二日後、俺は三十階を優に超える巨大なビルの前に立ち尽くしていた。
「でっか……。栃木の第一支部とは大違いだな……」
これ、下から上まですべて討伐隊ギルドの持ち物らしい。そんなに必要なほど部署が多いのだろうか?
「梶谷君? 早く行くよ?」
俺が討伐隊ギルドのビルを見上げていると、先を急ごうと岩瀬さんが急かしてきた。
「あ、はい。すみません」
ったく……。なんで東京まで来てダンジョン攻略なんだよ。
俺が汗水流して働く中でセリーヌたちは東京中のスイーツを食べ歩くと意気揚々に話していた。お前らの宿泊代やら食事代やらで金が無くなりそうで怖いんだよ。
内心で悪態を付きながら、先にエントランスへ向かった岩瀬さんを追いかけた。
◇◇◇
「栃木第一支部から来た岩瀬と梶谷です。阿賀野ダンジョンの攻略のため本部に一時異動になったのですが……」
受付で岩瀬さんが職員に敬意を説明してくれていた。俺はその横でギルドの内装を見渡していた。
一言でいうなら、高級ホテルのロビー。
床はふかふかの絨毯が敷き詰められているし、設置されているソファやローテーブルは一目で高級だと分かるようなものだ。
金掛けすぎじゃない?
「梶谷君、このビルの中に隊員の部屋が用意されてるみたい。今から案内してくれるって」
「そうですか。いやあ、手続きを任せてしまってすみません」
「良いの良いの。ほら、私一応先輩だし?」
岩瀬さんはそう言って胸を張った。ちなみに岩瀬さんはスレンダーな体型なので胸が強調されることは全くない。
上機嫌な岩瀬さんと共に、先導してくれる職員についていく。
エレベーターが一階に降りてくるのを待っている時、俺は職員に聞こえないように岩瀬さんに質問した。
「岩瀬さん、他の支部もこんなに豪華絢爛って感じなんですか? うちの支部と大違いじゃないです?」
「いやいや、他の支部もうちと変わらないよ。私も正直びっくりだよ」
長年討伐隊ギルドに所属している岩瀬さんから見てもこの内装は異常らしい。
そんなことを話していると、エレベーターが到着したことを知らせる証明が淡く点滅する。
音もなく空いた扉の向こうには真っ赤な絨毯が敷き詰められた黒光りしているエレベーターが鎮座していた。
「「……」」
多分、岩瀬さんも同じことを考えているだろう。
なに? 本部って金が有り余ってるの?
俺は考えるのをやめて素直に職員についていくことにした。
エレベーター内部のボタンを見ると、最上階は四十二階のようだ。そのうち、三十五階のボタンだけが白く点灯していた。
結構上の方に部屋があるんだな。東京の景色が一望できるかもしれないな。
あっという間に三十五階に到着し、廊下を進んでいく。
どうやらこの階は隊員が生活するためのものらしい。ホテルのようにたくさん部屋が用意されており、それぞれ部屋番号も振られている。
「こちらが生活していただく部屋になります。一時所属ということなので仮設の部屋になりますがご了承ください」
そう言って職員は扉を開けた。
中に入ると、二段ベッドが置いてあるワンルームだった。一応トイレや浴槽もついているらしい。
「まあ、生活するには十分だな……。それで、この部屋はどちらが使えば良いんですか?」
「ああ……それについてなんですが、全国の支部から一時所属となる隊員が集まるのでお二人はこちらの部屋で共同生活となります」
「「……え?」」
申し訳なさそうに言った職員の言葉を、俺と岩瀬さんはしばらく理解できなかった。
さすがにそれはまずくない? 一応男女だし……。
岩瀬さんの方を見ると顔を真っ赤にして頭を抱えていた。確かに、顔が真っ赤になるほど怒りたくなる気持ちも分かる。
「さすがに男女で同じ部屋というのは……。他の支部から女性隊員って来ていないんですか?」
「それが岩瀬さんは今回招集された隊員で唯一の女性隊員なんです。さすがに初対面の男性隊員と同じ部屋にするわけにもいきませんので……」
「どちらかが近所のホテルを借りるのはダメなんでしょうか?」
「一応緊急の招集に対応できるように、ギルド内で生活するようにと副本部長から通達を受けておりますので……申し訳ありませんがご理解ください」
そう言うと職員は逃げるように部屋を出ていってしまった。
俺と岩瀬さんは職員が出ていったドアを見つめてその場に立ち尽くすしかなかった。