俺は急遽本田さんと一緒に討伐隊ギルド栃木第一支部までやってきた。
依頼担当の受付まで行くと、俺の顔を見た女性職員の早見さんは少し驚いた表情を見せた。
ちなみに早見さんはウチのバーの常連である。
「あれ? 梶谷さん? 寮の方で何か問題でも?」
「いや、俺はただの付き添いっていうか……本田さんが依頼を出したいみたいで付いてきたんだよね。てか、俺がその依頼受けたいって感じですかね?」
「梶谷さんが依頼を……? まあとにかく依頼内容を確認させていただきますね」
そこからは本田さんと職員の方で依頼内容の打ち合わせを行っていた。
しかし、依頼内容と担当する隊員のレベルが合っていないことで、早見さんは頭を抱えていた。
「以前は別の方が依頼されていた玉ヶ門ダンジョンでの素材採集依頼ですか……。依頼金も高いですが、やはり三級以上の隊員が足りていないことがネックになりますね」
「そこで俺の出番ってわけですよ」
「それが良く分からないんですけどね? すみません、依頼受理は可能ですが梶谷さんが依頼に向かうというのは支部長に相談しないといけませんので……」
そう言うと早見さんは階段を上って支部長室に向かっていった。
「なあ兄ちゃん。あんた、相当腕が立つはずだろう? なんでいちいち支部長さんの許可が必要なんだ?」
「ちょっと事情がありまして……以前のダンジョンスポーンのこともあまり公にはなっていないんですよ。だから俺に戦闘経験があるってことを知らない隊員も多いんで」
以前、俺のことを撮影した動画がネットで拡散されたそうだが、討伐隊の指示でその動画は全部削除されたらしい。まあ、一部の掲示板で多少話題に上がったようだがその動画が消されたことで今は誰も覚えていないだろうとのことだった。
「そういやダンジョンスポーンのことは箝口令が敷かれていたな」
「知っているのは栃木第一支部の一部の隊員だけですよ」
そんなことを話していると早見さんが戻ってきた。少し遅れて北村支部長が階段から下りてくるのが見えた。
「北村支部長、おはようございます」
「おはよう……それで? 君が行く必要があるほどやばい依頼だとは思えないんだが」
「俺にとってはまずいんですよ。素材採集が行えないと、ウイスキーが作れないんです」
「ウイスキー……? ああ、この玉ヶ門大麦が原料なのか」
依頼書に目を通しながら、納得するように北村支部長は唸った。
「酒のためなら命だって賭けれますよ」
「酒に命を賭けてどうするんだ全く……。しかし、人手不足なのは否めない。どうする? 君だけで玉ヶ門ダンジョンに行くか?」
「いえ、マリーとセリーヌも連れていきます。あいつら暇してるだろうし」
それに素材採集ならセリーヌの空間魔法が必須になるからな。
そのことも北村支部長は察したのか、依頼書に自分のサインを記した。
「まあ、このレベルのダンジョンであれば大丈夫だろう。行ってこい」
「了解です! 良かったですね本田さん!」
俺は満面の笑みを浮かべて本田さんに手を差し出した。すぐに依頼を受けてくれることが分かり、本田さんは嬉しそうに俺の手を両手で握りしめた。
「じゃあ兄ちゃん頼むぞ! 俺も知り合いに素材の方はなんとかなりそうだって知らせておく!」
そうして本田さんは帰っていった。
北村支部長に確認すると、明日の朝からダンジョンに潜れるように手配してくれるそうだ。
俺は明日からの素材採集に向けて準備を始めることにした。
◇◇◇
「……てことで明日からダンジョンに潜るから、色々準備しておいてくれ」
寮に帰ってマリーとセリーヌをバーに呼び出し、俺はダンジョンで素材採集をすることになった経緯を説明した。
「よりによってなんで明日なのよ! ほんとあんたは昔から思い立ったら何も考えなえずに行動するんだから……!」
うん。セリーヌさんはご機嫌ななめである。
「そのダンジョンって攻略難易度はどのくらいです?」
「この前までは五級隊員が入れるくらいのレベルだったらしいから相当簡単だと思うぞ? 今は生態が変わったとかなんとかで下層に新しいモンスターが発生することになったって言ってたけど、まあ問題ないだろう」
「じゃあキャンプですね! 私、岩瀬さんと一緒にキャンプ用品買い物したです!」
マリーはこちらの世界に来てキャンプに目覚め始めたらしく、昨日は相当キャンプ用品を買い込んだらしい。もちろん俺のお金でね?
「素材採集だからセリーヌの空間魔法が必須なんだよ。急で悪いけど頼むわ」
「……今度東京の並ばないと買えないスイーツ買ってくれるなら行ってあげる」
「東京? ったくしょうがねえな……。お前、甘いものばっか食ってたら太るぞ?
「うるさいわね! 毎日酒ばっかり飲んでるあんたに言われたくないわよ!」
一悶着ありつつも二人の了承をもらい、俺たちは玉ヶ門ダンジョンでの素材採集に向けて準備を始めた。