の中間部分だからモンスターが湧かないのかは解らないが、とにかく安全地帯であるらしい。


「井上さんから通達です。六層に入った後は何が起こるかわからないので、【エンチャント】をかけ直した後複数パーティーで一団を固めて進むか、全員まとまって進むか、ある程度緊張感をもって進んでくださいとのことです」


 最後尾を進んできたパーティーから井上さんの伝言を受け取る。ハイオークやゴブリンロードが複数同時に現れたり、もしかしたらあの巨大オークがもう一度出てくる可能性があるって言ってたしな。俺もこの六層で自分のパーティーだけで進んでいくのは不安がある。【エンチャント】があっても同じだ。


 ここから先複数パーティー合同で行けという指示は的確であると言えるだろう。早速自分に【エンチャント】をかけ直し、一列に並んでもらってエンチャントを駆け回る作業に入り始めた。これで最後になってくれると楽でいいんだが、もう一回ぐらいはかけるかもしれないな。あと二百回はこの作業をする可能性があることを頭に入れておこう。


「爺さんのおかげでかなり楽に進んでこれたんだ。ここからも頼むぜ」


 筋骨隆々な探索者のパーティーの順番になり、一言嬉しい言葉をかけてもらっている。このちょっと面倒くさいかけ直しもちゃんと役に立っているらしい。なんだかちょっと機嫌がよくなっている自分が恥ずかしいが、同時に誇らしさも感じる。


 ここから先は俺が居ないと厳しい環境なんだ、と自分を奮い立たせて皆に協力をすることでお互いに得をしあう。探索者という仲間の割り振りはこれでいいのだろう。ならば全員分、もう一回エンチャントをかけようじゃないか。


 次々にエンチャントをかけ直されて進んでいく探索者達。六層の先触れとモンスターの強さの把握はみんなに任せて、こっちはかけ終わった後ゆっくりと挑ませてもらおう。別に誰が先に倒すかの勝負をしている訳ではない。目的はダンジョンの踏破、ダンジョンコアの破壊であって誰が破壊するかで今後の成り行きが変わるわけでもない。


「【エンチャント】の都合もある、九十分でここに再集合、ということでいいかな」

「わかった、九十分後にまた会おう。それまでに次の層への道か、ダンジョンコアを見つけたらその時点で戻ってくることにする」


 二十人、三十人、四十人と次々にかけて行き、全員にエンチャントをかけ終わるまでには十分ほど要したが、無事に全員かけ終わることが出来た。少し先を見ると、階層の手前で待ってくれているパーティーが居る。そのパーティーと合流して合計三パーティーが最後衛として六層に挑むことになった。


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