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第108話:ダンジョンコアルーム

 再びエンチャントのお時間になる。自分にエンチャント、その後でかたっぱしからエンチャントをかけていく。エンチャントを受け取って先ほどのパーティー割り振りになったパーティー同士で組んで、地図を共有したおかげで全員がバラバラに迷うことなく進んでいってくれているらしい。


 エンチャントも大分かけ慣れてきた。後何百回もかければスキルも強くなるんだろうか。モンスターと戦えば成長するのか、使い続けることで成長するかまでは解らないが、使えば使うほど体に馴染むのは間違いないようなので、今回はボーナスステージみたいなものだな。


 五十人ほどエンチャントをかけたところで一息ついてちょっと休憩。水筒から水分を補給して喉を潤す。


「爺さん大丈夫か? 無理してないか? 」


 心配される声があちこちから響く。この中で一番年上なのはどうやら俺のようだから、無理がたたって帰り道が大変なことになることを気にかけてくれているらしい。


「大丈夫だ、ちょっと喉が渇いただけだ。エンチャントのかけ過ぎで疲れたとかじゃない」

「それならいいんだが。肝心要のエンチャントだから燃料切れなんかを起こされたらたまらないからな」

「さっきのシュークリームでカロリーは取ったし、大丈夫だと思う。さあ、続きをやるぞ」


 ひたすらエンチャント。百人ほどいるので百回ずつ、九十分おきにかけ続けるのでちょっとした作業だが、これが今日の俺の仕事だと考えれば手の抜ける場面じゃない。しっかり一人一人にかけていく。あぁ、集団でまとめてかけられればもっと便利になるんだけどな。


 また百人分エンチャントをかけ終わったところで全員にかけ直すことが出来た。ここから九十分は少し休憩しながらゆっくり後ろをついていく係になろう。


 他のパーティーに続いて綺麗に掃除されて魔石が所々落ちているところを歩いていく。荷物にはなるが、後でマツさんに引き取ってもらって今日の作業のおやつの足しにしてもらうにはちょうどいい。他のパーティーがやらないことを率先してやっていくのも仕事の内だろう。


「ドロップ品だけ回収していくのも悪い気はしますが、手ぶらで帰っていくのもアレですし、エンチャント以外にも仕事ができると言えばこのぐらいですからね。拾えるものは拾っていきましょう。魔石だけでもそこそこの値段にはなるはずです」

「そうですね。邪魔にならない程度に背負っていけばいいと思いますよ」

「そういうことなら遠慮なく……魔石以外のドロップ品はさすがに置いていくほうが良いですよね? 」


 食いしん坊の探索者が質問してくる。


「一応マツさん……松井さんのスキルとしてはドロップ品はすべて換金できるとは言ってましたが、場所と荷物の重さを考えると帰りに他のパーティーがドロップ品を回収していく可能性もありますし、今は魔石だけにしておきましょう。それだけでもまたシュークリームぐらいは食べられそうですしね」

「そいつは良いですね。帰ったら松井さんのスキルでパーティーでも開けそうな具合です」


 おそらくマツさんが戻ったらそれどころの騒ぎではなくなるとは思うんだが、攻略パーティーだけ集めて軽く宴会、というのも悪くはないのだろうな。この先何が待ち受けているかまでは解らないし、何もないかもしれない。だが、エンチャントをかけた分だけの保険はしっかり担保してあるのでそれほど苦戦する未来は見えないな。


 歩きながら魔石を回収していると、前が詰まってきた。どうやら広場という所に到着したらしい。全員がそこに集まって待機していた。階段は人間二人か三人がギリギリ通れるほどの横幅と高さ。余分なスペースはそれほどないように見える。ここから巨大オークがにゅるっと出てくることはなさそうだな。


「御覧の通り、階段の広さから言ってこの下から巨大オークが出てくる可能性は低い。この下に固定されて存在しているボスがいる可能性は否定できないが、確実に歩みを進めるために一端集まってもらった。ここからは戦闘慣れしてるパーティーを先頭にして進んでもらうことになりそうだが良いかな? 」


 中心となって話しているのは、おそらくこの広間を見つけたパーティーだろう。


「それが一番安全だな。後ろに危険を知らせる意味でも余裕のある俺達が先に進ませてもらおう」


 例の筋骨隆々とした探索者のパーティーが率先して手を上げてくれた。彼らがこの集団の中で一番強そうには見える。ダンジョンにも慣れている様子だし、生活圏開放担当としてそれなりに実力のあるパーティーなのかもしれない。


「頼む。何かあったらすぐに連絡を入れてくれ、こっちも待機しつつそちらの呼びかけにすぐに応じられるようにしておく」

「ああ、即戦闘になることも見越して早めの連絡を入れることにする。では、お先に」


 第一戦闘部隊とも呼べる人々が階段を下りていく。固唾をのんで見守る他のパーティーと、うちのパーティーは今のうちに拾った魔石を分散して持つことでお互いの荷物を出来るだけ軽くしようと色々画策していた。


 五分ほどして戦闘パーティーが全員帰ってきた。どうやら戦闘をしてきた……というわけでもないらしい。念のため見回ってきて、何もないことを確認してきたかの様子だった。


「見てもらえばわかるが、戦闘するようなモンスターは居なかった。むしろ何もなくて逆にびっくりしたぐらいだ。そして、ダンジョンコアを見つけた。アレを破壊すればこのダンジョンは消滅するはずだ。ダンジョンコアの破壊と同時にダンジョン内のモンスターはすべて消滅して、数時間後にダンジョンそのものがなくなる、という形になる。帰りのマラソンの準備と井上さんへの報告、それぞれ役割分担しよう」

「ダンジョンコアってのを見たことがないんだが、見に行く暇ぐらいはあるのか? 」


 どうやら生活圏開放担当でも防衛担当でもない、”鉱山”採掘担当らしい探索者が質問をする。俺もダンジョンコアという物は見たことがないので見る暇があるなら今が見る数少ない機会かもしれない。


「下の階層にはモンスターが湧いてないから今なら安全に見ることができる。覗きたいならご自由にどうぞってところだな。ただ、破壊はもう少し待ってくれ。せっかくだし全員で破壊を見守りたいだろうし、誰が破壊するかも決まってないからな」

「俺も見に行きたいんだけどいいかな? 」


 せっかくなので立候補してみる。ダンジョンの奥深くまで潜る機会というのは俺にとってはもうないだろう。ここで見ておかないとなんだか損した気分になりそうだ。安全にダンジョンコアが見られるならそれに越したことはない。


「おう、爺さんのパーティーで行ってくるといい。その間ここと下の階層の警備はしておくからな」

「許可が出たから行ってみたいんだけどいいかな? 」


 パーティーメンバーに確認を取る。


「お付き合いますよ。我々もダンジョンコアが割れる瞬間というのを目にしたいところですしね」


 田沼さん、よし。


「俺も初めてだな。ダンジョンコアって存在は知ってるが実際に見たことはない。これも野田さんが繋いだ縁ということで一つ見に行こう」


 佐々さん、よし。


「私も見に行きます。私だけ置いてかれるのもあれですし」


 谷口さん、よし。全員の意思を確認したところで階段を下りていくことにする。階段はちょっと長めの階段だったが、道中何かあるわけでもなかったが、階段のある一定の所から温かみのあった階層の光から真っ白な光に変わった。やはりここのダンジョンは二階層ごとに見た目が変わるらしい。


 そして階段を下り切った先には、ぼんやりと光る玉が台座に置かれていた。これがダンジョンコアという奴らしい。


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