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第18話

「あの、なにかあったんですか?」


「やばいことになった。第二支部のチームが帰ってきていないらしい。俺たちも応援に行かないと」


 ダンジョン内で帰還しない隊員がいた場合、すぐに対処するようにというのが討伐隊ギルドのルールらしい。

 対処、というのは帰還しない理由の調査や隊員の救出ということだが、三級隊員以上のチームが帰ってこられないレベルのダンジョンではないため、やはり生態異常が関係しているとの予測だった。


「あんた、二級隊員か?」


「え? 俺は……二級(相当の報酬をもらっている)隊員です」


「じゃあ、あんたも手伝ってくれ。帰還していないチームには二級隊員も含まれている。三級隊員が束になっても敵わないモンスターが発生した可能性もある」


 そうして、俺は半ば強制的に救助に向かうことになってしまった。


 俺はマリーとセリーヌに事情を説明して、すぐに出る準備を始めた。


「こっちの世界だと積極的に救助をしないといけないのね」


「トラブルを未然に防ぐことが目的らしい。イレギュラーな問題が発生した場合は後手を踏むといけないんだってよ」


 以前、こういった事態が起きた際に対処が遅れたせいでダンジョンフラッドが発生して一般人も無くなる事件が起こったそうだ。そこから討伐隊ギルドはわずかな

異変でもすぐに調査するようになったとか。この玉ヶ門ダンジョンの生態調査をこの隊員数で行っていたのはそういう背景があってのことだった。


「じゃあ、一応気を引き締めていくか。なにが起こるか分からないからな」


 俺たちは準備を終えて下層に続く階段に向かった。

 階段の前には先ほど俺が声を掛けた隊員が待っていた。


「悪いな、こういう事態だから勘弁してくれ。栃木第一支部二級隊員の東山だ。よろしく」


「あ、第一支部の方だったんですね。同じく第一支部の梶谷です」


「梶谷……? 梶谷って寮でバーテンダーをやっているっていう……? まあ、とにかく先を急ごう」


 俺たちは自己紹介も半ばにとりあえず下層に向かうことにした。

 進んでいる途中に聞いた話だが、東山さんは数年前に新築住宅を建てたそうだ。お互い面識がなかったのはそう言う理由だ。寮で生活しているなら俺のことを知らない隊員はいないからな。


「でも梶谷君が来たのは最近だろう? なんでもう二級隊員なんだ?」


「え? あー……戦闘能力が認められたというか……まあ、そんなところです」


 あまり適当なことも言えないので誤魔化しておいた。二級隊員なんて言ってしまった手前、適当もクソも無いんだろうけど。


 そうして俺たちがしばらく進んでいくと、先に出発したチームが戦闘を開始していた。


「あれ? ブラックウルフか。結構数が多いな」


 馬並みに体が大きいオオカミ型モンスター、ブラックウルフが六体ほど行く手を阻んでいた。ブラックウルフ単体ではそんなに強くないのだが、こいつらの群れに襲われるとかなり危険だ。

 ブラックウルフは知能が高く、連携して攻撃してくる。


 まあ、危険ってのは一般的な冒険者相手の話だけどな。


「結構苦戦してますね?」


「そりゃそうだろう……! 玉ヶ門ダンジョンにブラックウルフなんて聞いたことがない……!」


「あ、そうなんですか。まあ、先を急ぎますしサクッと倒しちゃいますか」


 俺はそう言って一気にブラックウルフの群れの一体に迫る。

 応援が来ていたことに気が付いていたはずだが、まさか奇襲を受けると思わなかったのか一瞬動きが止まっていた。


「隙だらけだぞ、っと」


 俺は両手剣を叩き込み、ブラックウルフを一刀両断した。

 仲間の一体が急に倒されたことで、ブラックウルフのヘイトは俺に集まる。


 まとめて掛かってきてくれるなんて非常にありがたいものだ。


「せええ、のお!」


 俺は両手剣の腹で最初に飛び掛かってきたブラックウルフを叩き飛ばした。気分はメジャーリーグのホームランバッターである。


 まとめて壁に叩きつけられたブラックウルフは、風魔法のウインドカッターによって切り刻まれた。


「ありがとうセリーヌ」


「急がないといけないんでしょう? さっさと進むわよ」


 俺たちが先を急ごうと東山さんたちに声を掛けようとしたが、なにやら様子がおかしい。

 口をあんぐりと開けて、固まってしまっている。


「どうしました? 早く行きましょう」


「いや、いやいやいや……あんたたち何者だよ! なんでブラックウルフを瞬殺できるんだ!?」


 どうやら少し張り切りすぎたみたいだ。

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