翌日。
俺たちは一旦栃木第一支部に帰ることになった。
元々依頼されていた大麦も大量に手に入れることが出来たし、早い方が本田さんにも喜ばれるだろう。
早くあのウイスキーが完成することを期待しておこう。
そんなことを考えながら第一支部の扉を開けると、いつも職員が待っているはずの受付に腕を組んで不機嫌そうに座り込んでいる北村支部長が目に入った。
「やっときたな」
「……え? 俺たちのことを待ってたんですか?」
「話は後だ。とりあえず上に来い」
ぶっきらぼうにそう言うと、北村支部長は階段を上がっていってしまった。
「だから言ったです。支部長に怒られるって」
マリーはぷくっとほほを膨らませながら俺の背中を殴った。
あー、やっぱりその件か?
あれは不可抗力だろう。だって倒さないとみんな死んでたと思うし。
まあ言い訳を考えていても仕方がないので、素直に支部長室に向かうことにした。
階段を上がり、支部長室に入ると俺はどかっとフカフカのソファに座り込んだ。
「君たちのせいで第二支部からも本部からも昨日から問い合わせが殺到している。原因は分かるな?」
「いや、俺たちはちゃんと支部長の言う通り人助けをしましたよ? ほら、有事の際は力を貸してほしいって言ってたじゃないですか」
「ああ、言ったな。言ったけども……まさかアースドラゴンをソロ討伐するなんて想像できないだろう!」
支部長はそう言うと頭を抱えてしまった。
どうやら戦闘力の高い討伐隊員は本来、本部所属になるそうだ。それを北村支部長の独断で匿っていた結果、問い合わせが相次ぐ結果となったようだ。
「他に聞きたいことは山ほどあるんだが……なんで子供を連れ歩いてるんだ?」
支部長の視線はしれっと俺の横に座っているアキュラスへ向いていた。
あら、黙っていれば追及されることはないと思っていたんだけどな。
「ボクは子供じゃないよ?」
「お前は黙っとけ。ややこしくなるから……こいつは遠い親戚の子供なんですよ。ちょっと俺が預かることになりまして」
「首輪をつけてか? 随分良い趣味をしているじゃないか?」
それは俺の趣味でもなんでもないんですよ……! 拘束できる魔道具がこれしかなかったんだし。
「自分のことを客観的に見てみたほうが良いぞ? アースドラゴンさえ赤子の手をひねるように討伐できる戦闘力で、連れ歩く子供に首輪をつけて、さらに横には外国の美少女が二人……君、目立ちたいのか?」
「滅相もございませぬ」
「もちろん今後は仕事が山ほど増えると思っていた方が良い。一応本部には二級隊員に昇格した隊員として報告してある」
ぐう……。なんで人助けをしたのに余計な仕事が増えるんだ……。
「最初に言っていたことと話が違うじゃないですか……。俺はのんびりバーで酒を飲みたかっただけなのに」
「酒の原料採取の依頼を受けたのは君だろう? まさかアースドラゴンまで出現するとは思わなかったがな」
結局、玉ヶ門ダンジョンの生態が変化した原因は分かっていないらしい。ただ、アースドラゴンを討伐した後、下層に現れるモンスターのレベルは以前と同様に戻ったらしい。
あくまで予測だが、アースドラゴンに追いやられて他のモンスターが下層まで上がってきたのではないかとのことだった。
玉ヶ門ダンジョンは未だ最下層に到達できていない。ダンジョンという未知の空間では何が起こるかわからないのだ。
「じゃあ本田さんの知り合いが出していた依頼も元通りに?」
「そうだな。ただ、また同じことが起こらないとも言えないし階級が低い隊員の攻略する階層に制限を掛けようかという話になっている」
まあ、毎回俺がダンジョンに潜る必要はないということか。まあ、今回採集してきた材料でしばらく持つだろう。
話も終わったと判断しソファから立ちあがると、北村支部長が茶封筒を手に取って俺に渡してきた。
「あ、伝え忘れていたんだが……梶谷君、君に本部から依頼が来ていたんだよ」
「依頼……?」
北村支部長はそう言うと茶封筒を俺に渡してきた。
早速俺は封筒の口を開け、中に入っている書類に目を通す。
栃木第一支部支部長 北村 五郎 支部長殿
東京 阿賀野ダンジョン攻略のため、本日付で下記隊員二名を東京本部へ一時異動とする。
二級隊員 岩瀬 あやか
二級隊員 梶谷 太一
以上
東京本部副本部長 吉永 三春
「君はすでに本部から目を付けられたらしい。悪いな」
「……はあああ!?」
俺の知らないところで、東京本部への異動が決まっていたらしい。