玉ヶ門ダンジョンは第一支部から電車やバスを乗り継いで一時間ほどの場所にある。
ダンジョンが発生した地域はモンスターが溢れるダンジョンフラッドの可能性があることから人口がかなり少ない。ほとんどの人が隣町に引っ越してしまったらしい。
「人がいないと一気に寂れてしまうんだな……」
人がいなくなった街は廃墟が多く、道路などはまったく手入れされていない。
異世界のダンジョン都市なんかは冒険者のための宿屋や武器屋なんかが所狭しと並び建ち、活気に満ちていたものだった。
そこは異世界と正反対なんだな。
玉ヶ門ダンジョンの近くには討伐隊ギルドの出張所が建設されている。
俺たちはその中に入り、受付でダンジョン攻略の手続きを行っていた。
「北村支部長から話は伺っています。何日間攻略されますか?」
「とりあえず初日は様子見なので日帰りにします。明日から本格的に戻るので今日の調査次第で何日潜るか決めても良いですか?」
「分かりました。日帰りであれば今日は宿泊されますよね? 二階で宿泊できますので、戻りましたら声を掛けてください。部屋の鍵を渡します」
手続きも滞りなく終了し、俺たちは早速玉ヶ門ダンジョンの入口に向かうことになった。
ダンジョンが発生したのは神社で、鳥居をくぐった先にダンジョンへ続く階段が現れていた。
「この感じ久しぶりだなあ」
「そうね。ダンジョン攻略は……二年振りくらいかしら?」
「今日は様子見だし、戦闘の連携とかを軽く確認して早めに戻ろう」
そうして、俺たちはダンジョンへ続く階段を軽い足取りで降りていった。
◇◇◇
玉ヶ門ダンジョンは小型のオオカミ型モンスター、ホワイトウルフやゴブリンなどが現れる、ザ・初心者向けダンジョンというイメージだった。
正直、弱すぎて話にならない。
「これ、連携の確認できているですか?」
「いいや、全然。上の層だとこのレベルなんだろう。さっさと下層に向かうか」
その後、二十階層ほど潜ったが出現するモンスターに変わりは無かった。
一応二十一階層から下層という扱いだと聞いていたが、生態の異変は今のところ見られない。
「あら? あれって今回採集する大麦じゃない?」
「お、ほんとだ。サクッと採っていくか」
モンスターに異常が見られないことから、俺は所々生えている玉ヶ門大麦の採集を始めることにした。
ダンジョンの素材は基本的に生育が早い。この大麦も三日もすれば元通りに生えているそうだ。取り放題と言っても差し支えないだろう。
そうして採集を続けていると、遠くの方に討伐隊員のチームが見えた。多分彼らは生態異常の調査だろう。
向こうも俺たちに気が付いたようで、こちらに近づいてきた。
「ん? 見ない顔だな……第一支部のやつか?」
「ええそうです」
声を掛けてきたのは金髪に染め上げた坊主頭の隊員だった。正直ガラが悪い。チンピラと言っても差し支えない。
「ふーん……ところでなんで大麦の採集なんてやってるんだ? お前らもさっさと生態調査をやっとけよ」
俺が大麦の素材採集を行っていることを面白く思っていないのか、きつい口調でそんなことを言ってきた。
「俺たちは生態調査じゃないんで」
「ああ? ったく第一支部には生態調査もできねえのか? ハハハハハ!」
俺の言葉を聞くとチンピラ隊員は馬鹿にするように大笑いしていた。周りにいた他の隊員もにやにやと俺たちを見下すような表情を見せている。
あれ? もしかして他の支部とバチバチ? 仲悪い?
詳しいことが分からなかったので、俺たちはすぐにその場を離れた。面倒なことに巻き込まれる前に撤退する。
他の支部のことは帰って職員に聞いてみるか。
「何あれ? ぶっ飛ばしていい?」
「やめとけ。隊員同士でトラブルを起こしたら何を言われるか分からないし」
そうして俺たちは地上に向けてさっさと帰ることにした。
地上に出ると夕日が沈み始めていた。意外と長くダンジョンに潜っていたらしい。
出張所に戻って職員に宿泊する部屋の鍵を受け取りに来たことを伝えた。
「こちら三部屋分の鍵になります」
「ありがとうございます。あ、そうそう。今日下層で他の支部? の人に喧嘩を売られたんですけど、支部間の争いっていうか、ライバル関係みたいなのってあるんですか?」
俺が職員にそう尋ねると、怪訝そうな表情を浮かべてしまった。
「はあ、またですか……。多分その人たちは第二支部の隊員です。基本的に支部同士で対立することは無いんですが栃木第二支部の隊員は別なんです」
話を聞くと、支部ごとに依頼の達成数や成功率が計上されているらしく、討伐隊ギルドとしては各支部で切磋琢磨していこう、っていう考えらしい。ただ、第二支部は完全実力主義。その結果素行の悪い人間でも上の階級に昇級してしまう事例が多発しているとのことだ。
「そんな感じなので第二支部の人間には関わらないほうが良いかと」
「なるほど。ありがとうございます。絶対に関わらないことにします」
俺がそう言うと職員は苦笑いを浮かべ、俺たちを送り出してくれた。
「この世界にも面倒な対立とかあるのね」
「異世界だろうが同じ人間だし、人間がいれば争いは無くならないからな」
部屋に戻った俺はもやもやした気持ちを吹き飛ばすため、寮から持ってきた酒を流し込んで早めに眠ることにした。