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第14話

 俺が寮に入って一週間が経った。

 相変わらず店は忙しい。あまりの盛況ぶりに在庫の酒が無くなってきたので、俺は仕入れのためにショッピングモールに来ていた。行先はもちろんリカーショップホンダである。


 一応今回の仕入れ分からお金を取ることにした。お金を儲けるつもりはないんだが、無料だと思ってついつい飲みすぎてしまう隊員が多いらしい。岩瀬さんからクレームが入ってしまったのだ。


 まあ、一杯五百円ほどであればそれなりに節度を持って隊員たちも楽しんでくれるだろう。

 酒は飲んでも飲まれるななんて言うからな。俺はそんなこと気にしたことも無いんだが。


 リカーショップホンダに着いて店内に入ったが、相変わらず他の客は見当たらない。どうやって儲けているんだろうか。ショッピングモールのテナント料って結構高いはずなのに。


 そんなことを考えていると、品出しをしていた店主を見つけた。


「どうもー」


「あ、いらっしゃいませー……って兄ちゃんか! よく来てくれたな!」


 そう言って立ち上がると俺の肩をバンバンと叩いてきた。

 俺だから大丈夫だけど、たぶん他の人にやったらケガさせるんじゃないか?


「あ、そうそう。俺、討伐隊員にスカウトされて、討伐隊の寮でバーをやることになったんですよ。今日はその仕入れに来て」


「討伐隊にスカウトされたのにバーテンダーなのか?」 


 店主は首を傾げて俺にそう尋ねてきた。まあ、通常バーテンダーの求人なんて出るわけないからな。不思議に思うのも仕方がない。


「色々あったんですよ」


「色々大変そうだな……。ところで仕入れってなると量もすごいだろうから明日にでも配達しようか?」


「え? 良いんですか?」


「おう。まあ、店を開ける前だから朝八時くらいになっちまうんだが……大丈夫か?」


 非常にありがたい申し出に俺は迷わず承諾した。

 セリーヌに頼めばいいのかもしれないが、空間魔法を人前で見せるのはやめておいたほうが良いと北村支部長に言われているのだ。そのため荷物持ちにセリーヌを連れ出すことはあまりできなくなった。


 セリーヌとマリーは今日、非番になった岩瀬さんとショッピングに出かけているらしい。ま、男の俺はノータッチだ。


「そうだ。一応今回からビジネスになるからな。改めて、リカーショップホンダの店主、本田茂だ。よろしく頼む」


「梶谷太一です。こちらこそよろしくお願いします。とりあえず予算上限なしで毎日百人以上のお客さんが来ると想定して酒を用意してもらえますか?」


「上限なしって……討伐隊ってそんなに給料が良いのか?」


「今日お金は払いますから心配しないでください」


 その後本田さんと色々相談して、かなりの量の酒を仕入れることになった。総額八十九万。高級な部類の酒を頼まなかったのにこの金額である。


 まあ、後々在庫がなくなりそうな酒や新しい酒を頼んでいけばいいだろう。


 そうして、この日は翌日の配送の打ち合わせを行って店を後にした。



◇◇◇



 翌日。


 本田さんは予定通りの時間に討伐隊の寮の前にやってきた。

 大型のワンボックスカーに満載に積まれた酒をバーまで運ぶのにかなり時間がかかってしまった。


「すみません本田さん。店の支度もあるのに」


「気にしなくていい。兄ちゃんの頼みならなんでも聞くぜ。それに今日は店を開けるのを昼からにしたんだ」


「昼から? まさか俺の配送のために?」


 その話を聞いた途端に申し訳なさがこみあげてきたが、本田さんは首を横に振った。


「今日はちょっと討伐隊ギルドに依頼を出しに行こうと思ってよ。ほら、前に俺の知り合いがウイスキーを作ってたって言っただろう?」


「ああ、あの美味いウイスキーですよね? 何かあったんですか?」


 本田さんはそこから依頼を出す経緯を話し始めた。

 要約すると、ダンジョン産の素材から作っていたウイスキーだったが、ダンジョンの下層に未知のモンスターが発生したらしい。上層に上がってくる可能性も考え、今は三級隊員以上の隊員しかそのダンジョンに入れないそうだ。


 今まで五級隊員が素材の採集を担当していたのだが、その供給がストップしてしまった。

 三級以上の隊員はそのような依頼は基本的に受けず、討伐依頼を主に行っているらしい。


「ようやく市販できるかもって時にこの問題だからな。それなりに依頼金がかかってもやはりダンジョン産の素材がないとどうにもならないからな」


「そんなことがあったんですね……」


 そこでふと妙案が思いついた。

 それ、俺が行けば良いのでは……?

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