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第26話

「乾杯ー」


 俺と岩瀬さんの持ったタンブラーがコツン、と軽い音を立てた。

 今回俺が持ってきた酒は度数の高いものばかりだったが、水割りなら意外と飲めると判明したので岩瀬さんはウイスキーの水割りだ。


「しかし岩瀬さんがウイスキーも飲めるって意外でしたよ」


「自分でもびっくりだよ。でもあまりお酒に強くないから飲みすぎないようにしないと」


 そうして世間話をしているうちに、栃木第一支部の話になった。


「ところで北村支部長とは付き合いが長いんですか? ほら、俺が討伐隊に入るか入らないかみたいな話をしてた時、岩瀬さんのことをお前って呼んでたし」


「うん。私が討伐隊に入隊したのが高校を卒業してすぐで、その時からお世話になってるんだよね」


 その当時からすでに支部長だったそうだが、今よりも隊員不足が深刻で北村支部長自ら依頼を受け現場に出ることが多かったらしい。


「あれでも一応一級隊員だからね。昔は隊員も少なかったから支部長が新人の教育も担当してたんだよ?」


「そうなんですか。じゃあ今二級隊員の人は支部長に鍛えてもらったんですか?」


「ほとんどそうだね。中にはもう一級隊員になって本部に所属している人もいるけどね。……梶谷君みたいにいきなり二級隊員になるなんて前代未聞なんだから」


 ムスッとした顔で岩瀬さんはコップに入った水割りをごくごくと飲み干した。

 俺はすぐにウイスキーを注ぎ、水割りを作る。


「私、三年かかって二級隊員になったんだよ? 支部長からはかなり早いって褒めてもらえたのに。梶谷君って本当は何者なの? この前も何かすごい事やらかしたんでしょ?」


「多分それが原因でこの攻略に参加させられたっぽいんですよね……。他の支部の隊員の前でアースドラゴンを倒しちゃったんですよ」


「え!? アースドラゴン!?」


「最初は他の隊員達がかなり善戦してたんですけど、魔法使いの魔力切れで形勢が逆転しちゃって……仕方ないから俺がスパン、と」


 剣を振る素振りをしながらそう伝えると、岩瀬さんは頭を抱えて俯いてしまった。


「どこにアースドラゴンをスパンと切れる人がいるの……。梶谷君ってなるべく依頼を受けないって言ってなかった?」


「ちょっと他の隊員には割に合わない依頼があったんですよ」


 俺は依頼を受けることになった経緯を説明した。

 その中で東山さんの話を出すと、岩瀬さんと同期だということが判明して驚いた。


「そういえば東山さんはこの任務に招集されなかったんですね?」


「最近何か忙しそうにしてたからね。詳しくは知らないけど……あ、無くなっちゃった。おかわりもらっても良い?」


 岩瀬さんは空いたグラスをカラン、と鳴らして俺にそう尋ねてきた。

 顔を見ると、結構赤くなっているし酔っぱらっているのかもしれない。


「自分でお酒強くないって言ってたじゃないですか。明日から攻略があるんですからもうやめといた方がいいですよ」


「ええ……ウイスキー美味しかったのに……」


 そんなことを言いつつ、岩瀬さんはグラスを手に持ったままテーブルに突っ伏してしまった。

 ひとまず俺はグラスを回収して片付けを済ませることにした。


 しばらくして岩瀬さんが待つテーブルに向かうと、机に突っ伏したまま静かに寝息を立てて寝てしまっていた。


「ほら、岩瀬さん? 自分のテントに戻ってください」


「ん……? んん……」


 体を揺さぶってみたが、全然起きる気配もない。

 どうしたものか……。さすがにこのまま放置すると風邪を引いてしまうだろうし……。


「仕方ないな」


 俺は岩瀬さんをお姫様抱っこするような形でテントに運ぶことにした。

 その間も岩瀬さんはずっと寝息を立てている。どうやら完全に眠っているようだ。


 岩瀬さんの一人用のテントなので中はかなり狭い。

 かなり苦戦しつつもなんとか岩瀬さんを横にすることが出来た。俺は近くにあった毛布を岩瀬さんに掛けた。


「……梶谷君」


「あ、起こしちゃいました? すみません、テーブルでそのまま寝ちゃってたんでテントまで運ばせてもらいました。……セクハラとかで訴えないで下さいよ?」


「大丈夫だよ。……隣で寝ていく?」


 岩瀬さんはニヤニヤしながら自分の横をポンポンと叩いた。

 どうやらかなり酔っぱらっているらしい。


「飲みすぎですよ。明日までにちゃんとお酒を抜いといてくださいね」


 俺はそう言って逃げるようにテントから出た。


 体が火照っているのは岩瀬さんを運んで疲れたからなのか、お酒を飲みすぎたのか分からなかったが、俺も翌日に備えてすぐに寝ることにした。

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