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第19話

 ブラックウルフとの戦闘を終えてからその場にいた隊員たちに質問攻めにあったが、まずは救助を優先しようと言って俺たちは先に進んだ。


 するとマリーが周りに聞こえないように俺とセリーヌに話しかけてきた。


「二人とも、あまりやりすぎは良くないです。他の支部の人たちがいるですから」


「やりすぎって……魔族領の最弱モンスターだぞ? 時間をかけるの勿体ないだろ」


「私に言われてる時点でまずいと思うです。気を付けないと支部長に怒られるですよ?」


 そう言われるとぐうの音も出ない。

 未だに異世界の感覚が抜けていないのはどうにかしないといけないな。でもブラックウルフ相手に苦戦する演技をするってものどうなんだ?


「ほら、今はいわゆる有事ってやつだろう? 多少は大目に見てくれるって」


 そうは言ったものの、マリーの言う通りなのだ。

 俺って何級隊員っていうのは決められていないんだよな。報酬は二級隊員並みだけど、第一支部の中ではただのバーテンダー扱いだし。


「でも他の隊員で対処できないならあたしたちが対処するしかないわよ?」


「なんかやりにくいよなあ……空間魔法も使えないし、あまり他の隊員の前で戦うなとも言われているし……」


 もう少し他の隊員が頑張ってくれたら良いんだけどな。


「おい! あそこ!」


 そんなことを小声で話していると、他の隊員から驚くような声が上がった。

 その隊員が指をさしたには、かなり広々とした空間が広がっており、その中心で隊員がモンスターと戦闘していた。


 地竜、アースドラゴン。


 翼を持たない十メートルを超える巨体のトカゲのようなモンスターで、前身は深い緑色の固い鱗を身に纏っている。 

 物理攻撃に耐性があり、主に魔法使いのパーティで討伐することが多いモンスターだ。


「帰還していない隊員てあいつらだったのかよ」


 そんなアースドラゴンと戦っていたのは、昨日俺たちを馬鹿にしていた金髪坊主のチンピラ君だ。他の隊員も地面に伏しているため、たった一人で戦闘を続けていた。


「……東山さん、なんであいつらを助けるためにこんなに隊員が集まったんです? あいつら、素行が悪くて有名らしいじゃないですか」


 日頃恨みを買うようなことも多そうなやつらだ。知らんぷりをして救助しないつもりの隊員もいそうだと思ったんだが。


「一応、彼らは第二支部のエース格だからな。そんなやつらでもいなくなると困ることがあるんだよ……!」


 そうして東山さんはチンピラ君を助けるため、戦闘に加勢した。

 他の隊員もそれに続くようにアースドラゴンに向かっていった。


「……なんか、俺たちって蚊帳の外じゃない?」


 他の隊員はどうにかして、チンピラ君たちを助けようと歯を食いしばって戦闘を続けている。


 しかし、俺たちはアースドラゴンと何度も戦ったことがあるし、今すぐに倒してくれと頼まれたら十分以内に片付ける自信がある。


 他の隊員との温度差がありすぎるよな。


「どうするの? あたしたちも加勢する?」


「うーん、とりあえず様子見で大丈夫じゃないか? 良い経験になるだろうし。いざとなったらマリーもいるしなんとかなるよ」


 意外と隊員同士で連携が取れており、魔法を使える隊員にヘイトを向けないように東山さんを含む前衛がアースドラゴンに攻撃を加えていた。


 順調にいけばこのまま倒せそうだ。

 そんなことを考えながらしばらく様子を見ていたところで、魔法使いの内の一人が急に力が抜けたように倒れてしまった。


「あら? 魔力切れかしら?」


「だろうな。 魔力管理が上手くできなかったのかもな」


 隊員の様子を見るに、こういう格上のモンスターと戦った経験がないのかもしれない。


 緊張、焦り。


 そういった些細なことでも、普段当たり前に出来ていたものができなくなるものである。


 魔法使いの一人が倒れてしまったことで、形勢が不利になっていた。ここからの挽回は厳しそうだな。


「マリーとセリーヌはあの倒れた隊員を救助してやれ」


「わかったです。タイチはどうするです?」


「せっかくだから俺の戦い方を教えてあげるか。みんな気になってるみたいだし」


 今から戦線に加わるとは思えないほどゆったりした足取りで、俺はアースドラゴンに向かった。

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