「東山さーん! あとは俺にまかせて一旦下がってくださーい!」
「はあ!? アースドラゴンを一人で抑えられるのか!?」
俺の言葉を聞いて、東山さんは疑うような表情を浮かべていた。
「まあ大丈夫ですよ。それに、そんな武器で戦ってたら死にますよ?」
東山さんの武器は西洋のサーベルのような武器だったが、この戦闘で刃こぼれがかなり目立っていた。そのうちポキンと刀身が割れてしまうだろう。
俺はひとまず、こちらに突進してきたアースドラゴンの頭にタイミングを合わせてカウンターを叩き込む。
するとその巨体が跳ね上がるように数メートル後ろに吹き飛んだ。
「今のがパリィってスキルなんですけど、東山さんは使えます?」
「使えるがアースドラゴンにパリィを決めるやつなんて見たことないぞ?」
「大事なのはタイミングですよ。あとはパリィできるかどうか見極めて、できそうにないならそのまま受け流せばいいんです」
百聞は一見に如かず。
見てもらった方が良いだろうと考え、俺は再び突進してきたアースドラゴンに向かってパリィを発動した。
デジャブを感じるほどに、先ほどと同様の光景が広がる。
「ほらね?」
「簡単そうにやってるが無理なもんは無理だ」
東山さんは呆れた様子で俺の戦闘の模様を窺っていた。
どうやら東山さんの戦闘スタイルには合わないようだ。
「ま、もういいか」
一応ブラックウルフの戦闘で色々質問攻めにあったから参考になるかと戦い方を説明してみたが、今はどの隊員もそれどころじゃないらしい。
俺は今まで適当にあしらってきたアースドラゴンに向かうと、両手剣を後ろに構えた。
「『居合斬り・一閃』」
スキルを発動し、アースドラゴンの首を目がけて両手剣を叩き込む。
あまりの速度にアースドラゴンは目を見開いたが、すでに攻撃範囲に入ってしまったのでもう遅い。
まるで豆腐のように両手剣が固い鱗ごと肉を断っていく。
アースドラゴンの首が落ちると、その巨体は大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
俺はふう、と一息つくと救助に向かっていたマリーたちの様子を見に行った。
「それで、金髪坊主君は?」
「骨とかはバッキバキに折れてます。でも命に別状はないです。他の二人は助からなかったです」
マリーは淡々と状況を説明してくれた。
ま、俺たちが来た時にはもう手遅れっぽかったし、一人でも助かったなら良かったんじゃないだろうか。
他の第二支部の隊員はバツが悪い顔をしながらも頭を下げ、金髪坊主君を連れて行った。
実力主義という反面、アースドラゴンを討伐してしまった俺には大柄な態度を取れなかったらしい。
「お疲れ様、梶谷君」
「あ、お疲れ様です。俺たちも帰りますか……本当ならもう寝てる時間ですし」
バタバタしたせいか酒も抜けきってしまった。
「帰って飲みなおすか」
他の隊員もすでに帰り始め、残っていたのは東山さんだけだった。
そうして来た道を戻ろうとした時、急に悪寒が走った。
「セリーヌ!!! 防御!!!」
咄嗟に指示を出したが、セリーヌは難なく防御魔法を展開して見せた。
間もなくその防壁に何かがぶつかり、激しい衝撃と爆音が辺りに響き渡った。
「あれ? 防がれた?」
舞い上がった砂ぼこりの向こうから、中性的な子供の声が聞こえてきた。
俺はこの声の正体を知っていた。
「アキュラス……なぜお前がここにいるんだ?」
真っ黒な装備を身に纏った、褐色肌のダークエルフ。魔王軍幹部のアキュラスがこの世界にいたことに、俺は驚きを隠せなかった。
そういえばこいつの息の根を止めるのを忘れていた……。
「……ええ!? 勇者!? お前こそなんでこんなところにいるんだよ!」
「元々俺はこの世界の住人なんだよ! そうか、やはりダンジョンが出来た理由はお前らの仕業か」
こうも早くダンジョンが発生した原因にたどり着けるとは思わなかったが、魔王軍が相手なら話は早い。さっさと殺してしまおう。
俺が両手剣を構えると、アキュラスは焦ったように両手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待ってって! 攻撃したのは悪かったよ! だってアースドラゴンの首を一刀両断にするやつだよ? 先制攻撃しないと勝てないじゃん!」
「知らん。遺言はそれだけか?」
まあ、誰にも伝えてやらないけどな。
「ちょ、本当に待ってって! ボクがここにいるのも多分邪神のせいなんだってば!」
「あ? 邪神?」
気になることを言われたので、俺は戦闘態勢を維持したままアキュラスの話を聞くことにした。