そもそも、異世界のモンスターは邪神が作り出しているとクソ女神は言っていた。
そのモンスターをあやつる統率力と戦闘力を与えられたものが魔王だ、とも。
アキュラスのような魔族はモンスターとは違い、人族や亜人族と同じように異世界固有の人種のはずだ。
「モンスターだけがこっちの世界に出現しているならお前の言う通り邪神のせいなんだろうが、お前ら魔族って関係なくね? お前モンスターじゃないじゃん」
「魔王様がいなくなって統率がなくなったモンスターの討伐をやってたんだよ。ちょうどワイバーンの群れを倒そうと突っ込んだところに魔法陣が現れてさー。で、それがこの世界に転移する魔法陣だったって訳」
アキュラスはやれやれと言いたげに両手を挙げながら首を振った。
しかし、こいつが言った話が本当なら俺だけじゃ対処できない可能性が出てきた。
だってあの魔王の親分みたいなものでしょ? 無理無理。
「お前が相打ち覚悟で邪神に挑んで来いよ」
「人のことなんだと思ってるのさ! そもそも邪神はこの世界にいるわけじゃないし。ほら、人族が信仰する女神も同じようなものでしょ?」
うーん……クソ女神は結構俺の前に現れていたけどな……。
俺がアキュラスの話を基に色々考え込んでいると、隣にいたセリーヌがトントン、と肩を叩いてきた。
振り返ると、セリーヌは右手にとある魔道具を持っていた。
「とりあえず、あいつをどうにかしないと」
「あー……それもそうだな」
俺はその魔道具を手に取り、アキュラスの方へ向かった。
「おい、アキュラス。お前、俺たちにこれ以上危害を加えないと誓えるな?」
「え? いや、当然でしょ。魔王様を倒せるやつらにボク一人で盾突くわけないじゃん」
「そうか、安心した……じゃ、とりあえず後ろを向け」
「え? なんで?」
「良いから。早くしないと首をはねるぞ」
脅すようにそう言うと、アキュラスはすごい勢いで振り返り背中を見せた。この従順さがあるなら問題ないんだろうが、保険を掛けなければならない。
俺は首輪型の魔道具をアキュラスに着けてやった。
「ん……? 何? これ?」
「隷属の首輪ってやつだな。じゃあ……『アキュラス、お前は今後梶谷太一の許諾を得ずに人間に危害を加えてはならない』」
俺が条件を設定すると、首輪に埋め込まれている赤い魔石が淡く光り出し、徐々にその光は収まっていった。
「よし、そういうことでお前は今後俺の手伝いをやってもらうからな」
「え……? ええええええぇぇぇぇぇええ!?」
ダンジョン内に、アキュラスの叫び声が響き渡った。
◇◇◇
一段落して、俺たちは一旦安全地帯に帰ることにした。
せっかくの酒が抜けてしまったが、それなりに使い勝手の良い駒が手に入ったのは良い収穫と言えるだろう。
その駒、アキュラスはマリーに酒を浴びるように飲まされてしまいすぐに寝込んでしまった。
今はわざわざお礼を言いに来てくれた東山さんと二人きりで酒を飲み交わしていた。
「まさか梶谷君が異世界の勇者なんてな……。普通は誰も信じないだろう」
アキュラスの会話を聞かれてしまったので、俺は諦めて異世界に転移したことなどを含めてすべて話してしまった。
まあ、あの場にいたのが東山さんだけだったのが救いだ。今日会ったばかりだが、秘密はきちんと守る真面目なタイプだろうと判断した。
「そういえばあの……アキュラス君、だっけか? あの子が言っていた邪神ってのは俺も最近巷で聞くことがあったんだよ」
あくまで噂でしかないが、最近メイヴェラという神様を崇める怪しい宗教団体が全国的に増加しているとのことだった。
モンスターの討伐に反対する小規模なデモを行ったこともあるようだ。
「どうもきな臭いですね……」
「アキュラス君の話を信じるとするなら、あきらかにその邪神の息が掛かってるやつがいるんだろうな……」
魔王が倒し切れていないのかも、なんて思っていたが想像以上に厄介な話になりそうだった。
「こういうときお前の出番じゃねえのかよ、クソ女神……」
俺は東山さんにも聞こえないほど小さな声で、悪態を付いた。