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第109話:踏破

 ダンジョンコアルーム、と呼ぶべきなのだろう。この階層にはこのダンジョンコアが置いてある部屋以外には何もないようだった。ここが本当にダンジョンの一番奥深くである、ということになるらしい。


「ダンジョンコアが単体で置いてある、というのは珍しいケースなんですかね? 」

「”鉱山”の場合ですと、ゴブリンキングが現れるという広間の奥にダンジョンコアが設置してある部屋があるという話ですから、階層全体がダンジョンコアだけしかない、というパターンもあったということですかね」

「それにしても不思議な玉だなあ」


 チェスのキングの駒の上にふよふよと浮いているこれがダンジョンコア。破壊するには力は要らないらしい。ちょっと小突いてやれば破壊できるほどの軟弱な物体ではあるが、これを破壊することでダンジョンは踏破、崩壊するという仕組みになっているらしい。


 ダンジョンコアの様子を見れたことで一応は満足し、是非破壊シーンを見たいところだがそこまで贅沢を言うわけにもいかない。七層から六層に上がり、みんなの元へ戻った。


「さて、足の速さに自信のあるパーティーで一足先に二層へ向かってダンジョンコアを破壊した、と報告してくれる探索者が必要だ。向こうも撤収準備が必要だろうし、一層で車を防衛してもらっているパーティーにも手伝いがそろそろ必要だろうし、何より暇してるのは間違いない。自主的に行ってくれるパーティーはいるかな? 」


 いくつかのパーティーが手を上げ、一足先にオサラバするぜと言わんばかりにそれぞれの担当が決まり、早速走り出した。


 帰り道にも当然またモンスターは湧きなおしているはずなので【エンチャント】の効果が続く限りは大丈夫だとは思うが道中が少し心配ではある。それを見越してか、合計四パーティーの合同で向かった様子。これ、帰り道に取り残されたらどうなるんだろう?


「ダンジョン消滅までにダンジョンから出れなかったらどうなるんですか? 」


 念のため確認の質問をしておく。走りすぎて血圧が上がって動けなくなることも考えておかなければいけないからな。ダッシュで逃げないと崩壊に巻き込まれて帰れなくなる、といった事態はゴメン被らなければならない。


「その場合はダンジョンの出現位置当たりに勝手に排出されるので問題ありません。むしろ、気にするべきは荷物のほうでしょうね。人間は排出されますが地面に放り出されている荷物や物品なんかはダンジョンに吸収されてそのまま消滅してしまいますから、松井さんのほうへ先触れを出しに行ったのはその準備に時間を出来るだけ割けるように、というのが目的であります。最悪の場合人の乗ってない車はそのまま放り出されずにダンジョンに吸収される恐れがありますから、それを見越して多めの人数で向かってもらった、という側面もあります」


 なるほど、生きている以上は安全らしい。そしてマツさんのゲルやみんなが住んでいたログハウスやコンテナハウスは吸収される恐れがある、と。マツさんに速報を入れに行くのはあの大量の荷物や生活用品を片付けるための時間差を持たせるためなんだな。一つ勉強になった。


「とりあえず全員七層に下りようか。一時間ぐらい待機して時間差を持たせて、その間に休憩かつ雑談をして、その後ダンジョンコアを破壊、全員で走って脱出。この流れで行こうと思うがどうだ」

「いいんじゃないか? 今行かせてる連中が早くたどり着くのがどのぐらいになるかは解らないが、二層で警備をしているパーティーも少し心配しているかもしれない。早めに連絡を送っておくことは大事だし、出来るだけ時差が出来るようにしたほうが心の準備もできるだろうからな」


 早速全員で七層に下りなおして、ダンジョンコアルームで待機。その間に和やかな空気の中、全員がダンジョンコアのほうへ向き直っている。これをいつ破壊するのか、といった具合だ。


「ダンジョンコアを破壊した場合、モンスターってどうなるんですか? 」


 ダンジョン踏破に初参加の俺として気になることを質問してみる。


「ダンジョンコアを破壊した時点で、ダンジョンの中にいるモンスターはすべて消滅する。なので帰り道はただ歩くだけで済みます。地図は共有してるはずなので迷ったりする可能性はないとは思いますが、迷った場合一定時間経てばダンジョンが消滅したタイミングでダンジョンの外側の部分へ強制転移させられるので問題はないですね」


 なるほど、最悪ダンジョンコアまでたどり着いて、ダンジョンコアのあったところで待機して休んでいても問題はないということか。また一つ勉強になった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間ほど何もしない時間が続き、エンチャントも切れた。一つのパーティーが身動きを始める。


「さて、そろそろいいかな。あまり遅すぎても問題だろうし、そろそろダンジョンコアを破壊して井上さんや松井さんとの合流をしようと思う。爺さんはまたエンチャントをかけてもらえるかな。帰り道は駆け足ですすむことになるから体力的にも楽が出来るようにしたい」


 行きも帰りもエンチャント効果で楽に帰ろうという話らしい。確かに自分自身の体調や体の状態を考えると、とてもじゃないがエンチャントなしで走り抜けることは難しいだろう。


「わかった、早速かけて回ることにする」

「頼むよ。エンチャントがかかり次第ダンジョンコアを破壊、そして脱出だ。集合は二層の井上さん達が居るセーフエリア。あそこへ到着次第撤収準備を進めて老人たちも含めて全員で脱出だ。準備しよう 」


 また一列にエンチャント待ちの列が出来上がるので、自分にエンチャントをかけた後全員にエンチャントをかけて回る。今日だけで四百回ぐらいエンチャントをかける仕事をしたことになるのか。これは超過勤務手当でも出ないとちょっと割に合わないな。


 順番にエンチャントをかけていき、最後の一人にまでエンチャントをかけ終わったところで、誰がダンジョンコアを破壊するか、という問題になった。


「誰でも良いが、ぜひ割ってみたいという人が居たらどうぞというところだが……爺さん、冥途の土産に割っておくか? 」

「いいのか? 大役だぞ? 若い奴こそ経験を積んでおいたほうがよくないか? 」

「まあ、たしかにそれもそうなんだが、爺さん【エンチャント】のおかげでここまでこれたというのも確かにある。ここは一つやってみてもいいんじゃないかな」


 皆から前に押し出され、ダンジョンコアの前に立つ。深呼吸をして落ち着いた後、槍先でダンジョンコアをつつくと、ぷよんとした柔らかい手ごたえ。どうやらだれでも壊せるというのは嘘ではないらしい。


「じゃあ、壊すぞ」

「おう、やってくれ」


 皆の圧が凄いので溜めずに一気にやってしまうことにした。槍で一気に貫くと、ダンジョンコアはぱちんと弾けて割れ、黒い粒子をまき散らしながら消滅した。後にはドロップ……こいつにもドロップ品があるのか。虹色の魔石が出てきた。


「ダンジョンコアにも魔石はあるんだな。しかし綺麗だ、記念品にもらっておいてもいいかな? 」

「いいんじゃないか? 死ぬときに墓に一緒に入れてもらうと良い。莫大なエネルギー源になる可能性もあるが……まあその時はその時だ。松井さんに渡せば価値は解るだろうし。さて、これでダンジョン探索は終了だ。家に帰るまでがダンジョン開放。ここからはできるだけ走って先行部隊に追いつくことにしよう。おそらく先行部隊もモンスターが消えることでダンジョンコアの破壊に気づいたはずだ。ここからは時間勝負……とまではいかないだろうが、早めに帰って早めに脱出するとしよう」


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