待ってくれていたパーティーは最後衛で井上さんの伝言を伝えてくれたパーティーと、すぐ前にいたパーティーだった。どっちにも知り合いは居ないが、今知り合いになったと言えるだろう。
「”鉱山”に中々凄い加護スキル持ちが居たとは耳にはしていたが、ここまでの実力とは思わなかった。かけられる人数もそうだが、威力も凄い。それがこんな爺さんだなんて」
「いやあ、俺自身もこんなスキルにこの歳で目覚めるとは思わなかったよ。これも何もかもマツさんの……松井さんのおかげかな。このダンジョンで俺を拾ってくれてここまで生き延びられたのは松井さんがここで老人ホームを経営していてくれたおかげなんだ」
「ということは爺さんもここに昔いたってことか。食い物には困らなかったんだろうな」
さっきのシュークリームの味を思い出しているのか、少々食い意地の張った一人が小突いてくる。
「そうでもないさ、交換する元手になる魔石がなくちゃ何もできないからな。それに風呂もなければ水道もないし、トイレもボットンスライム式だったし。文明圏にあってこっちになかったものは色々あったよ」
「なるほど、それぞれ便利も不便もあったわけか。何にせよ爺さんが無事に生きていて松井さんがそこで生活をし続けてなかったら今日こうしてみんなが出会うこともなかったってことでもあるし、これも巡り合わせって奴なのかもな」
無駄話を少ししながらも慎重に六層を進む。六層はそれほど入り組んでいるというわけでもなく、所々に小部屋があり小部屋の中にはモンスターが居た形跡がある。どうやら先に進んだグループが倒して進んでいったようだ。時々落ちてる魔石がその証拠だろう。
「持っていこう。後でまた食い物に替えてもらえるかもしれないしな」
食い意地の張った探索者が荷物として背中のバッグに入れていく。荷物が邪魔になって動きが鈍らなければいいんだが。まあ、最後衛のパーティー団ということでそれらを回収していくのも仕事の内だろう。その分戦闘では他のパーティーに負担をかけているのだから持ち物ぐらいは持たないと仕事をした気分になれない。
道も何もわからない以上、他のパーティーとバッティングすることもあればモンスターと出会うこともある。ここでは二体同時にハイオークが湧くらしい。とすると、一つ下の階層がもしあるなら三体以上同時に湧く可能性や、あの巨大オークがうろついている可能性もあるってことか。
他のパーティーの邪魔をしないようにあえて後方に位置し、そのへんにあった石ころや何やらを投げつけて、当ててみてモンスターが魔石をドロップするかどうかの確認作業にも便利なので、戦闘には参加しないでおいてみることにした。
どうやら石ころ一つぶつけただけでも魔石の100%ドロップの効果はありそうだ、ということがわかった。便利だな俺の体質、ますます効率よく魔石を取って帰ってこれるようになる。もうその辺の小石ぶつけてもダメージ判定になるなら一々近寄らなくても投石だけで食っていけるのか。
ハイオークが二匹出てきたので片方は投石して、片方は攻撃に参加。これで両方とも魔石が落ちればよし。片方しか落ちなければそれはダメージ判定に入らなかったことになる。が、結果は両方とも魔石を落とした。これは便利だな。
さっきから魔石を必ず落とすことに不思議がっている他のパーティーメンバーに、俺の体質について解説をしながら次へ進む。
「なるほど、攻撃すれば100%魔石をドロップするのか。それは便利な体質だな。スキルじゃないんだろ? 」
「井上さん立会いの下で鑑定もしてもらったし、【エンチャント】をかけた状態で詳細鑑定もしてもらったけど、どうやら俺が攻撃すると魔石が必ず落ちるのはスキルじゃないらしい。不思議なもんだが、そういうことになってるから仕方ないな。まあ、この老体でもできることがあるってのはいいことだ」
「違いない。爺さん名前は? 」
「五郎、野田五郎だ」
「じゃあ野田さん、帰るまでよろしく頼むわ」
軽く拳をぶつけ合うと、ダンジョン探索に集中する。モンスターはそこそこ出会うようになってきた。どうやら他のパーティーとは違う道筋を選び始めたらしく、ハイオークやゴブリンロードとの出会いが数回行われる。
攻撃補助としては役割ときちんとできているので良いが、せっかくのモンスターだしと色気を出して片方の攻撃をしながら、もう片方に投石などを仕掛けて出来るだけ多くのモンスターから魔石をドロップするように仕掛けてみる。
うまいこと言っている間はいいが、それにかまけて怪我をするようなことにはならないよう心掛けてはいる。今はまだ荷物がそれほどないから大丈夫かな。九十分経ってみんなが集合しだしたらまたエンチャントをかけてから進軍、ということになる。七層にはまだ下りてないか、ダンジョンコアを破壊してないのでダンジョンが崩壊を始めたという予兆はないらしい。
六層で動き始めて半分の時間が経ったので、そろそろ戻り始める。九十分きっちり歩き続けたわけではなかったが、残念ながら次の層への入り口らしきものを見つけることはできなかったが、谷口さんが地図を作りながら進んでいたため、この道では出入口らしきものにはたどり着けませんよ、という証拠にはできるから無駄ではなかったと言えるだろう。
六層の入り口のほうに向かっていくと、だんだん他のパーティーとも顔を合わせていき、やがて集団になって六層の入り口に向かって歩いていく。先頭がお惚けさんでもない限りここから道に迷って元の場所に戻れない、ということはないだろう。
しばらく後ろについていくと、全員そろうまで待機、といった様子。今のうちに地図の共有をしているのか、それぞれマップを確認していた人たちが寄り集まって何やら書き込みつつ話を合わせている。
うちのパーティーの地図情報は役に立っているんだろうか。それだけはちょっと気になるかな。後ろからただ付いていっただけで荷物も勝手に拾って収入としているパーティー、と呼ばれるのはちょっと問題ありだからな。
やがて全パーティー揃い、地図の共有をした後で一つのパーティーが声を上げ始めた。
「俺達の進んだ先に広間みたいなところがあって、そこから更に下へいく道が見つかった。多分七層か、もしくはダンジョンコアのある部屋に通じていると思われる。安全を第一にするために中は覗かなかったが、おそらく進行先はこちらで合っていると思う。エンチャントをかけ直してもらった後でそっちへ誘導するので、みんなついてきてみて欲しい。地図の共有が終わり次第、そっちへ出かけようと思うんだがどうだろう? 」
「広間があったってことは、その広間で巨大オークがリポップする可能性もあるってことだよな。最悪戦闘になる所だったか」
「それはあったかもしれないが、週一で巡回する巨大オークなんだからリポップタイミングも週一である可能性が高い。そうなれば文字通り今の内という奴だろう。さっきも言ったが階段を下りてみてそこに何があるかはまだ不明だ。もっと強いモンスターが居る可能性も踏まえて進んでいこうと思う」
なるほど、無事に階段らしきものは見つかったということか。他に似たような下へ行く道は見つかっていたりするんだろうか。
「地図班から報告。その該当する広間以外に階段や更に奥へ行く道らしきものは見つけられなかった。現状でその道を行くのが最善だと考えられる」
「決まりか。なら、早速エンチャントをかけてもらいたいが……爺さん、無理してないか? 厳しそうなら戦闘に入りそうなパーティーだけかけてもらうということでもいいんだが」
労わってくれているらしいが、今のところ二百回かけて大丈夫だったんだから、エンチャントの合間に休憩みたいなものを入れることで大丈夫になっている可能性が高い。何より、自分自身にエンチャントも施しているのだからその分だけ回数も回せる、と考えたほうが無難だろうな。
「大丈夫だ、後何百回でも限界が見えるまではかけ続けよう。それが俺の仕事だしな」